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「ウィ、ウィンダミアから来ました!フレイア・ヴィオン、14歳です!」
なんと14歳
新しくワルキューレに入ってきたのは頭にピンクのハートをあしらった可愛らしい、とっても可愛らしい少女だった。
すごいなぁ
14で軍事機関に入るって何事・・日本じゃ考えられないよ。意外にも物騒な世の中にはもちこは驚愕したよ。びっくり
ちらり、ともう1人に目を向けると、気恥ずかしいのか、ただ単に面倒臭いのかポリポリと頭をかいた後、「俺はハヤテ・インメルマンだ。よろしく」と挨拶してくれた。
「私は御手洗もちこ。もちこが名前なの。男子寮の清掃員なんだ。気軽に声かけてね」
ハヤテ君とやらは前者だったようでほんの少し照れながら握手をしてくれた。
2人とも10代でなんとも若さがみなぎってる。
すごい。なにがすごいって未成年で星を渡ろうという行動力がすごい。
どうやら入寮するのはハヤテ君の方だったようで、チャックさんに寮の部屋へ案内するように頼まれた。
最近チャックさんは寮のことに関してはほとんど任せてくれているのでなんとなく誇らしい気持ちになる。
無力で非力で財力も皆無という三拍子が揃ったこんな私でもどうやらチャックさんの役にはたてているようだ。
「よろしく頼んだぜ、もちこちゃん」
「ふふ、了解です〜チャック店長〜」
ばちーんとウィンクを飛ばしてチャックさんは厨房へ入っていく
「あ!そうだそうだ」
「?なんですか?これ」
再び厨房からひょこっと顔を出したチャックさんが手の中になにかをコロコロと落とした
「お駄賃だ。可愛いだろ」
「わぁ・・・!クラゲ!」
「それ、いくつかあるだろ?あとで中尉殿にもあげてくれ」
「ふふっ了解しました〜。ありがとうございます」
小さな袋に包まれた飴玉をポケットに忍ばせ、敬礼すると、候補生君をよろしくなーと敬礼して厨房に戻って行った。
チャックさんはいつもこうやって元気をくれる、さりげない気遣いができる優しいお兄さんだと思う。しつこくないような距離をちゃんと保ってくれるいい上司であり、いい兄貴分なのだ。
「もちもち〜お疲れ〜」
「いい夢、みろよ」
彼女たちもワルキューレとしての活動などで忙しいのに会いに来てくれるし、うんうん。いい人達ばかりだなと改めて思うよ。今日もまたお洋服のお古を持ってきてくれたようでほんとありがたいです。できればもっと露出控えめで・・・
カナメさんにも挨拶を済ますと、荷物を持って待っててくれた男の子の元に向かう。
「さて、とハヤテ君。行きましょうか。」
「ああ」
「食事まだなんだよね?戻るなら急いで案内しないとね」
「そうだな。よろしく」
「ハヤテ君は何歳なの?18くらい?」
「17。もちこは?おっと、ちょっと待てよ。当ててやるよ」
17か・・・
やっぱり大人っぽく見えるな・・この時代の人達は。ここに居て2年も経つのに全く当たった試しがないよ悲しい。。「んん・・当たるかなぁ・・」当たらなさそう・・日本人は童顔ってもう立証されたしな。この2年で散々。自分で言ってちょっと悲しみが溢れるわ。
「うーん、16くらいか?」
ひぇ
こいつぁたまげた
そんなバカな
「・・・23だよ」
「ぶふっ・・マジか」
「まじまじ。ハヤテ君は老け顔だね」
「はー?大人っぽいと言えよ」
「ええ〜」
グイグイと肘で突いてくるような大人は居ません。ニヒニヒと笑う顔を見ると、17歳らしくも見える。うん。高校生ぽい。この世界に学校という教育施設が同じように存在しているのかは知らないけれど。
「ついたよ。ここがハヤテ君の部屋ね。自由に使っていいってチャックさんが言ってたよ。私毎日掃除しに部屋に入るけど、入ってほしくないときは声かけてね。それか何日かに一回とか決めてくれたらそうするし」
「了解だ。問題ない」
じゃあ、明日からよろしくね、と鍵を渡して扉を閉めると、部屋に戻る途中なのかメッサー君がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
「お疲れ様、メッサー君」
「もちこさん・・・お疲れ様です」
ううーん
疲れてるな
新入生の入ってすぐの担任の先生並みに疲れている・・
「・・・もちこさんは今日は業務は終わりですか?」
「うん。そう。今ハヤテ君を部屋に送って、それでおしまい」
ふぅ、と息を吐き出すと、少しだけ前を歩いて居たメッサー君がゆっくりと横に並ぶ。
ずいぶん後ろからやってきたのに、すぐ追いついては抜かされてしまうのは足の長さの違いのせいか・・・
気がついて歩く速度を落としてくれるメッサー君はとてもできる男である。
彼がここ最近疲れている理由は、なんとなくわかっている。
「メッサー君、疲れてるね。最近」
私が呟くと同時にピタリ、と足が止まる。
こちらに向いた顔はキョトンとした後、ほんの少し困った笑顔をこぼす
「そう、ですね・・・貴女には隠し事はできませんね」
「やっぱり、狭いベッドで眠るのって疲れるよね・・・ずっと習慣になっちゃってて気が付かなくって」
「は?」
「ハヤテ君の教育とか、連携とか・・・」
「は?」
「え?」
あれ?夜ぐっすり寝れなくて疲れてる系じゃないの?
「最近ずっと当たり前のように一緒に寝てもらってるからさ、それってよくよく考えたら疲れ取れないなって、そろそろやめた方がいいのかーと・・」
「・・・ハヤテ候補生の事は合ってますが・・・一緒に眠る事自体は問題ありません。それに、やめたらもちこさんが眠れないでしょう」
「いやぁ・・・まぁ、どうかなぁ、」
正直、人の温もりや心臓の音が聞こえると安心する。めちゃくちゃよく眠れるわけですが・・・そんな心の声が漏れ出してしまいそうで目をそらしてしまった。
どう言えば良いのやら
う、うーん、と唸っていると、ふ、と笑う声が頭上から聞こえた
「すいません。俺が寝れないのでもう少しだけ、ご一緒させて下さい」
ううう
天然タラシってこういう人のこと言うのかな?
握手券ついてる?私CD出たら100枚買うね・・・
お姉さん、週一くらいでメッサー君から萌えを補給してる気がする。
これが週末ヒロイン・・・?
「あいだっ」
「また変な事考えてたでしょう」
「ぐぬ、またもや脳内を読まれた・・・」
悲しいかな
私の妄想は気がつかれていたようだ。
がーん
でもね、ちょっとほんとチョップするときは優しくしてくれよ。
貴方達の普通は私にとったらかなり強めの攻撃になるんやからな!
「もう長いこと一緒に居ますからね。もちこさんの考えてる事はだいたいわかるようになってしまいました」
「もう2年だもんね〜」
「・・・そうですね。もうそんなに経ってしまいましたね」
メッサー君の声が、少しだけ震える
2年。2年ってすごく長い。
私にしたら見るもの全てが新しくて、初めてで、面白くて、びっくりして、つらくて、
長いような、一瞬だったような。
みんなにとって、メッサー君にとって、
この2年は早かったのだろうか
拭いきれない不安と、突如襲いかかる暗く重い悲しみを誤魔化すように、笑顔を作る
もう慣れたはず
もう決めたはず。
メッサー君の口に飴玉を押し付けて、自らの口にも可愛らしいフォルムのクラゲ飴を放り込む。
ふわふわと、じわじわと溶けてゆく飴玉の不思議な甘さが舌にまとわりつく
「明日も、頑張ろう。一緒に」
「・・・そう、ですね。明日も、明日も頑張りましょう」
見えない未来を無理になんて見ない。
微かに見える明日を一生懸命生きなければ。
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「えぇ〜・・・・ハヤテ君、ダメだよちゃんと出ないと」
「いいだろ別に。実技訓練は出てるんだし」
「ううーん良いのかなぁ」
いつも寮に入寮しているみんながお仕事に向かった後に掃除のために部屋に入って掃除をするのだが、一応非番の人も居る可能性を考慮して毎回部屋に入る前は声をかける事にしている。
新しく入寮したハヤテ君の部屋も同様に声をかけたら、なぜか部屋から返事が返って来たのである。体調不良かと心配するまもなく元気な姿が見えたのでもう何も言わないよ。サボりだなこれは。
この絶対的弟感。
自分に正直な感じ。
メッサー君には無い弟感だわ。
「なぁなぁ、この後もちこは何か予定あんの?」
「あるある。私このお仕事終わったらカナメさんに呼ばれてるから」
ベッドでゴロゴロするハヤテ君に言うと、「は?」と返された。
何故お前がワルキューレのリーダーに?
って顔してんな。わかるわかる。
「という事で、お掃除おしまい。無理もしちゃダメだけど、あんまりミラージュちゃん困らせちゃダメだよ」
この子は、なんだか可愛らしい。
ここ、ケイオスでは子供が大人の顔をしていたり、頑張りすぎる人たちが多すぎて、彼のような自由な発想や行動は新鮮な気がする。
きっと私よりも多くの体験をして多くの星を回って来た事だろう。それでいて、こんなに自分のしたいことを言えるのはきっといい事なはずだ。
思わず透き通るような青い髪に手を伸ばすと、思いのほかサラサラと髪が指をすり抜けた
ハヤテ君は一瞬びっくりしたように目を見開いたと思えば、気持ちよさそうにゆっくり目を閉じた。
17といえば高校生くらいの歳だ。
思えばその頃は何もかもが自由で、大人になりたくて。でも子供にも戻りたくなくて。
この子のわがままは少し心地が良い。
頭を撫でる手を止めると、むすっとした顔がまた面白い。これが正しい子供なのかもしれない。
「よしよし。ハヤテ君の様子は見れましたし次はフレイアちゃんの様子を見に行こうかな」
じゃあねーと手を振って部屋を出ると、中からよっしゃやるか!と元気な声が聞こえて来た。
我がデルタ小隊は元気があって大変よろしい。
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