だれかの為に尽くすということ




 いよいよ、ヒーロー基礎学が始まる。

 オールマイトが先生として教壇に立つ姿はそりゃもう感動もので、思わず目が潤んでしまった。雄英最高すぎる。
 電気はというと、同じく感動していたようで「すげー!すげー!」と子どものような感想を何度も何度も発していた。私たちの世代なら恐らく誰もが通った道だろうけど、小さい時はオールマイトに憧れ、よくヒーローごっこに興じていたものだ。その、憧れていた平和の象徴が目の前にいる。先生として、私たちを導いてくれる。それが、なんだかとても不思議な感じだった。

 今日の授業は、要望に沿って作られたコスチュームで戦闘訓練をする、というものだった。更衣室で早速出来上がったコスチュームをばさっと広げて、おお、と思わず声を上げる。
 私のコスチュームは、電気と同じく私服に近い。美術の成績も例に漏れずあまり褒められたものではない私は、私より多少だが絵心のある電気にコスチューム要望の紙を完全に預けてしまった。最初は「こんな恥ずかしい格好でどうやって戦えと言うんだ」と思わず突っ込んでしまうほど露出度の高いイラストを描いていたけど、お願いした立場ながらもう少し真面目に描いてほしいかなと訂正を要求。至極残念そうに口を尖らせつつも、きちんと私の趣味に沿った、可愛らしいコスチュームに修正し、仕上げてくれた。黒のホットパンツに10センチ程の絶対量域を設けたロングブーツ、というのが些か気になる点ではあったけど、このくらいなら目を瞑ろう。耳郎さんに「それ可愛い」と褒められたし。へへん。

 着替え終わって集合した後、担当のオールマイト先生から戦闘訓練の詳細を聞いた。二人一組になって敵とヒーローに分かれるらしい。ドキドキしながらクジを引くけど、クラスメイトが奇数の関係で運悪く私はぼっちに。うう、寂しい。っていうかこの状態でヒーロー側になったら勝ち目なさすぎ。個性的な意味で。
 オールマイト先生が「どうしようかなぁ」と悩んでいると、電気が私の肩を叩いた。

「なまえ、俺のチーム入ったら?耳郎もいいって言ってくれてるし」

 おお、その申し出はありがたい!ありがたいんだけど、とオールマイト先生をチラリと見ると、いい笑顔で「オッケー!」と言ってくれた。いいんだ。軽いね。良かったけどさ、ぼっちじゃなくて。

 なんやかんやの第五戦。
 私たち三人は、ヒーローとして核を確保することになった。対するは、青山くんと芦戸さんの敵チーム。この組分けは正直ホッとする。青山くんたちの個性なら私のシールドも役に立ちそう。耳郎さんの個性で周囲を探りつつ、目標に接近。戦いも電気たちに任せてしまって、私は二人を守ることに徹する。単純だけど、そういう作戦になった。

「っていうかさ、気になってたんだけど、二人なんとなく服のデザイン似てるね?ちょっとロックな感じ」

 潜入途中、ジャックを使って音を拾っていく耳郎さんにそう指摘されて、「電気作です!」と自慢をする。女の子にセンスがいいと褒められた電気は余程嬉しかったのか、堪えきれない笑みを浮かべてテレテレしていた。おお、こんな電気、珍しい。スタートから間もないこともあって、二人そろってドヤ顔でポーズを決める。耳郎さんが失笑して、「よくやるね、みんな見てるのに」なんて呟いた。あ、そうか。コレ、みんな見てるんだった。ちょっと恥ずかしいや。八百万さんあたりの反応が怖い。

「耳郎さんの個性、なんか面白いね!見た目ロックな感じでカッコイイ!」
「響香でいいよ。ウチもなまえって呼ばせて。この個性さ、ウチも気に入ってるんだよね。ロックでしょ!」

 音楽や服の趣味が合うのか、この二人との話は結構盛り上がる。響香ちゃんの個性の邪魔にならないように小声でだけど、流行りのアーティストがどうだとか、青山くんのコスチュームがなんかすごいとか、敵チームとの距離結構あるねとか、そんな話をこそこそと。

 数分後。ある程度上の階まできたところで、響香ちゃんが手で制止を求めた。電気と一緒に、音を出さずに息を呑む。ちょうど曲がり角に隠れるような形になっているから、私の位置から奥の方がどうなっているのかは全く見えない。だけど響香ちゃんは見なくても何かを感じ取っているんだろう。一瞬で、すごい緊張感だ。ドキドキと心臓がうるさく鳴り出して、手が震えてきた。私、二人の役に立てるだろうか。ちゃんと、動けるだろうか。

「だいじょーぶだって」

 そんな声が聞こえた気がして、はっと声の主と思われる電気を見た。電気は私の視線には全然気付いてなくて、真剣な表情で敵と響香ちゃんの動きに集中していた。と、いうことは、きっと今のは幻聴なのだろう。幻聴だろうがなんだろうが、良かった。助かった。
 ほんと、電気の効果は私には絶大だなぁ。少しだけ解けた緊張に安堵して、ふぅ、と小さく深呼吸をした。

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