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「これは・・・」
すごく素敵な風の色・・・
暖かくて、それでいてとても澄んでいる。
まるで広い野原を駆け抜ける春風のよう。風と遊ぶようなメロディ
ワルキューレの歌声は吹き抜ける嵐。
吹き飛ばすほど力強く一陣の風を巻き起こす。
それと比べて彼女はどうだろう。
染み渡り決して荒々しくなく、歩み寄るかのように広がっていく

私たちの後ろで歌う彼女の視線にはモニターに映し出されるメッサー中尉が映る
訓練中に私たちの歌は必要無いが、彼女はまた別らしい。

「素敵・・・」
「ふふ。美雲はそういうと思った。」
カナメはクスクスと笑い手元の端末に何かを記録していく。
「不思議。彼女の歌は刺々しいものを削いでいく・・・・とても不思議だわ。」
神秘だと思った。
消え入りそうな存在の中に確かに存在する音楽
彼女は、いったい誰なのだろう。
彼女はいったい何者なのだろう。

どうして彼女は1人のためだけにしか歌わないのだろう。
先日の鼻歌では感じられなかったものが、誰かのために歌うだけでこれほどまでに違う。
彼女は1日のうち一回しか歌を歌わない
訓練中の一回だけ。
一回だけモニターに映る彼だけのために歌う。

もっと歌を聴きたい
一緒に歌ってみたい
彼女が私だけのために歌う歌はどんなものなのだろうか
彼女は、私のために歌ってはくれないだろうか

部屋を出ていく彼女を引き止めて、聞いてみたい。

「美雲?」

彼女が出ていった扉を見つめていると、カナメの心配そうな顔が私を覗き込んだ

「どうしたの?彼女、もちこ・御手洗がどうかしたの?」

「いいえ、ただ・・・彼女はとても、この世界に不釣り合いだわ」

「え?何?どういう事?」

「何もかもが違うのね。彼女の歌が、彼女を表してる。世界が違うとはこういう事なのかしら。ああ、でも、とても心地いいわ」

「そうね。彼女の歌は少し不思議。ヒーリング効果でもあるのかしら?」

調べなくちゃ。そう意気込むカナメが少し可笑しかったけれど、確かにそういうものがあるのかもしれないと思う自分もいる。

こうやって私たちの歌がヴァール化を抑えるように、魔法さながらに疲労やストレスや苛立ちを抑える効果を持っているのではないか。

彼女の事は何も知らない
それなのに何故こうも気にかかるのか

ほんの少しの好奇心と、興味。
ほんの少し、ほんの少しだけメッサー・イーレフェルトが羨ましく思えたこの気持ちはなんだろう。

ほのかに灯るこの暖かな気持ちは


「クモクモ、その熱い眼差し・・・ま、まさかまさかのこここ恋!?」
「ビリビリぐさっと、きてる」
「え゛!!?ちょ、美雲、ほんとに??」

思考を止め、騒ぎ始めた3人を振り向くとなんとも言えない表情が3つあって奇妙な感じだ。
笑いがこみ上げて、声をこぼすと3人が駆け寄り口々にエールを送ってくれるのだが、それがまた笑いを誘う。
恋?
違うだろう。
憧れ?
そうかもしれない。

「ふふ、どうかしら。私たちも負けてられないわね。さぁ、レッスン再開しましょうか」

今はまだよくわからない
よくわからないままというのも面白いかもしれない

彼女の見ていた世界、見ている世界がとても気になる。いつか色々話せる日が来るのだろうか。
来るのだろうか、なんて。私らしくないわ。美雲・ギンヌメールらしくない。
話せばいいのよね。
それくらいに近い距離にいるのだから

でも・・・・それにしたって

「ずるいわ。彼だけ。」
いくら協力関係、パートナーといえどメッサー・イーレフェルトともちこ・御手洗の距離感はないだろう。なしだなし。
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