■ 卒業
もうすぐ受験だとかもうすぐ卒業だとか。
そんな単語を聞くたびに興味のないフリをした。興味のないフリしか出来なかった。
-3年がいなくなる-
考えると苦しかった。
テニスの3年レギュラーが抜けるのはだいぶ痛手だ。
竜崎先生、どんな気持ちなんだろう。
「リョーマ」
「名前先輩?」
部活中、水道にいたら突然の呼び声。
「どうしたんスか」
「えっと…忘れ物、かな」
テニス部のマネージャーでもないし女テニに入ってもなかったこの人。
妙に話した記憶があるのは、この人が3年レギュラーと仲が良かったからだ。
しょっちゅうコート来てたし。英二先輩や不二先輩なんて特に仲良かった。同じクラスだしね。
「こんなとこに忘れ物なんてあるわけないでしょ。テニス部でもないのに」
「え、あ、いやー…」
「もしかして告白とかっすか」
「……」
「ふーん。図星。テニス部の人?」
「まぁ…はい…。そうです」
いつも明るくて、見てるだけで笑顔になるような雰囲気を持った人。
いつも優しくしてくれた人。
いいところしか思いつかない。きっと告白はうまくいく。
「でも3年の人達ここにはいないから。別のとこ探したらどうっスか」
「え?あはは。わたし3年生なんて探してないよ。第一、英二達とはさっき別れたばかりだし」
「は?」
それじゃあ2年?海堂先輩とか。いや、桃先輩かな。
「桃先輩は部室。海堂先輩はコート」
「え、ちょっと…」
「なに?早く練習行きたいんだけど」
もう用はないだろ。早く告白しに行っちゃえよ。
言いたいけど言えない。本当は練習なんかよりこの人といたいから。
今なら名前先輩を独り占め
って俺なに考えてんだろ。
「リョーマ」
「…どうしたんスか」
「忘れてる」
「なにを」
「リョーマもテニス部なんだってこと」
「…は?」
「もう!鈍感なんだから!」
意味が分からない訳じゃない。
「先輩」
「はい」
「思わせ振りとかじゃないっスよね」
「当たり前じゃない」
勘違いじゃない。
「年下だけどいいんスか」
「年上だけどいいですか」