■ You take my breath away.

格差婚。なんて言われた。私だって彼の強さは知っていたけれど、本当に火影になるなんて思っても見なかった。そもそも火影になるずーーーっと前から付き合っているのだから、結婚したところで今更格差があるなんて言わないでよ。
でもこの容姿端麗さに加え火影なんて、そりゃ言いたくなる気持ちもわからないでもないけどさ。


「名前、愛しているよ」


言われている私は気にしているのに、当の本人はこの調子。誰がなにを言おうと真っ直ぐに私を愛してくれている。今だって仕事中なのに、私の視線を感じた瞬間にこうやって優しい笑顔で愛の言葉を告げてくれる。


「カカシ、私はあなたと結婚できて本当によかった。とっても幸せ。でもね、中には私よりももっとふさわしい相手がいたのにって考えの人たちがいるのも事実。色んな名のあるくノ一や大名様の娘さんがたくさん候補の中にいたってきくし…なんだかなにもできない自分が情けなくなっちゃって」
「なに言ってるの?俺こそ名前無しではなにもできないよ。火影だって、君のサポートなしではとてもやっていけない」


だからそんなくだらないこと考えないでいーの。
そう言いニコッと笑った彼は改めて机の上に山盛りに積んである書類の一つに目を落とした。

彼がそう言うのであれば、ここで私がつっこんで話すのも無粋だ。私も大人しく書類の処理にとりかかることにする。私にできることといえばそれくらい。事務作業だけ。一応忍であるとは言っても火影直轄になれるほどの実力はない。
火影夫人は休んでいてくださいと言ってくれる部下も大勢いるけど、少しでもカカシのそばにいたい私は事務作業要員として火影室に居座らせてもらっているのだ。


時計の針は12時を越えた。ずいぶん前に部下を帰宅させたにもかかわらず、未だにカカシは資料を見ている。私にできる仕事は今日はもうない。軽食でも作ってこようか。


「カカシ、なにか軽く食べようか。作ってくるから少し待っててね」
「ん?あーもうこんな時間か。それじゃあ今日は終わりにしよう。さて名前」


ちょいちょいと手招きをされる。なにか確認したいことでもあるのだろうか。


「何か問題でもあった?って、わ!」
「んー落ち着く。仕事終わりにはやっぱりこれだね」


近寄った途端腕を引き寄せられ座っているカカシに抱きかかえられた。私の胸元にはカカシの頭がある。ふわふわの銀髪を右手で撫でてみた。香水なんてつけてないはずなのにとてもいい香りがする。それはまるで媚薬みたいに私の心拍数を上げた。

「神聖な火影室でこんなことしてちゃだめでしょ?」
「火影室だから抱きしめるだけにしてるの。ここが家ならとっくに始めちゃってるよ」


なにを?とは聞かないでおいた。
抱きしめていただけのはずの彼の手が、私の腰をいやらしく撫でる。

「…あなたはそうやってからかってくるけど、私だってそういう気持ちになっちゃうんだよ。中途半端なことしないで」
「そういう気持ちって?」


ニコニコと笑う彼は口元のマスクを下ろし、口を寄せてきた。私は彼の口元のホクロがたまらなく好き。妖艶で、どこかあどけなくて。

口付けをされると、私だってもう我慢ならない。


「カカシ、早く帰ろっか」
「そうだねそろそろ名前もその気になってきたみたいだし」
「…なに言ってんのよバカ」


ごめーんね、なんて軽い口調で謝られ、帰宅の準備をする。
外は月で照らされ、歩くのにはちょうどいい明るさだった。
いつものように差し出してくれるカカシの手を取り、2人歩幅を合わせて歩く。年甲斐にもなくいちゃついて里を歩く私たちは、里のみんなにとってはもう慣れっこかもしれない。

そうそう、さっきの話の続きなんだけどね。格差婚だなんだって言ってきたのはカカシに結婚を断られた女性たち。
里のみんなはそんな女性たちを気にもとめず、私のことを認めてくれている。5代目火影の綱手様が私たちの結婚を盛大に祝ってくれたからっていうのも大きい。感謝してもしきれないくらいだ。

私がカカシの隣に居られるのは運が良かったからっていうのと、周りのサポートがあったから。そして何より、カカシがまっすぐな愛で包み続けてくれたから。
すぐ負い目を感じちゃう悪い癖は早く治したい。もうそろそろカカシの妻として自信を持ってもいいはずだ。

「カカシ」
「どうしたの?」
「あなたと結婚できて本当によかったよ。愛してる」
「なに、今日はやけに言うね。俺だって名前に負けないくらい愛してるよ。あとごめん。もう歩いて帰るほど我慢できないかも」
「え?なに、うわ!」

軽々と抱えられ、カカシが猛スピードで家へ向かう。あまりにも速すぎて言葉を発することもできない。
我慢できないって、そういうことか…。
きっと家に着いたとたんベッドに連れていかれ、優しく、でも激しく求められるんだろうな。

これから行われるであろうことに少しの期待と恥ずかしさを感じ、私はカカシの身体をぎゅっと強く握りしめた。

家に着くまで、あと少し。

『You take my breath away.』