01
聞いたことのない生き物の声。母親の苦しむ声。骨の折れる音に肉を床に叩きつけたような生々しい音に噎せ返るほどの鉄の臭い。死という概念がわたしの身体にぴったりとへばりついてくる。隠れていなさい、そう言ってわたしを押し入れに追いやった母は家を襲ってきた恐ろしい形相の化け物に喰われてしまった。母の血肉を食らった後、その化け物はわたしが隠れる押し入れをあけ、三日月のように避けた口でにったりと笑みを浮かべていた。
「みぃつけたあ♡」
しゃがれた声で化け物はそう言ってはわたしの腕を掴み、押し入れから引きずり出す。生暖かい血がべっとりと腕に張り付いた。視界が歪み、涙が溢れて止まらない。怖い、誰か、誰か助けて。これから訪れる行いに恐ろしく目を閉じると、わたしを掴んでいた化け物の手が消えていった。何が起きたのか分からず、閉じていた目を開けると緋色の目がわたしをじっと見つめていた。
「君、怪我はないか!」
わたしの身を按ずるその声はまるで神様みたいだった。
そこから、気を失ってしまい記憶が途切れてしまっている。次に目を覚ました時、わたしは知らない和座敷に寝かされていた。
「目が覚めたようだね」
ひどく優しい声が聞こえてくる。声の方へ視線を向けると肌は白く、顔を半分が紫色の痣で覆われたわたしより年上の男性がそこにはいた。優しい目をしたその男の目は肌の色と同じように白い。
「ミョウジ家の孫娘さんだね。私は君のお爺さんを知っているよ」
彼はどうやら、わたしの事を知っているようで特別にここへ連れてこられたらしい。わたしのお爺ちゃんがこんな綺麗な人と知り合いだというのは初耳だった。何が何だかわからない、といった様子のわたしに気付いてか彼は一つずつ説明をしてくれた。
母親は鬼という異形の物にやられてしまった事。そして此処はその鬼を退治するために結成された鬼殺隊の本拠地であり、彼はそれを束ねる産屋敷と名乗っていた。彼の顔を覆っている紫色の痣は病気によるもので、治療法は存在しないらしい。そして、わたしのお爺ちゃんはその鬼殺隊に元々所属していたらしく、今は引退している。
確かにお爺ちゃんは今も道場を開き、若者に剣術を教えているがまさかそんな団体に所属していたという話は一度も聞いたことがなかった。
産屋敷さんが紡ぐ言葉は母親を失った悲しみに寄り添ってくれるような優しさに包まれていた。声を上げて、子供のように泣きじゃくったのはいつぶりだろうか。
更に、産屋敷さんはこう続ける。もしも、母親の仇が取りたいとそう思った時には剣士になってまたおいで、と。
産屋敷さんの方で話を付けてくれたようで、わたしはお爺ちゃんの元に引き取られる事になった。
お屋敷から帰る途中でわたしを助けてくれた焔色をした男の人が声を掛けてくる。そうだ、この人はわたしを助けてくれたのだからお礼を言わないとそう思った矢先、彼は深々と頭を下げてくる。
「君の母親を救えなくてすまなかった」
謝罪の言葉を述べられてしまった。こういう時はどう返せばいいのだろうか。確かに、わたしの命は助かったものの母親は亡き者になってしまっている。また、思い出しては涙が出そうになった。
「いいえ、助けてくれてありがとうございます」
何か伝えなきゃいけないのに、言葉が出てこなく精一杯彼に告げた言葉はそれしかなかった。