■ YES or はい の選択

1ヶ月前、彼はクマの姿をしたおかしな人間のような生き物と仲間を連れてこの小さな町にやってきた。レストランを経営する私にとっては、羽振りの良い客そのものだった。
彼自体はそうでもないのだけれど、とにかく仲間たちがよく食べる。特にそのクマさん(ベポって紹介された)は際限なく食べていた。おいしいおいしいとがっつく姿をみて、思わず笑みがこぼれた。

気さくな人たちで、沢山冒険の話をしてくれた。どうやら海賊団らしい。船長のローさんは億越えの賞金首だそうですごく驚いた。(これはペンギンさんという人に聞いた)


不思議と恐怖感はなかった。ローさんはあまり喋ってはくれなかったけれど、船員たちの話に耳を傾けながらお酒を飲むその人を、嫌な人だとは感じなかった。

それどころか好意を抱いてしまった。


そして現在、彼らがきて1ヶ月。
1日でこの町を出ると言っていた彼らは、未だに滞在している。
特に魅力もないこの町。長期間滞在する理由はなんなのだろうか。

毎日のように店をひいきにしてくれることは有り難いし、ずっとローさんと一緒にいれるのは嬉しいことだけれど、何か問題があったのならば力になりたい。
抱いている疑問を、今日も来てくれているベポさんにぶつけてみた。


「出航が遅れているようですけど、何か不都合なことでもあったんですか?」

「名前のご飯がおいしすぎてはなれがたいってのが不都合だね!まともなコックが船にはいないから、こんなご飯食べれなかったんだ!」

「わ、それ嬉しい。ベポさんありがとうございます」

「それに、キャプテンが気に入っちゃったから!」

「? こんな町をですか?」

「んーん!名前を…」

「ベポ、ちょっとむこうへ行ってろ。こいつに話がある」

「あ、あいあいキャプテン!」


離れて飲んでいたローさんがベポさんを押しのけ、私の目の前のカウンター席についた。

「珍しいですね、ローさんが私に話なんて。いったいどうしたんですか?」

「…名前屋、お前俺の船のコックにならねえか?」

「え、えええ!それって、海賊へのお誘いですか!」

「そうなるな」


突然すぎて、叫んでしまった。私が海賊になるなんて今までほんの少しも考えたことはなかった。

私には家族もいないし、この町に執着する理由も特にはない。でも、やっぱり海賊になるなんて突拍子もないことを受け入れることはできない。


「誘ってくれてありがとうございます。お気持ちは嬉しいです。けど、私が海賊なんて…」

「こわいか?」

「そ、そりゃこわいですよ!失礼かもしれませんが、は、犯罪者なんですよ!それに命だって…」

「もしお前がきてくれるんなら、俺がどんなことからも守ってやるよ。俺にはお前が必要だ」


思考が停止する。最後の一言はコックとして必要ってことだと思うけど、告白みたいだと感じてしまった。顔の温度が上がっていくのが自分でもわかる。私のバカ!必要って、そういう意味じゃないから!

頭ではわかっているのに、妙に照れてしまう。


「そ、そこまで言われたら断れないっていうか…でもこの町にはもっと優秀なコックが…」

「お前がいいんだ」

「ろ、ローさん!そんな告白みたいな言い方ずるいです!」

「…そうとらえてもらっても構わない」

「えっ…それって…」

「1ヶ月もいたってのに、鈍感な女だ」


ペンギンさんやシャチさんがニヤニヤとこっちをみている。それがこの町に滞在していた意味だったなんて。


「あの、私のこと好き…なんですか?」

「…それをわざわざきくか?」

「えっと…はっきり言っていただけると嬉しいというか…」


呆れたようにローさんが笑った。初めてみる笑顔な気がした。


「いいか名前、俺はお前が好きだ。ずっと守るから俺たちの船に乗れ」


この人は本当にずるい。こんな誘い断れるわけないじゃない。
こぼれそうになる涙をこらえて、私はただ頷いた。



YES or はい の選択

船員さんたちの歓喜の声が響いた