10.5
「なぁ、メッサー。お前もちこと付き合って、たり、するのか?」
「・・・・・は?」
何故突然そんなことを。
一緒に来ているデルタ小隊のメンバーのチャックマスタングも口をあんぐりと開いて固まっているではないか。
もちこさんと一夜過ごした次の日の朝のアラド隊長の反応から予想した通りこうなる事は分かっていた。分かっていたのだが。
もちこさんとの事を聞かれるだろうと思ってはいたが、何故このタイミングなんだと非常に遺憾に思う。
その日はアラド隊長と会って一緒に訓練も受けたが、意味ありげな視線を投げられるだけで特に何も言われなかった。正直ホッとしていたのだが、数日後。ケイオスの食堂でデルタ小隊内での交流を深めようと昼食に誘われ、おそらく戦闘での作戦や、能力やこれからの調整を話すのかと思えばこれだ。
「へ?どどどどどいうことですかアラド隊長!」
「いやぁ、メッサーがなこの前の朝の通信でもちこの部屋に居たんだよ。もしかしたら彼女を気にかけて朝起こしに行ってくれたのかなーとか思ってたんだが、普段女性と仲良く、というか接触しないメッサーがもちことは良く話すし、良く笑いあってるのを見かけてなぁ」
「・・・・何もないですよ。付き合ってもないです。あの日はたまたま・・・チャック少尉そんな目で見ないでください・・・・見るな」
「あ、ぁぁごめんごめん。そんな怒るなってぇ。確かに仲良いなぁとは思ってたけどさ・・・」
「だから違いますって・・・・・アラド隊長もやめてください」
チャック少尉が目を丸くしていたのから一変してニヤニヤとし始めた。この男はこう言った話が好ましいようだ。
「まぁ、だがしかし仲良い事はいい事だ。もちこは事故の様にして来たくもない惑星に来てしまって、今は天涯孤独の身だ。親しい者は多い方がいいだろう」
「えっもちこちゃんって知り合いも誰も居ないの?そりゃあ、なんつうか・・俺も遠目でしか見てないけど小さい子だったじゃないすか。そんな子がこんなとこで1人なんて・・」
「もちこさんは成人されてるそうですけど」
「えっ!?」
「俺もそういや間違えたなぁ。それもあって兄役の座についたわけだが」
はっはっはと笑うアラド隊長と、お酒飲めるんなら一杯誘おうと意気込むチャックに少しだけ、ほんの少し、ほんの少しであるが焦燥感の様な、胸が焼ける様な、そんな思いに駆られる。
彼女が、親しい人を増やすのはいい事だろう。
彼女に親しい人ができるのは喜ばしい事のはずだ。そのはずなのに。
なのに何故。
「俺は弟らしいですよ」
一杯誘うなら俺を通してくださいね。
なんて。彼女に言われた言葉を使って自分の立ち位置を確かめる様に口に出して見たが、胸の靄はどうにも晴れそうにない。より一層濃度が増していくようだ。
「メッサーが弟とか、誘うのに骨が折れるな〜メッサーも一緒に晩飯にみんなで飲むんだったらいいだろー」
「本人にまず聞いて見てくださいよ」
笑って言ったつもりが、ちゃんと笑えて居たかわからない。
俺は一体彼女のなんなんだろうか
彼女は俺のなんなんだろうか
俺は一体彼女をどうしたい?
昼食を終えて、また訓練へと戻ろうかと食堂を出ようとした時、もちこさんの声が耳をかすめた。
我ながらもちこさんの声を拾う能力は一級品だと思う。
耳当たりの良い高すぎもせず、女性にしては少し低めの声は、どんなに小さな声であっても心地よく心に染み渡る様な安心感を感じるのだ。
その声の方をみると、ワルキューレの3人と一緒にこちらへ向かうもちこさんの姿が見えた。
相談という形でカナメさんに言っておいたのが通ったのか、おそらく誰かの服を譲ってもらったのだろう。
だがしかし、少しだけ露出が多くないか?いや、戦場であった時もそこそこ露出はあった方だった気がする。
先ほどの会話の所為だ
そのせいで過剰に反応してしまうだけ
ほんの少しだけ視線のやり場に困って目をそらそうとするが、彼女からも俺が見えていたようで、控えめに手を振ってこちらへ駆け寄るのが視界に映った。
視線が合い、彼女の唇が誰よりも先に自分の名前の形を作るだけ。たったそれだけだというのにほのかな優越感と独占欲、自分だけが彼女の特別であるかのような、しかし確かな満足感が自分の胸の霧を晴らした。胸に燻る炎の海を消し去っていくかのごとく、すっかり気分が良くなった気がした。
はっとした。
なんて事を思っているのだろう
自分が、自分だけが彼女の1番だなんて
彼女の1番が自分であるかの様に自惚れるなんて
恥ずかしい
高揚した気分が急激に冷めていく
これではまるで
まるで彼女が自分のものだと考えている様じゃないか
この短期間でいったいどれほど自分は彼女へ依存していたんだろうか
頼られる事で、安堵してる?そんな、
彼女が俺から離れて行ったら?
わかりきった事だ。彼女は別の時代の人だ。いつかは元に戻るだろう。
離れていくに決まっているのに。
俺は馬鹿か。
そう思うと、なんとなくもちこさんの顔が見れなくなって目を逸らしてしまった。
そんな幼稚な行動をしてしまう自分が恥ずかしくなって、早くその場を離れたくて。
食堂を出る足を早めた。
この後の訓練でミスをしない様に余計なことは今は忘れなくては
ALICE+