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未来と聞いて、ほんの少し、自分が元いた場所で生活している様子を想像し、彼の反応から少し期待した。
私の時代の生活はきっとこの時代の人からすると全然違うのだろう。
彼の言う違う星の人間という言葉もこの事を言っているのかと、期待ばかりが胸を埋めてにやけそうにさえなった。
「は・・・、え?死?な、なに言って」
予想外の言葉に、なんといえばいいのかわからない。大ハズレ。予想外中の予想外の単語だった。
言葉が詰まる、頭が真っ白になるとはこういう事なのかと、頭の片隅に縮こまって居た冷静な自分が分析する。
彼の青ざめた顔は、そういう事だったのか。
私の死ぬところを見たから、そんな表情をしたのか。ようやく話を飲み込めてきたところで、今一度、目の前の彼に焦点を合わせる。
赤い瞳は消え去り、明るい青が困ったように細まる
「あー・・・ほんとはこの能力は一般人に使うことは禁止されているんだ。いや、使う事自体は禁止されてないか。未来を伝えてはならないんだ。この星では。住民同士の能力の情報交換は法律で禁止されてる・・・まぁ君は別の星の子だからギリギリセーフかな?」
「だからそんなに小声なんですね」
「そうそう。これ聞かれたら裁判だよ裁判」
びっくりした。
軽く言っているが本当なら大ごとだ。
意外と罪は重い。
人のプライバシーをうっかり侵害してしまうと裁判らしい
恐ろしい世の中になったものだ
それにしてもウサミミに裁判って聞くと不思議の国のアリスを思い出してしまう響きが揃っている。
そんなに話には明るく無いけれど、大まかな流れだけは知っている。おそらくタイトルならば誰もが知る児童文学書だ。
「詳しく言うことはできない。聞きたくないだろうしね。でも君はちょっとおかしい」
「えっ」
おかしいって言われた。ちょっとショック・・・
ストレートな言葉が刺さるよ
つら
「あっ違う違う!ちょっと特殊だねって意味だよ」
ガーンと打ちひしがれていると気がついた彼が慌てて手をぶんぶん振りながら訂正してくれた。よかった・・
「なんというか・・・君は、ちょっと多すぎるんだ」
「?多すぎる、ですか?」
「そう。多すぎる。さっきの一瞬だけで3つ以上の分岐点が見えた。君は少し用心した方がいい。今すぐに気を引き締める事をおすすめするよ。すぐにだ。」
グッと眉にシワがより、目の前の青年の顔はより険しく歪められた。
私の知らない死が、彼に見えているんだとその表情が何よりの証拠のように、私に襲いかかるようだ。
ああ、でもそんなにたくさんの未来を見たなら、聞いてもいいんだろうか。
「あの、わ、わたしいくつも分岐点があるって・・・、私の隣には、近くには誰が居ましたか・・・?」
「隣?」
もし、
もしもそれが遠い未来で。
私が元の世界に戻れてるなら。
なんて淡い期待がジワリと体を侵食していく。
「いや、隣にいるのは・・・」
うーんと考えるように、思い出すように唸ってはキョロキョロと店内や外へ視線がせわしなく動いて居たかと思うと、はっとした表情を浮かべ、私に正しく向き直った。
「どんなときも側には彼が居たよ。ほら。店を出よう。お迎えだ」
安心して。見たのは今日じゃない。今は誰かといる方がいいだろ?
とウインクを飛ばししっかり椅子まで引いてくれる彼は、やっぱりイケメンだった。なんて再確認してしまう。
彼に促されるまま外を見ると、店の外にメッサー君が見えた。
姿を見てホッとしたと同時に、目の前の彼の発言に思わず体が凍るような気分になった。
彼が居た。つまりメッサー君が。
じゃあ私は・・・この先ずっとこのまま?
店を出るときに、小さく置かれたトランプを模した看板を見て、「どこもかしこも不思議の国のアリスみたいですね」と言ったら、「?アリス?知らないな。トランプがアリス?」と、思っても見ない返事が帰ってきた。いつもならはははと笑って返せるような事なのに、うまく笑えなかった。
わたしが知ってる事が全く通じない疎外感に身体を打たれたような、そんな気分だけが沁みていくような気がした。
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