■ おいしいご飯と、それから

「あ」
「お、名前じゃねーか。お疲れさん。仕事帰りか?」
「うん、少し早めにあがれてね。私明日休みだからこの後泊まりに行ってもいい?」
「神楽も喜ぶんじゃね」
「よかった。じゃあ準備してから家に行くね。よければ晩御飯作るけど、何か食べたいものある?あ、秋刀魚安い」
「じゃあ秋刀魚の塩焼き。あとはなんでもいい」
「旬のものを食べるのはいいことだ。今日新八くんは?」
「いる。4人前の食材買って帰るわ。お前何も買わなくていいぞ」
「あら、ありがとう。お願いするね」


フラッと立ち寄ったスーパーで銀時に会った。
依頼を通して出会った彼とはもう付き合って数年。万事屋のメンバーである新八くんや神楽ちゃんとも仲良くさせてもらっている。
どうしてあんな人と付き合うの?なんて言われちゃう事もあるけど、私にはもう彼以外考えられない。
ぶっきらぼうで基本無気力だけど、あんなにも芯の通ったカッコいい男はいない。

もう新鮮味なんてものはないけれど、私にとって今の関係は心地よく、とても手放す気になんてなれない。

なんてことを考えながら泊まりの準備をし、銀時達の待つ万事屋へと足を運んだ。


* * *


「ごちそーさま!」
「おそまつさまでした」
「いつも通り、本当に美味しかったです」
「名前の料理ならいくらでも食べられるネ」

私が作った夕飯をペロリと平らげた神楽ちゃんと新八くんが嬉しいことを言ってくれた。こんな風に感謝を伝えられるなら作り甲斐もあるってもので。

私はいい気分で後片付けに入る。食器を下げるのはいつも銀時の役目。かちゃかちゃと音を立てながらシンクに食器が積み重ねられていく。
今日は俺が洗い物までするわ、という銀時に任せる事にし、私はその隣でお登勢さんからもらった林檎をカットする。

シャリシャリという皮剥きの音に重なる神楽ちゃんと新八くんの笑い声。おそらくリビングでテレビでもみているのだろう。あ、今日お笑いの特番があるんだったっけ。
普段通りに過ぎていく時間がとても愛おしい。

「ねえ」
「あ?」
「いつもありがと」
「……なんだよ急に」

そっけない言葉で返されたけど、銀時は肘を使い嬉しそうに私の脇腹をつつく。
林檎をお皿に並べ、リビングへ運ぼうとすると、今度は銀時が「なあ」と声をかけてきた。

「なあに?」
「ん」

銀時が唇を少し尖らせる。
洗い物をする手は止めず、下を向いているが恐らくこれはキスをしろということなのだろう。

「珍しいね、神楽ちゃんたちが来たらどうするの?」
「あいつらあの番組楽しみにしてたから来ねーだろ」

そんな銀時の言葉に嬉しくなった私は両手を銀時の頬に添え私側に向かせ、触れるだけの簡単なキスをした。

「なんかこういうのって久々じゃない?」
「キスくらいいつもしてんじゃん」
「そうじゃなくて、こう、ドキドキというか、新鮮な感じというか」
「なんだよそれ」

フッと笑う銀時。ああやっぱり私の彼ってかっこいい。
洗い物を終えた銀時は手を拭き、右手で私の頬をぎゅっと掴んだ。

「俺はいつでもお前にドキドキしてんだけど」

こちらを挑発するようにニヤリと笑った。
私は自分の顔が段々と熱くなっていくのを感じ、思わず目が泳ぐ。私たちの間に新鮮味なんてもうないと思っていたけれど、今の私の鼓動が物語っている。私はこの男、銀時に今でもときめいてしまう程惚れ込んでいるのだ。
その事実を痛感させられた私は何も返すことができなかった。

「お前さ、俺に対してもうドキドキしねーの?」
「……現在進行形でしてる」
「そりゃよかった」

満足そうに私の頬を離した銀時はお皿の林檎を1つ手に取りシャクっといい音をたててかじる。

「お、甘くてうまい」
「お登勢さんにお礼言わなきゃね」
「言っとく。……あと晩飯も美味かったぞ」
「ふふ、久々に感想言ってくれたね」
「俺が言う前に神楽か新八が言っちまうからな。いつも美味いって思ってる」

今日はやけに銀時が素直だ。でも嬉しいことに変わりはない。私は鼻歌を歌いながらリビングへと向かう。

「わ、林檎!」
「お登勢さんがくれたんだよ。召し上がれ」
「名前さんありがとうございます」

神楽ちゃんと新八くんに続いて私も林檎を頬張る。爽やかな甘さがとても美味しい。思わず笑顔で食べていると、銀時が私をみて笑った。

「お前本当美味そうに食うよな」
「名前のいいとこアル。見てると倍美味しくなるような気がするネ」
「あ、それ僕も思ってました」

急に3人にそう言われた私はちょっぴり恥ずかしくなってしまった。
そんなに顔に出ていたなんて。

「あーあ、名前さんみたいな彼女がいる銀さんが羨ましいですよ」

新八くんが微笑みながら銀時を見る。

「銀ちゃんなんかと何年も付き合ってよく飽きないアルな」
「飽きるなんてことは今後もなさそうだけどね。今も変わらず好きだし」
「でもこのまま付き合い続けるのはどうなんだろうな」

突然そう発した銀時に、思わず私たちは固まった。

「は!?なにそれ銀ちゃん!いずれ名前と別れるってこと!?」
「そ、そんなの僕たちが許しませんよ!!」

私はさっきまでの時間はなんだったんだろうとオロオロするしかなく、言葉も出なかった。

「は?ちげーよお前ら早とちりすんなって」
「だったらどういうことですか!」
「なんつーか、名前もいい年頃だろ?何年も付き合ってきてお互いの良いとこ悪いとこ把握できたし、そろそろ次の段階にいってもいいかなと」

銀時は不意に立ち上がり自分の机の引き出しから何かを取り出し、また私の前に戻ってきた。


「見た目は俺好み、仕事にも一生懸命だし裏表のねえ性格。飯はうめーし、いつまでも俺のことを好きって言ってくれる。名前、お前は最高の女だ」


銀時が手に持つ小さくて綺麗な箱の中身を察した新八くんと神楽ちゃんが顔を見合わせ飛び跳ねる。


「なあ名前、俺と、」


私の瞳から涙が流れ落ちた。

おいしいご飯と、それから