■ 嗚呼とうとう俺の負け

※嗚呼素晴らしきこの想い の続編


名前と甘栗甘に行ったあの日以来、どうも俺は様子がおかしい。自分で分かるなんてよっぽどだ。
相変わらずストーカー行為を繰り返す名前にも段々と嫌な気持ちを抱かなくなってきている。それどころかアイツの気配を全く感じない日はなんだか物足りないくらいで。

いったい俺はどうしてしまったと言うのだろうか。

「それって名前のこと好きなんじゃねーの?」
「ぶふっ」
「うわ!シカマルってば汚ねーなあ!」

非番だった俺はナルトに誘われ一楽に来ており、最近の自分の変化をナルトに話した。
そして注文したラーメンが出来上がり、それを食っていたさなかナルトがそんなこと言うもんだから麺が気管に入ってむせてしまった。

「お前がいきなりそんなこと言うからだろ!」
「そんなことって…でもそうとしか思えねーってばよ。あんだけ名前にうざいとかきもいとか言ってた癖によー」
「…俺そんな言ってたか?」
「言ってた」

まあ確かに言ってたか。でも普通そう思うだろ。一緒に任務に行く時なんか俺の残り香がするからって俺の背後をべったりキープするような奴なんだぞ。
いや流石にそれは今考えてもキモいわ。

…そう思うのに何で今左後ろから感じた名前の気配にホッとしてしまったんだ。

「なあナルト」
「…んー、うん。俺も今気付いたってばよ。アイツってばいつから居たんだ?」
「…わかんねぇ」

ナルトの野生の勘をもってしてもようやく名前の気配に気付けるレベルなのだ。なんて恐ろしい奴。優秀にも程があんだろ。
しかし一度気付けば後はもうびしびしと視線を感じる。俺は急いでラーメンを食べ終えると、まだ食べたがるナルトを連れて一楽を後にした。

そのまま無理矢理ナルトを引きずってひらけた修行場まで行くと、隠れる場所がなくなった名前がようやく俺たちの前に姿をあらわした。


「し、ししシカマルこんにちは!き、気付かれちゃってたんだね…」
「…ったく、休日くらいゆっくりさせてくれよ」
「え、シカマルってばそんなこと言っちゃってさっきは名前の気配がないと物足りな、ぐふっ!」


その言葉に焦った俺は思わずナルトの腹を殴ってしまった。やべ、流石に悪りぃとは思う。


「え、ちょ、今ナルトなんて言ったの!?」
「いってーなシカマル!お前何の為に俺のこと連れて来たんだ!お前のかわりに名前に気持ち伝えて貰おうとしてんじゃなかったのかってばよ!」


…は?ナルトに俺のかわりに?
いや、ていうか何の気持ちを伝えるって言うんだよ。
やばい頭が回らない。思考のポーズでもするか?なんてバカか俺は。落ち着け、とりあえず落ち着くんだ。


「…気持ちって?ごめん、私もバカではないからナルトが言おうとしてたことなんとなくわかるんだけど…」
「…あーもう!なんで黙ってんだよシカマル!」
「うるせぇ!俺も今よくわかってねぇんだよ!」


確かになんで俺はここまでナルトを連れて来たんだ。
俺のそんな様子にしびれを切らしたのか、ナルトが名前の元へ駆け寄って行った。

「なぁ名前ーなんであんな奴のこと好きなんだ?お前割とモテてるのに変な奴だってばよ」
「え、私モテてるの?」
「知らねーの?」
「うん、知らなかった!なんか嬉しい気もするね」

へらっと笑いながら答える名前を見て、胸のあたりがやけにモヤモヤした。


『嬉しいなんて言うんじゃねえよ、お前は俺が好きなんだろ』


なんて、散々名前を邪険にしときながら何考えてんだ。

「え、シカマル…?」
「あ?なんだよ」
「ひゃー!とうとう言ったなぁシカマル!」
「は?」

名前はやけに顔を赤くしてるしナルトは飛び跳ねながらニヤニヤと俺を見ている。
まさか、まさかな。

「ナルト、俺なんか言ったか…?」
「何言ってんだよ、嬉しいなんて言うんじゃねぇ!なんてな!お前もたまにはやるなー!」
「…はあ!?」

最悪だ!!また俺はバカなことを!!
俺は甘栗甘の時からやはりどうも変だ!あん時は名前の口に付いてた団子のタレの位置を声に出したつもりだったのに実は手が動いてて拭っちまってたりよ!
そして今度は考えてただけのつもりの言葉を声に出してた?クソ、俺らしくもねぇ、てか意味わかんねえ!

「シ、シカマル…ごご、ごめんなさい!私はあなた一筋です!他の人に好かれても嬉しくなんかないです!」
「え、あ、いや…名前悪りぃ、俺は、」
「……へへ、なんか最近嬉しい事が立て続けに起こるなぁ。ありがとうシカマル、私のこと本当はうざったいよね」

そう言った名前の目は少し潤んでいた。それは嬉しさからなのか辛さからなのか俺には分からなかった。でも何故だか俺の気持ちは次第に落ち着いていった。

「…いつもうぜぇっては言ってるだろ」
「うん、そうだよね…ごめんね、私不器用だからこんな伝え方しかできなくて…」
「不器用とかの話じゃねぇだろ…」
「あはは…」

弱々しく笑った名前の背中をナルトがさすっている。なんだあいつ、変に気なんてつかいやがって。

……それにそいつに触んじゃねーよ。


「あーーーー!!めんどくせぇ!!」


そう叫んだ俺にナルトと名前がビクッと反応した。
でもようやくわかったんだ。俺がどうしてイライラしてるのか。どうしていつもと様子が違うのか。


「おい名前」
「は、はい!」
「もう俺のこと付け回したりするんじゃねー。目障りなんだよ」
「あ、う、うん…わかった、今までごめんなさいシカマル…」

名前は目にいっぱい涙を浮かべている。
ナルトはそれに気付き俺に詰め寄ってきた。

「シカマル!何もそんな言い方しなくても…!」
「…だから、今度からは俺の隣に堂々と居ろってんだ」
「へ?」

今にも殴りかかってきそうだったナルトが素っ頓狂な顔で俺を見ている。
それは名前も同じだった。

「はぁ…俺の負けだよ。よかったな名前。俺もお前のこと好きになっちまってるみてーだ」
「……そ、そんな…ひえええ…」

名前はへたっと地面に座り込んだ。
そんな様子を見て今更俺の顔も熱くなってきた。ダセェ、こんな姿誰にも見られたくない。

「う、うわぁシカマル…お前なかなかカッケェ告白するな…」
「うるせえ!てかなんでお前まで照れてんだよ!」
「だ、だってよ…へへ…よかったな名前!」


名前はようやく顔をあげた。甘栗甘の時と同じだ。びっくりするくらい赤い顔に潤んだ瞳はドキッとするくらいに可愛い。


「…つーわけでよ、ストーカーはやめて彼女に昇格してみねぇか?」
「は、はははい…よろしくお願いします…!」


名前は次は満面の笑みでそう答えてくれた。
だめだ、俺もうマジでこいつのこと好きみたいだ。「何故ならシカマルの心臓は痛いくらい鳴り続け今すぐにでも名前に触れてしまいたいと思ったからだ」なんて相変わらず頭の中にいるシノにハイハイと返事をし俺は名前に手を差し出した。


嗚呼とうとう俺の負け
こうなったからには離してやらねぇからな