24.5
今日は何日だ。何日経った
まただ。
また、彼女を傷付けて。
何が守るだ。
何を守った気になっていたんだ。
ピ、ピ、ピ、ピという機械音と横たわる女性の微かな息遣いだけが、この白く四角い部屋に響く。
いくつも伸びる管は彼女の命を繋げるためせっせと栄養分を送り続けている。
惑星マティルドは平和だとタカをくくって油断してこのザマだ。
彼女が、もちこさんが楽しそうにしているのをもっと見たくて。
あと少しだけ。もう少しだけ一緒にいたくて。もう少しだけ笑顔が見たくて柄にもなく寄り道をして。
他のメンバーと合流が早ければ。
現地にあとほんの少し早く着いていれば。
あの時目を離さなければ。
あの時俺が手を掴んでいれば。
ヴァールシンドロームのせいで自我を保てなくなった民間人に襲われて恐ろしかったはずだ。
一般人なのに
現代人よりも数倍は弱い身体と聞いているのに。
また恐ろしい思いをさせてしまった
俺の時のように
「・・・・・っ!」
悔やんでも悔やんでも、どうしようもなく不安と虚無感が広がっていく
目を覚まさなかったらどうしよう。どうすればいい。
カシャン、と音を立てて扉が開く音がする。
背後にある入り口を見ると、カナメさんが立っていた。
「メッサー君・・・・貴方のせいじゃないわ」
「・・・いいえ。俺のせい、です」
「・・・少し、休んだら?」
「・・・お気遣いなく」
お前のせいじゃない
貴方のせいじゃない
メッサー君のせいじゃない
そんな事あるわけない。
最初に彼女を傷付けたのは俺で、必ず守ると誓ったのも俺だ。
彼女が目を覚ましたら。
今度こそは必ず、必ず。
危険な目に合わすわけにはいかない
誰も怪我をせず、誰も命を落とさないように。俺が。
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任務と訓練をこなして、データ処理をして夜は必ずもちこさん様子を見に行く。
名前を呼んでみたが、返事は帰ってこない
早く目を覚ましてほしい。また声が聞きたい。貴方の声で名前を呼んでほしい。
いつのまにか一緒に居ることが当たり前だった。貴方は無事に自分のいた世界に帰らなくてはいけないのだから
だからせめてその時まで。その瞬間まで貴方の笑顔を守りたい。
だから。だからどうか早く目を覚まして
アラド隊長も、飲みに誘ってくれることが増えた
本人も飲む量が増えているようだ。
俺がもちこさんの部屋に行くまではアラド隊長が居るという事も聞いた。
チャックはもちこさんが居ることに慣れてしまったのか、男子寮の掃除が大変だとぼやいていた。
ほんの少しかさついてしまっている手を握るとほんのりと暖かさが伝わってくる。
今日はワルキューレメンバーが来るらしい
そろそろマキナさんが泣くと思う
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4ヶ月、
もう4ヶ月目に入った。
もちこさんの眠るベッドでつい眠り込んでしまって、何かが頭に触れる感触で目がさめると頑なに開かなかった瞳が俺を覗き込んでいた
「メッサー、くん。あ、よか、良かった・・・メッサー君、無事だったんだね・・・怪我、してない?」
「・・・っ」
久しぶりに聞いた声は少し枯れて、小さな声だったけれど、急速に幸福が身体中に満たされるような、身体中に血液が回るような感覚に脳が揺れたような衝撃だった。
これは夢じゃないだろうか
脳内の作り出した都合のいい空想なのか
ふわふわと頭を撫でる腕を捕まえて、引き寄せ抱きしめる。
謝って、それから、いろんな事を言うつもりだったのにカラカラに乾いた喉からは何も出はしなかった。
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もちこさんは初めこそ元気に振舞っていたが、ふと思い出したかのように考え込むようになった。
飛行している機体を見た時、海を見た時、空を見た時、俺を、見た時。
ヴァールになる瞬間を見て、しかも襲われたんだ。恐ろしく思うのも当たり前だろう。
彼女が少しでも気持ちを楽に過ごせるようにもっと危険がなく任務をこなさなければ。
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ストレスからくる疲労でもちこさんが倒れた。熱にうなされて眠るのを見るのは辛い。心細いのか手を握ってほしいといわれる回数が増えた。
一度だけもちこさんがこのまま消えてしまいそうで怖くて一緒のベッドに入って眠った。思っていたよりも小さな体を引き寄せて抱きしめると暖かく、心臓の音が聞こえる。
浅い眠りを繰り返していたが、安心と安堵で朝まで目が覚めなかった。
もちこさんも同じようで、規則正しく寝て起きることができているようだった。
次の日からもちこさんの隣で眠ることになった。なんだか自分にだけ心を許されているような気がして、甘く傲慢な気持ちが胸に広がる。
寝入ったもちこさんの髪を撫でると毛先がサラサラと重力に従ってシーツに溢れる。
そっと目を閉じると、隣で眠るもちこさんの寝息が静かに眠りへと導いてくれる
明日こそは彼女が元気になるといい
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