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次の日、私の元に医師と名乗る人が来た。
私は何度も地球の、××市にいた。部屋にいたのに突然戦争中の場所にいたという説明を繰り返したが、殴られたショックと頭を強くぶつけてるという事から錯乱状態かつ記憶が失われている可能性があると判断された。

その時にシルバーのブレスレットを渡され、録音機能が付いているので毎日日記がわりにその日会った事を記録するようにと言われたのでさっそく使ってみようと思う。腕にはめて忘れないようにしよう

その後、偉い人が来て、私は戦地で保護された事から監視対象になると告げられた。
偉い人はアラド・メルダースさんという人らしい。助けて治療をしてくれた事でお礼を言うと、アラドさんは申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「治療は気にしなくていい。こちらこそ救出が遅くなってすまなかった。君は2017年の地球から来たと行ったね。結論から言うと・・・君はおそらく元いた地球には戻れない」
「えっどう言う事ですか?私帰れないんですか?」
「そうだ。帰れない。まず今現在は2065年。君の言う年代とは随分と差がある。そして君の言う日本だが、今はそのような名前の国はない。基礎能力も格段に君の方が劣るし、その漆黒の瞳も髪も薄く黄色味がかった肌の色も大変珍しい。多くの地球人を見て来たが、俺は出会ったことがない。」
「そんな、
そんなわけない!2065年って・・・そんな」
「君の身に何が起こったのかは俺たちにはわからない。君が言う名前も何もかもが存在していなかった。」

そんなこと言われたら
どうすればいいんだろう
私は正常だし、母の名前も父の名前も親戚も友達の名前だって言える

「変な事言わないでください。私は、錯乱なんてしてない」

そうだ。だってこんなにはっきりと自分のことが言えるもの。
なのに急に、はっきりと言われるものだから自信がなくなっていく。
手のひらをすり抜けるようにポタポタとじわじわと不安が足元を埋めていく。

「記憶だって失ってない・・・嘘ですよね?ドッキリなんですよね?こんな、一般人をドッキリにかけたって面白くもなんともないはずです・・・からかってるんですよね?ね?」
アラドさんがぐっと顔をしかめるのが見えた。視界がどんどんぼやけて来て顔がカッと熱くなってくる。

「こんな小娘からかって、、そんなわけないです。そんなわけないんですって」

情けない声しか出てこなかった。
俯くとベッドのシーツに小さなシミがポツポツとできていく。

こんなところ嫌だ
わけもわからないまま知らない場所に来て、知らない人に囲まれて、

私はどうなるんだろう
どうすればいいんだろう

俯いたまま、何か言いたいのに聞きたいのに嗚咽だけが部屋にこだまして恥ずかしい。
それでも一度出た不安と涙はなかなか引っ込んではくれない

頭上に影がかかったと思ったら、がっしりとした腕がぐっと肩を抱き寄せ、その大きな体で包み込むように抱きしめられた

「すまなかった。信じていないわけじゃあないんだ。こちらもわからないことが多くて何も言ってあげられない」
「・・・私、記憶喪失じゃないです」
「わかってる。君の言葉を信じよう」
アラドさんがガシガシと抱きしめたまま頭を撫でてくれる

恥ずかしいとか、
変な人だとか思わなかった。

ああ、なんだかとても安心する
人の体温がこんなにも心強く、弱った心を深く癒してくれる

「・・どうしたらいいか、わからないです・・私は自分の家族に会いたい。友達と、学校と、家に戻りたいんです、それだけ、それだけなんです」

「君の希望に答えよう。必ず何か原因があるはずだ。」

トントンと落ち着かせるように背中を叩かれ荒んでいた気持ちと、ざわめいていた不安がゆっくりと歩みを止めていくのがわかる

「・・不安です。とても。私はどうなりますか?どうすればいいですか?わたしは」

私は何をすれば、
この不安や孤独から解放されるのだろう
どうしたって無理なのだろうか
私の世界はどうしたって戻ってこないんだろうか


「君が君の言う世界に戻れるその日までこのアラド・メルダースが君を守り、帰るべき家を探すと誓おう。心配するな。君の言うことは俺が信じる。さみしいと言うなら俺が君の家族になろう。大丈夫。大丈夫だ」

ポロポロと再び流れ出した涙の止め方なんてわからない。

「泣け泣け。もちこ・御手洗。今日全て吐き出せれば明日はきっといい日になる。」

すごく頼もしい言葉
知らない場所に放り投げられ遠回しな否定をされて、孤独と理不尽で押しつぶされそうだったせいだろうか
こんなにもまっすぐな言葉がとても嬉しかった。
きっとわたしは帰れない
きっとわたしの迷子は終わらない。

でもこの人が信じてくれるなら
監視だってなんだっていい。それでもいい
明日も私で居られると、そう思えた。
私の知ってる御手洗もちこ。
大丈夫。
きっと大丈夫よ。
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