イルミに札束でビンタされる話

イルミ=ゾルディックに札束ビンタされる話。


わたしの父親は絵に描いたようなクズ野郎だった。仕事もせずに朝から晩まで飲んだくれて、たまに外出したかと思えばギャンブルで借金を作ってくるタイプの大馬鹿者。それだけじゃなく、母親に対して暴力も振るっていた。父の怒鳴り声がする度に怖くなってはクローゼットに隠れひたすら怒りが収まるのを震えて待っていた。
母親はそんな父に呆れ、もう耐えられないと他に男を作って何処かに行ってしまった。わたしを連れて行ってくれなかったのは再婚の邪魔になるからなんだろう。
母が居なくなってからアルコールが無くなった、ギャンブルで負けた。その怒りの対象はわたしへと向くようになったのだ。父が居る時は物音を一つ立てる事すら恐ろしくて、廊下が軋む音にも過剰に反応してしまう。寝返りを打つと古い木製のベッドが鈍い音を立てるのでその音で父を怒らせては腹を踏みつけられた。それから怖くなってはまともに寝ることすら出来ずにいた。

17回目のある夏の日。父はとてつもなく機嫌が良かった。少ない金で安い野菜を買って帰ると数名の大人の男性に囲まれた父が何処で手に入れたか分からない札束を数えながら、にったりと下品な顔でわたしを見るのだ。

「初めてお前が役に立ったよ」

それがわたしの聞いた父の、最後の言葉だった。

家にいた数人の大人に無理矢理腕を引き摺るようにして、黒塗りの高級車に乗せられるとそのまま車は走り出した。そこでわたしは父に売られたのだと気付いた。いくらクズの父親でも人身売買をするなんて事は絶対にないと思っていたのに。父は何処までもクズだった。きっと、ずっと待っていたんだわたしの身体つきが女性らしくなるのを。沈黙が流れる車内で、わたしは声を押し殺し泣いた。
連れて行かれた場所は見たことない豪邸。こんな場所で暮らしてみたいと思った事は何度もあるけど、こんな形でなんか望んではない。
一人の男がわたしの背を押し、屋敷の中へと連れて行かれる。そして、父と同い年くらいの小太りの男に出迎えられた。バスローブを見に纏ったその男はわたしを見るなり、鼻の下を伸ばして近付くとなんて可愛らしい娘なんだと尻を撫でてくる。その手付きが恐ろしくぞわりと鳥肌が立った。

「旦那様、お部屋の方はいかが致しましょう」
「私の部屋で構わん。今すぐ準備しろ」
「かしこまりました」
「君はシャワーを浴びて来なさい」

シャワーを浴びて来なさい。
その言葉が意味するのは人生経験の少ないわたしでも嫌でも理解してしまった。わたしを買ったのはこの男で、わたしは今から抱かれるのだと。
バスルームへ向かい、身体に当たるシャワーは温かいのに心は氷みたいに冷え切っている。悔しくて、嫌で嫌で涙が止まらなかった。いっそのこと、この場で死んでしまいたいとすら思った。
バスルームから出てはこれから男と夜を過ごすと言わんばかりのランジェリーが用意されていた。生地は透けていて、胸の部分が開いているそのデザインは乳房が丸見えになってしまうし乳首に貼り付けるタッセル付きのニップレスカバーはあの男の趣味なんだろうか。気持ち悪くて吐き気がした。趣味の悪いランジェリーを身につけ、その上にバスローブを着るとそのまま部屋へと案内される。
中に入ればキングサイズの天蓋付きのベッドに先程のおじさんがワインを片手に横たわっていた。わたしを連れてきた使用人の男性は部屋を出ていき、この広い室内でわたしとおじさんの二人きりになる。

「さあ、脱いで。その下を見せてごらん」

ねっとりと、纏わりつくような不快感のある声でそう告げられ震える手でバスローブを脱いだ。

「ああ、若い娘が手に入るなんて嬉しいよ。今日は特別な夜だ…ナマエ…たくさん愛し合おう」

汗ばんだ手が、わたしの背中から腰を撫でおじさんが喋る度に肩に髭が当たり、気分が悪い。
ああ、わたしは此処で汚されるんだ。17年間、可能性は低いとは分かっていても女性なら好きな男と初めてを迎えたかったのに、こんな、汚いおじさんに散らされるんだ。はやく終わってくれ、と視界が歪む目を閉じながらこれから起こる行為に身を寄せた。

「あれ…?」

覚悟を決めていればいつまで経っても進まない。どうしてか目を開けると大きな身体がベッドの上に倒れて居る。
何が起きたの?と思い、男の顔を見ると天井を向いたままぴくりとも動かない。

「死んでる…?なんで」
「そりゃ殺したから」

突然の声にハッと振り返ると長身の男が立っていた。綺麗な黒髪が夜風に揺れている。

「随分と悪趣味な格好だね、娼婦かなんか?その割には若すぎるか」
「っ……」

わたしより幾つか年上で顔もそれなりに整ってる男性はわたしの姿を見るなり、そんな事を口に出す。恥ずかしくなり、ブランケットで身を隠した。

「ふぅん、お前それなりに悪くない顔立ちだね。…最近ご無沙汰だったし、決めた。お前の事俺が買うよ」
「は?」
「だから、買うってどうせこの親父に買われたんでしょ?主人が居なくなった奴隷はフリー。だから、何も問題無いはず」

お金なら勿論出すよ。なんて、言って彼は懐からドサドサと目の前に札束を落とした。

「ざっと、50万ジェニー。前金としてあげるよ。少なくとも此処に残るよりはいいと思うけど?」

喉から手が出るほど欲しい札束を目の前に出されて、断ってなんか居られなかった。彼を拒否した所でわたしは家に帰れるはずがない。どうせ、野垂れ死ぬだけだとわかっている。弱いものは強いものに従う。これも全て生きる為に仕方の無い事なのだ。

「何処にでも連れてって」
「決まりだね」

彼は自分の名前をイルミと名乗っていた。
更にあの有名な暗殺一家、ゾルディック家の長男らしい。
世界一の暗殺一家は観光地になるほど有名で、ゾルディック家があるパドキア共和国から何百キロも離れたわたしの故郷でもその話題は少なからずあったのだ。
顔写真ですら、何億ジェニーの価値が付くという噂もまことしやかに囁かれているその一族の長男と、ホテルでしかも彼はシャワーを浴びているのを待っているという何とも信じ難い状況にいる。ルームサービスとして、用意された豪華な食事の味が分からないほど、今の私は困惑していた。

趣味の悪いランジェリーは脱ぎ捨て、代わりにイルミさんが用意してくれた下着に身を包み、その上からネグリジェ着る。下着もこの寝間着も全て彼が用意してくれた。生地も肌触りが良くてなんだか高価そうだしきっと高いものなんだろう。ご飯も食べさせてもらって何から何までいたせりつくせりで、此処までしてくれる彼がよく分からなかった。ドライヤーの音が聞こえて、お風呂から上がったのだと分かると、変に緊張してしまう。
さらりと、黒髪を揺らしながら戻ってきたイルミさんはベッドへと座るわたしの目の前に立ち、見下ろした。

「じゃ、はい。脱いで」
「は…い、……」

なんとなく、分かっていたことだ。こんないたせりつくせりで、わたしが何も返さなくていいわけがない。
そもそも、そういうつもりでイルミさんもわたしを此処へ連れてきたのだ。
言われた通りにバスローブを脱ぎ、花が散りばめられた綺麗な下着が顔を出した。わたしが脱いだのを確認するとその隣りへと腰を下ろす。

「それで、ナマエは何ができるの?」
「え…っと、」

そんな事言われても、と言ったように困り顔をしていれば、はぁ…とため息をつかれてしまう。

「まずは口でしなよ」

そう言ったイルミさんの手が自分の股間を指さすので、彼の足元にしゃがむと衣服をはだけさせて下着の下に隠れている男性のそれを露出させる。

「自分でしてみなよ。うまくいったらそうだなー…500はあげる」

そんな美味しい話を持ち掛けられて、断れるほどわたしは強くはなかった。500万ジェニーもあれば、家だって借りられる。ひとりで暮らしていけるのだ。
まだ、柔いそこを指で触れては撫でていく。分からない、これが正しいやり方なんだろうか。

「いいから、舐めろ」
「ん……ぅう、」

催促するかのように言われて、飴を舐めるような手つきで雄を刺激していく。そうしていくと、次第にそこは膨張し何倍の大きさに膨れていった。大きくなった先っぽを咥えるのは中々に辛い。でも、やらなきゃいけない。お金のためにわたしが生きていくために。

「もっと、ちゃんと舌使って。そんなんじゃ、あげないよ?」
「ふぁ…、ちゅ…ぷ……ん、」

咥えた先っぽから、独特な味がする。汁が溢れてきて美味しいとは言えないその味に噎せ返りそうになってしまい、一度雄を口から抜いた。やらなきゃいけない。そうは思っても、今の行為はわたしのとってあまりにも過酷すぎる。あのおじさんのを口にするよりはずっといい。こんな顔のいい男に奉仕が出来るならいいじゃないか。そう思われそうだけれど、17年間恋愛もまともにした事がないわたしにとってはあまりにも高いハードルなのだ。

「なに休んでんの」
「も、…無理です……」

やらなきゃ、そうは思っていても一度口から離してしまえばさあやろうという気が失せてしまう。
大きくて、口の中は圧迫されて苦しいし先っぽから出る汁は気持ちが悪い味がする。
もう無理だと、泣きそうな顔をすると頭上から舌打ちが聞こえる。恐る恐る見上げれば、真っ黒な目がわたしをじっと見つめていた。怒ってる…表情に一切の変化はないけれど、その瞳がわたしを批判している。

「無理じゃなく、やるんだよ。お金、必要なんでしょ?」

わたしを見下ろした彼が、先ほど執事と名乗っていた男の人に渡されたバッグから札束を取り出し、それで頬を引っ叩いてくる。所詮は紙切れなので痛みはないが、お金の重みを知っているわたしにとって心が酷く傷んだ。

「オレにとっては、この程度の金。価値なんてほとんどない。今日だってこの何倍も稼いだ。だけど、ナマエは必要なんだろう?そのためにはどうするかわかるよね?何かを貰うにはその対価が必要。50万ジェニーじゃ生活するには無理なんじゃないの?」
「わかってます……」
「じゃあ、やりなよ。それとも強制的にやらせようか。これ、オレの念ってのを込めた針なんだけどね。これを人間に刺すとなんでも言う事を聞かせられるちょっと特殊な針なんだ。それをお前に刺して、やらせてもいいよ?」

イルミさんが頭に黄色の玉が付いたまち針をこちらへ向けてくる。念、というのは知らないけれど、あのおじさんを殺した時にも額にこの針が刺さっていたのを覚えている。暗殺用に使う武器なんだろうか。明らかに危ないものだというのはわたしでも分かる。
覚悟を決めるしかない。先ほどよりは少し控えめになった雄をもう一度咥えた。

「ていうか、下手くそすぎ。そんなお子様みたいなフェラじゃいつまで経っても終わらないよ?」
「ん…ぐお゛ッ…う、ぅ」

後頭部を掴まれて、強引に喉奥まで咥えさせられる。飲み込めない唾液がだらだらと溢れ、それを潤滑油代わりにするように頭を動かされた。

「ん……そろそろ、イけそ、ちゃんと飲み込むんだよ?」

好き勝手に口内を犯しては、そのままどくんと脈を打ち容赦なく口内に精が吐き出された。




________朝起きるともうイルミさんは居なかった。昨晩はあの後、声が枯れるほど犯されわたしは処女を散らしてしまった。腰が酷く痛み、動くのがだるい。使用済みのゴムやティッシュが散乱してベッドの上には何枚ものお札がばら撒かれて、何枚かは体液で汚れている。机の上にお金が入った鞄と一緒に「全部貰っていいよ」というメモが残ってるのが見えた。
だるい身体を起こし、シャワーを浴びた後ばら撒かれた札束を拾い集め、ワンピースを着てはお金を手にしてホテルを出る。

「口座、作らなきゃ……」

今は夏、やけに強い日差しを浴びて、青空を見上げながら呟いた。
むにむに。