ごめんね、いい子じゃいられない。
なんでこんなことになってしまったんだろう、と、静寂が支配する観覧車の中で呆然とする。
「なんでもねぇから」
大好きな幼なじみから発せられたその一言は、まさに拒否だった。
少なからずショックを受けてしまって、無意識に「なんで」と漏らしてしまう。そりゃ、電気にだって言いたくないことはある。人間だもん。いくら幼なじみだからって、ずっと一緒にいたからって、言いたくないことの一つや二つはあるに決まってる。男の子の涙の理由なんて、簡単に話してもらえるわけない。
でも、なんか。
私、電気との距離感を間違えていたのだろうか。
デートという名の二人だけの遠出をして、勘違いしていたのかな。電気の特別になれたって思ってた?ああ、勝手にショックなんか受けて、ばかみたいだ。電気は幼なじみに当たり前の対応をしただけなのに。
ただ、最近、あまりにも辛そうだったから、話聞いてあげたくて。それだけ。ただの、幼なじみのお節介だったはずなのに、私の本当の心はそうじゃなかった。
電気にとって私はただの幼なじみで、それ以上でもそれ以下でもない。
相談相手にもなれない自分が、電気にとってただの幼なじみでしかないことを、悲しいと思ってしまった。
「なまえ?」
「う、……あの、ごめん……」
「ああ、いや、ごめん、言い方キツかったか?泣くなよ、頼むから。泣かないでくれ、」
座っていた席から慌てて立ち上がった電気は目の前まで来て座り込み、下から私の顔を覗き込む。その時、何故だろう、電気も泣きそうな顔をしていたように見えた。口を開きかけて、静止した。また拒否されてしまったら、と思うと、その悲しげに歪む表情の理由は聞けそうにない。中途半端に開いた口を、きゅっと引き結んだ。
緩やかに、骨っぽい綺麗な形をした手が伸びてくる。そのまま親指の腹で涙を拭われて、こんな時なのに空気の読めない私の心臓はどきりと高鳴ってしまった。
優しいな。好きだな。愛おしいな。って、そう思ってしまったんだ。
今日の私は、どこかおかしかったのかもしれない。
付き合ってなくても、ただの幼なじみでも、デートに誘ってもらえて嬉しかった。嬉しかったんだよ、とっても。
少しでもかわいいって思ってもらいたくて、似合わないかもしれないけど、おしゃれ頑張ったの。
少しでも好きになってもらいたくて、わがままな自分の気持ちはなるべく押さえつけてきたの。
本当はこんなにも、目の前にいる一人の男の子のことが好きだった。
すぐ目の前にある、私のことを心配して、私のことを考えてくれている電気の顔を見ていたら、きゅーって心臓が痛くなった。
そこで初めて、自分の恋心がもう限界なんだということを悟った。
こんな気持ちは必要ないんだって、一生懸命隠してきた。一生隠し通せると思っていた。なのに私は、自分が思っていた以上に強欲だった。
電気がほしい。
このままの関係は嫌だ。
淡くて儚いはずだった小さな恋は、我慢しすぎて変な風に膨れ上がってしまったんだ。
思わず、抱きついてしまった。
え、うわ、と声が上がるのも構わず、腕を首に絡めた。触れるほっぺたが熱くて、電気の顔が真っ赤になっているのは見なくてもわかる。首元から香るいい匂いがふわりと鼻腔を擽って、それに当てられてしまったんだろうか。なんだかもうわけがわからくなってしまっていた。なんでこんなことしてるんだろう、なんて思いつつ、それでも密着する身体を離したくなかった。
幼なじみでいい、わけ、ないんだ。
好きって、言ってしまっていいのだろうか。電気は困るかな。女の子として見てもらえてないかもしれないかもしれない。でも、わたし。
なんかもう、辛くて、苦しくて。
ついに、最後の最後まで言うつもりはなかった言葉を、口にしてしまった。