番外編/美雲
番外編
よく空が晴れた日、夜になると心地よい風が吹き、空が眩いばかりの星々で飾られる。海に囲まれたラグナで見る星空は格別だ。
私が見たどの景色よりも美しく幻想的で、ロマンティックな風景だ。
海には星々がまるで泳いでいるようにきらめいている
ああ、やはりここは私の世界ではないのだと、余所者なのだと、後ろ指をさされた気分にもさせる悲しい夜空。
ふと、小さい時に母に読んでもらったかぐや姫を思い出した。
「月から来たかぐや姫は月からの使いがやって来て、月へ帰っていく・・・・か」
姫なんて柄じゃないけれど。
良く言って迷子だ。保護されたってとこか
私の迎えはいつやってくるのやら。
果たしてやってくるのか。
「待っているだけなんて、つまらないんじゃない?」
「えっ美雲さん!」
突然近くから歌うような声が聞こえたと思ったら、すぐ隣に美雲さんが同じように空を見上げていた。
「ふふ、貴方は月から来たと言うのなら、自分で飛べばいいのに。迎えなんて必要ない。それだけの力が貴方にはあるわ。待ってるだけのお姫様なんて退屈で死んじゃうもの」
裸喰娘娘のオープンデッキ、美雲さんの長い髪がなびく。
ゆらゆらと揺れる髪がさらりと肩を滑り落ちる。それすらも絵になるなんて、なんて素敵なんだろうと思う。私にはそんな魅力はあるだろうか、と考えたとこでやめた。一般人とアイドルとを比べるなんて愚の骨頂だ。なんせ彼女は銀河を股にかけるスーパーアイドルなのだから。あ、アイドルじゃないのか。戦術音楽ユニットでしたか。
そんな事を考えていると、その美しい美女が私を覗き込んだ。ふっと笑うと頬にそっと手が添えられる。綺麗すぎて、照れてしまう。すべすべとした手が頬を滑り顎を捕えるととうとう私はのぼせてしまうのではないかと言うくらい体温が急上昇してしまった。
「何を考えているの?」
「い、いえ。美雲さんは綺麗だなーと思ってました。」
へへへと笑うと、ありがとう貴方もよ、なんて返されてしまった。
うぐ、お世辞とわかってても照れる。この人はすぐ私をホメ殺しにかかる。やめて。照れ死ぬ
「貴方の声は、銀河をかける。戦士に休息を与える美しきパナケイア。癒しの女神をたった1人が独占しているなんて妬けてしまうわね。誰、とは言わないけれど」
ふふと笑って顎に当てられていた手は唇をなぞっていく。
この美しいディーヴァに捕まってしまっては動くことができない。赤みがかった紫の瞳がキラキラと輝いていて、この星空に負けないくらい魅力的だ。
「貴方の運命を人に委ねてはダメ。自分の運命は自分で取りに行くの」
貴方が連れ去られてしまうなんて、私嫌よ
そう言って美雲さんは輝く瞳を細めて微笑んだ。
ふわりととデッキの手すりに飛び乗る美雲さんの髪が私の顔を撫でる。
美雲さんにならって私も海を見た。
先ほどよりも深く暗く染まる海。それでもやはり美しい。
「月への愛着がなくなったら、私と一緒に歌いましょう。ああ、でも彼が許してくれたらね」
「彼?」
美雲さんは後ろをちらりと目配せすると、ふわりとまるで重力を感じさせないかのように海へ滑り込んで言った
さすがワルキューレ。ミステリアス美女の名に恥じぬ去り方だった。
「もちこさん」
「メッサー君か。どうしたの?」
「いえ、ただ、もちこさん、風邪引きますよ。部屋に戻りましょう。今日は部屋で一杯付き合えって言ったの貴方じゃなかったですか?」
「ああっ!ごめんごめん。もうそんな時間だったか。今日もお疲れのメッサー中尉のお肩でもお揉みさせていただきますよー」
「じゃあ、俺はお酌させてもらいますね。」
クスクス2人で笑っていると、ふと、海に写った星々の輝きが目に入った
見入ってしまうほど美しい
「今日は星が綺麗ですね」
そう言って微笑んだメッサー君の横顔も見入ってしまうほど美しかった。
まだ迎えは来そうにない
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