■ 嗚呼やっぱり君が好き

※嗚呼〜シリーズ 3話目


名前と付き合ってから今日で3週間。何故か俺たちの関係は前とほとんど変わらないでいる。
今のこの状況だってそうだ。今日何度目かのデートに名前を誘ってみた。目標を自分の中で密かに立てた俺は柄にもなく楽しみにしていたんだ。それなのに、名前は数十メートル後ろで俺の後をつけているだけなのだ。

俺たちは付き合っている。だから堂々と俺の隣に居りゃあいい。
そもそも周りをちょろちょろされんのが目障りだから隣に居ろって告白しただろうが。それも忘れてしまったのか、未だに名前は俺のストーカーのままだ。

しかし俺としちゃ面白くない。
ようやく好きだと自覚できた女なのだ。やはり恋人として関わっていきたい。

「ハァ…どーしろって言うんだよ……」
「シカマル!?何か嫌なことでもあったの!?」

ため息をつき呟いた俺の声が聞こえたのか、名前が瞬身で俺の隣に現れた。
ニヤリ、俺はこうも作戦がうまくいくとはなと笑いながら名前の腕を掴んだ。
何が起こったのかわからないのか、名前は掴まれた腕を見ながらしどろもどろしている。

「やっと捕まえた。名前、お前俺の彼女なんだからわざわざストーカーなんてする必要ねェだろ」

ボンッと顔を赤くし今にも泣きそうな顔の名前が地面にへたり込んだ。
道の真ん中でそんなことするもんだから周りの奴らからの視線が痛い。これじゃまるで俺が悪いことしてるみてーじゃねェか!
とりあえず道の端に連れて行き、未だ立ち上がれないでいる名前に合わせて俺もしゃがみこむ。

「名前、大丈夫か?」
「ご、ごごめんシカマル…その、分かってはいたんだけどね、シカマルに彼女だなんて改めて言われたから…それにシカマルがかっこよすぎて顔もまともに見られないよ…」


なるほど、そういうことか。
俺に付き纏ってた頃も、こいつは俺と直接接触するのを避けていた節がある。恥ずかしいからとは言っていたが、付き合っても尚その気持ちは変わっていなかったらしい。

ーーどうしたもんか。

俺の顔も見られないっつーなら、カカシさんみてェにマスクでもしてみるか?いや、それじゃ意味がない。俺は恋人らしいことがしたいのに、マスクなんてしていたらできないではないか。

そう、つまり今日の俺の目標はこのデートで名前とキスをすることなのだ。
3週間も経ったんだ、そのくらい前進してもいいはず。

「……と、思ったんだがな…」
「シカマル……?」
「こっちの話だ」

改めて、どうしたもんか。
なにも無理矢理そんなことがしたい訳ではない。名前の気持ちが大切だ。俺との関係に慣れるのを待つべきなのはもちろん分かっている。

しかし正直なところ、残念ながら俺はもうこいつの事が本気で好きだし、こいつに触れたい。
情けないことにいつまで俺の理性が保つかもわからない。

でも!だから!俺は気を遣って2人きりになるシチュエーションをあえて避けてきたんだ!
自分がこんなにも理性的でないとは思ってもみなかった。名前の事になると冷静さを失ってしまう。

冷静さを取り戻せ、落ち着くんだ。

そう自分に言い聞かせても、目の前で俺を見つめる名前を見て、俺の口は勝手に動いていた。


「なあ名前、俺ン家来ねェか?」


* * *


「うわああああ……ここがシカマルのお部屋……シカマルの香りが満ちている……このまま香水にしたい……」


からかう親父や母さんから逃げるように俺の部屋に名前を連れて行くと、さっきまでの可愛らしさは何処へやら、いつもの(少し、いやだいぶキモい)名前に戻った。

親父達が居るとはいえ、部屋に入っちまえば2人きりだ。
俺は激しくなる動悸を抑えようと、普段通り名前に話しかける。


「男の部屋なんて面白くねーだろ?つか、なんか恥ずかしいからあんまりキョロキョロすんなよ」
「シカマルが普段過ごしてるって考えるだけでここはもう最高のパワースポット。拝みたい」
「拝むな」

ようやく成り立った会話がこんなわけわからんものでも嬉しく感じてしまう。
重症だな。俺は名前を座布団に座らせ、あえてテーブルを挟まず名前の隣に自分も座った。

「ひい!!と、隣に座るんだね…」
「悪い?」
「い、いや悪くはないです!ただその、心臓がもたないと言いますか!」

俺を見ないようにする名前が面白くって、俺は名前の右手を掴んだ。

「心臓もたないのは俺も同じ。感じンだろ?」
「し、シカマル…」

その右手を俺の左胸に持っていくと、トクン、トクンと早くなって行く鼓動を感じたのか、名前がまた顔を赤くする。

「緊張してんのはお前だけじゃねーの」

俺がそう言うと、名前がパッと俺の目を見た。
久々に合った視線。名前の瞳に映る自分を見て、何故だかどうしようもなく名前を愛おしく感じた。

「名前、恥ずかしいなら目瞑ってろ」

そっと名前の顎を掴み、自分の顔を近付ける。
あと数センチで唇が重なるその時、名前が「ちょっと待って!」と叫んだ。

流石に急ぎ過ぎたか…。
冷静さを取り戻せなんて思ってたくせに結局こうなってしまった。

「……悪りぃ、もうしねェよ」
「そ、そうじゃないの!そうじゃなくて、ね…その、私ちゃんと気持ち伝えてなかったと思って…」
「気持ち?」

決心したかのように名前が顔を上げる。

「わ、私ずっとシカマルのことが好きだった。かっこよくて、賢くて、でも驕ることのない、本当の強さを持ったシカマルが大好きなの!付き纏うくせに肝心な時シカマルから逃げててごめんなさい…もう恥ずかしいなんて言わないでシカマルに相応しい彼女になるから!だから、だからこれからも……っ!」


それ以上聴く必要はなかった。というより、聴ききれなかった。
気付けば俺は名前にキスしていた。しかもやったこともねーのに、舌を使ったキス。
もう自分を抑えられなかった。名前を好きだという気持ちを、ぶつけてしまいたかった。

「っシカ、マル…」
「名前……好きだ…」
「私も、私も大好き…っ」

いつもなら出てくる頭の中のシノも空気を読んだのか、一向に現れない。
これ幸いとばかりに俺と名前は2人の時間を楽しんだ。

「なあ名前、これ以上のことしたらダメか?」
「うわあああわわあわあわ!これ以上って!シカマル!そんなの!わああああ!」
「フッ…なに慌ててんだよ。ジョーダン。お楽しみは後に取っとかねーとな。いつになるかなー楽しみ楽しみ」
「ひええええええ…さっきの撤回…恥ずかしいのは一生変わらん…」
「なんだそれ、一生一緒に居ようっていう逆プロポーズのつもりか?」
「ぐはぁ…シカマル…いじめないで…」


とうとう倒れ込んだ名前を見て、思わず笑ってしまう。
こいつといると退屈することがなさそうだ。今後待ち構えているであろう最高な日々を想い、俺は柄にもなく胸が高鳴った。


嗚呼やっぱり君が好き
こんな想い抱いちまった俺の負けだな