■ 嗚呼素晴らしきこの想い

※ヒロインが変態。



「であるからして、今回の任務成功につきましてはぐへへ…シカマル…フヒヒ…の機転の効いた作戦が…」
「ちーす」
「シカマル遅い!私に対する任務結果の迅速な報告は義務なんだぞ!責任者のあんたが遅いから代わりに名前がする羽目になったじゃな「ぎゃあああああシカマルううう!今日も起きて息してくれてありがとうううう!」

五代目火影である綱手の言葉は今まで真面目に(?)結果報告をしていたはずの名前により遮られた。この一連の流れでわかるようにこの優秀なくノ一、名前は相当なシカマル馬鹿なのである。
綱手は慣れたものでやれやれと頭を振り、任務ご苦労もうさがれと名前とシカマルを火影室から追い出した。


* * *

さて、今日は寝坊はしたが名前のおかげで予定より早く報告もすんだしおまけに任務もない。帰って寝るか。少し離れたところでギラギラした目で俺を文字通り穴があくほど見つめてくる奴がいるが関係ない。俺は眠い、まだ眠いんだ。

「シシシシカマル!?デートしようデート!ハ!ごめんこんな私なんかがさしでがましい!」
「本当にさしでがましい。俺は帰って寝る」
「そんなああああシカマルに褒めて貰おうと思って火影様のところに1人寂しく行ったのにいい!」

確かに自分の業務を怠ったのは俺で、そのカバーをしてくれた名前に礼の1つでもしなければバチが当たるかもしれない。なんだかんだこいつにはいつも助けられている。いつもうざいけど。

「…あー、確かに今日は助かった。甘栗甘でもいくか。奢る」
「ひええええ!奢るのは私が!この私が!シカマルのお口に運ぶ食材は私のお金で提供させてください!」
「…やべぇ」
「ありがたきお言葉!!」

甘栗甘に移動している最中も隙あらば俺の髪の毛を抜いて(抜かれてもほんの少しの痛みも感じないのが逆にきもい)懐に入れようとするこの優秀なくノ一名前は何故だかわからないがずっと俺のことを好きだと伝えてくる。普通に可愛く伝えられないもんかね。特殊すぎんだろ愛情表現。
俺がいくらうざがってもキモがってもやめないのは最早尊敬の域に値する。

こんだけ変態的ストーカー行為を繰り返すくせに、決して俺の隣を歩こうとはしない。恐れ多いらしい。意味わからん。

そうこうしているうちに甘栗甘についた。店員に2人で、と告げると名前は「1人と1人です!」なんて謎の言葉を発して店内に逃げて行った。店員困ってるし俺も困る。恐らく俺と同じテーブルに着くのが嫌なんだろう。妙なところで恥ずかしがる名前の思考は数年来の付き合いであっても理解できるものではない。
困り続けている店員にアレ俺の連れなんでテーブル1つで大丈夫ですと伝え、どこかに座っているであろう名前を探した。


「…お前もっとわかりやすいところに座れ」
「ああわわわわシカマル!私と同じ席に座るなんてダメだよ!いつも言ってるでしょ!」
「俺だっていつも付きまとうなって言ってるのにきかねぇだろ」
「それとこれとは話が別!私のライフワークに口出さないで!」
「お前…自分の言ってることわかってんのか…」


一緒に座るのも少し憚れるが今日はお礼だ、仕方なく名前の前の席に座った。俺が居ることを受け入れることにしたのか、名前は何も言わずモジモジと大人しくなった。

こいつこうして見れば実はいい女だし、なにより忍として本当に優秀なんだよな…。何が楽しくて俺のストーカーなんか。なまじ優秀なばかりにストーカーされても気付かねぇことが多いのもムカつくし。

いつまでも黙っている名前のかわりに店員を呼び団子の盛り合わせを頼んだ。名前はここの団子が好きだから。ってなんで俺そんな余計な情報覚えてんだか。こいつがいつもギャーギャー俺の周りで喚くせいでこいつ自身のことも知っちまってる自分にイラッとした。


「そういえばシカマル甘いもの食べないでしょ?ここ鯖の味噌煮ないよ?」
「(なんでシンプルに好物知ってんだよ)ああいいよ。お前へのお礼だっつってんだろ。魚なんていつでも食えるし」
「いや、そんなわけには…。そうだちょっくら釣ってきますんで!」
「そうだじゃねぇいらねぇつってんだろ!海なんて近くにねぇよ!どこまで行くつもりだ!アホか!」
「はああん…アホか!いただきましたぁ…」


俺の罵倒に恍惚の表情を浮かべる名前にドン引きしていると注文した団子が運ばれてきた。
わあっと喜び食べていいの?と尋ねてくる名前。それに対してどうぞ、と勧めるやいなやいただきます!と元気よく手を合わせて食べ始めた。

…こいつほんと美味しそうに物食べるんだよな。黙ってれば顔は整ってるし俺が関わっていない時の落ち着いた様子は男どもからも人気が高い。残念、そうこいつは本当に残念なんだ。

食べ続ける名前を見つめながらこいつ残念だななんて失礼極まりないことを考えている俺の表情に気付いたのか、名前はおずおずと口を開いた。

「あの…本当はシカマルもお団子食べたい?あ、それとももしかしてこの私が食べ終わった後の串が欲しかったとか…?私はいいよ恥ずかしいことじゃないよ私もシカマルが使ったあとの割り箸とか持「やめろそれ以上話すな」

鳥肌が立つようなことをさも何でもないことのように話すこいつといると調子が狂う。

…いつの間にか名前の口の右端にみたらしのタレが付いている。そそっかしいな本当に。


「おい、タレついてる」
「え、どこ?」
「ココ」

とんとん、と俺の唇の右を指して言うが、名前は自分の左の唇を拭う。あーそんなんじゃ取れねぇって。逆だ逆。

「え、シカ、マル…?」

気付けば手を伸ばして名前の唇をぬぐっていた。やべぇ、口で言ってるつもりだったのに行動に移してた。うっかり、いやうっかりでこんなことあるのかよ。

「わ、わりい!」

パッと手を離したが、何故か俺の顔は熱くてたまらなかった。指で触れた唇が柔らかかったから…なんて、これじゃ俺の方が変態じゃねえか!
アイツにももっとちゃんと謝らなければ!

「名前、マジで悪かっ、た…」

名前の顔を見なければ良かったと後悔した。「何故なら名前の顔は茹で上がるんじゃないかってくらい赤く赤く、目は潤んでいて思わず本能的に可愛いと思ってしまったからだ」なんて頭の中でシノが呟いたような気がした。

あークソ、本当に残念だこいつ。下手にストーカーなんてして来なけりゃ、素直に俺も好きだって伝えられるのに。…ん?は?俺も好きだって伝えられるのに?いややばいだろ。名前のあんな顔初めて見たからって頭ん中ぐちゃぐちゃになってやがる。今考えているのはほんの少しの気の迷い。そうに決まってる。だから早くこの顔の熱さと胸の高鳴り、実は俺も好きなのかもしれないなんて馬鹿な考えよ、消えて無くなってくれ。


嗚呼素晴らしきこの想い
あと5分もすればいつも通りの関係性に戻れる、絶対に戻れる。