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何故メッサー・イーレフェルトと別の時代の人間、いや、異世界人と言っても過言ではないもちこ・御手洗のフォールド波と相性が良いと判断されたか。

それ以前に別次元に住むような人間にこの世界特有のものが何故備わっているのか

おそらく、メッサー・イーレフェルトがヴァール化の危機にさらされたとされる瞬間ともちこ・御手洗時代、時空を越えたとされる瞬間に何らかの反応が起きたことによる衝撃で能力開花とお互いへの干渉力が爆発的に上昇したとされる

もちこ・御手洗
基本能力が著しく低い
身長、体重共に正常。平均値であるが、寿命、知能は不明。現代の人類よりも数段脆弱。




どうやら、これが私に対するこのケイオスでの認識であるらしい。ケイオスで、といっても上層部と研究班、ワルキューレ内での話であって、他の人には内密な内容だというのは変わらないらしい。

この事を知ったのは、日も傾き始めた事、部屋に訪れたチャックマスタングというこの部屋、もとい裸喰娘娘のマスターであり、デルタ小隊に所属しているという肩書きをもつ彼が労いの言葉をかけてくれた事からわかった事だ。

「いやぁ、なんつーか、信じられない事もあるもんだなぁ。一応ケイオス所属っつー事でこの寮の清掃業務を請け負ってもらう予定なんだが、まだいろいろしんどそうだから慣れてからで良いって言いに来たんだよ」
「す、すいません。お手数おかけしてます・・」
「良いってことよ!その代わりぃ〜また今度デートしてね〜っいだっ」
「チャック少尉、何してるんですか」
「ヒデェよメッサー!」
「何してるんですか」
「なんだよ!いいだろ!俺ももちこちゃんとお話ししたいっ」
「何してるんですか」
「こわっ真顔こわっ」

もういいもん仕事するもん、と頬をプクプク膨らましてバタバタとお店へ戻っていってしまったチャックさん。なんだかかわいらしい人だったなー
そう思ってメッサーくんに「チャックさんてかわいいね」と同意を求めると真顔でこっちを凝視された

「は?かわいい?」
「お茶目だよね」
「は?」
「お茶目だったよ」
「・・・・そうですか」

なんだ
仲悪いの?
仲悪い人多いなメッサーくん

さっと、また食堂の時のように視線が外れる

「・・・もちこさんは、、楽しそうですね」
「・・・え?なんて言ったの?メッサーくん、なんだか顔色悪いよ・・・こっち向いてよ」

なんとなくだが、ひどく小さな声と合わない視線がひどく心配になる
短い付き合いではあるけれど彼は口数は少なくてもいつだって目を合わせて話してくれる優しい青年だったはずだ。

どうして目が合わないの?

つい、彼の腕に触れてしまう。
ここで話を切り上げてどこかへ行ってしまいそうな、そんな雰囲気


彼に会いたくて

安心が欲しくて

姿が見れて嬉しくなった気持ちが、暖かくなった心から熱が逃げていくのがわかる

手が触れるとメッサーくんがびくりと身体を震わした

心臓がズキリと音を立てた気がする
思わず手を引っ込める

衝撃を受けた
何にって、わたし自身にだ。
私は一体どうしてこんなに彼に縋っているんだろうか
私は彼に何もかも求めてどうしたいのだろうか。
なんてひどい女なんだ
メッサーくんが優しいのをいい事にまた利用しようとしてる
自分の為だけに引き留めている

それでも私の口は止まらない


「わ、わたし・・・なにか・・した?」
思いの外情けない声が出てしまった
じわりと視界も滲んでいく
こんな言い方ダメだろ私
自分がさみしいだけにくせに

メッサーくんの目が大きく開かれたのが見えると同時に引っ込めた手をひかれ握られる。


「どうして・・・避けたりしないで・・」

ああもう
そうじゃない
泣いて、人のせいにして、最低
私はこんなメンタル弱い奴じゃなかったはずなのに、メッサーくんに何を言われるかと気になって仕方がない
こんな自分を守る言葉しか出てこない
「さけられるとかなしい」
ついに目に溜まった涙がポロリとこぼれ落ち頬を伝っていく
もはやメッサーくんがどんな表情をしているかさえわからないほど視界が滲んで来ている

不意に頬を優しく拭われた

「すいません・・・避けてたつもりじゃなかったんです・・・つまらない嫉妬をしました」

思いがけない言葉に涙がとまった
ついでに息も止まった
酸素が足りなくて思考も止まったらしい

「・・嫉妬?メッサーくんが?」
改めてメッサーくんの顔を見ると、幾分か良くなった顔色と困ったように下げられた眉が見えた。
彼の瞳に映った私は驚いた顔をしている。
当たり前だ
彼からそんな言葉が飛び出るとは

「そうです。友人が増えるのはいい事なんだとわかってるんですけど・・・仲のいい人が増えたら俺は、その・・必要ないかと、子供みたいな態度をとりました・・・すいません」


「・・・メッサーくんって意外と寂しがりなの ?」
困った顔でふわふわと頭を撫でられて気持ちもふわふわと上昇した

なんとなく、的外れな事を言ってしまったような気がする

「そうかもしれませんね。」
強張っていた彼の顔が、いつもの優しい顔になる
「なんとなくだけど、1人が好きな方かと思ってた。1匹オオカミみたいな。」
「どうやら違ったみたいです。もちこさんと・・・一緒に居たかったようです」
「えっ」

びっくりした
言われ慣れない言葉につい頬が赤くなるのがわかった
ここの国(惑星?)は日本よりスキンシップも多いしストレートな言葉が多いから、どうにもこうにも毎回照れてしまうのだ

「故郷を失ったからというのもあるのかもしれません。心の拠り所を求めてるのかもしれない」

優しかった顔が、その視線が、熱いものになる
「貴女と俺が実験上ですが意図しない形で特別な関係ということになっているせいもあるのかもしれない」

ああなるほどなと思った

私が彼と一緒に居ることに疑問を抱かず、むしろ求めるようになっている。そして離れることに恐怖を感じているのは、そういう事なのだ。そういう事だったのだ。

彼も私に同じような感情を抱いてる。

私とペアで扱い、彼との特別な関係、ヴァール化の抑制、そのおかげで成り立つ私の生活。

最初にカナメさんが言った軟禁という言葉が身にしみた瞬間だった。
お互いが離れないように、ケイオスから出られないようにしているのだ。

出来損ないのストックホルム症候群。いや、リマ症候群と言ったところなのだろうか。

メッサー君の大きな手が頬に触れた
ゴツゴツした手のひらからひんやりと、その温度が伝わってくる
気がつけば彼との距離も縮まっている

「俺の側に居てください、もちこさん。偽物でいい。姉としてでも家族としてでも・・・・」

この純朴な青年は意外にも繊細な心の持ち主なのかもしれない。

「私でよければ。メッサー君の力になれるよう頑張るよ」
「頑張らなくていいですよ。一緒に居てくれるだけでいいです」
「メッサー君のおかげで私は養ってもらってるんだから。いっぱい甘えていいですわよ。お姉さんに!」
「ふふっありがとうもちこさん」
「・・・・何かしてあげれるわけじゃぁ、ないんだけどね。私が元に戻れるまでは、メッサー君のお姉さんだね」

「・・・嬉しいです」

やっぱりメッサー君はすこし困ったように笑うのだ


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