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ラグナの海から登る太陽は、もうなんども見たというのに、今日もこんなにも美しい。
どこからやってくる波なのか、キラキラと穏やかに波打ち、青く美しい空を写す。
たとえ戦争中でもそうでなくても。



ベッドの側にある椅子に座って窓の外を見る。

朝焼けで黄色に染まる部屋の中で、くぐもった声が響く。

ベッドに目をやれば、メッサー君が苦しそうにもがいている。
どんな夢を見ているのか、そんなことはわからない。空調はしっかりとしていて、寒くもなく暑くもない。それなのに彼の肌には汗が滲み、眠っているというのに肌は土色だ。
浮き出す血管が毒々しい。
腕に巻いた包帯も乱れ、ほんの少し血が滲んでくる

「ああああぁぁあ」

呻き声が上がったと思うと、勢いよくメッサー君が起き上がった。
その目は充血していて、腕はカタカタと小刻みに震えている。

「はぁ、は、・・!もちこ、さん」

そう言ったメッサー君は疲れたように両手で顔を覆う。

「大丈夫?」

「すいませ、少し・・・悪い夢を見ました」

「本当に、それだけ・・・?」

じ、とメッサー君を見つめると、覆った指の間からゆっくりと大きく目を見開いたメッサー君の顔が露わになる。

グッと口元が引きつったかと思うと、整った顔がくしゃりとゆがむ。

「隠してること、あるよね」

「・・・それは」

「隠し事、無しにしよう。運命共同体だって。そう言った。2年前だよ。覚えてる?」

「・・・そうでした、ね・・・わかりました。俺の・・・あの時のヴァール化が、再発したようです・・・隠していて、すいません」

「・・・そ、か。・・・・私に、私にできる事、ある・・・?」

やはり、と言って良いくらいには想像していた言葉だった。
帰ってきたアラド隊長やハヤテ君が言っていたのはこの事だったのかもしれない。

「!、それは、」

メッサー君の焦燥した顔から、徐々に困惑へ変わっていく。まるで息が止まったかのような感覚に陥っていく。

「メッサー君の為に、出来ることってするって決めたの」

「もちこさ、もちこさん、それは」

「運命共同体だって、そう言ってくれたでしょ。メッサー君ばっかり頑張ってちゃ、そんなの嘘だよ」

険しかった顔が、困ったように、迷い子のように、弱々しく変わっていく。
泳いでいた目が、私を捉える。

光を濃くして強く、そしてふるふると揺らめく瞳が何かを訴えてくるが、残念ながら私は特殊能力を持っていたりだとか、感情を読み取る能力は持ち合わせていない。

それでも人並みに感情を読み解く機能を持った脳が、彼から目を離すべきではないと囁きかける

伸ばされた手が頬に触れて、カタカタと震える指が両頬を包む

「それは、それじゃあ・・・そんなの、危険すぎるっ、・・・・貴女は、もちこさんは無事に元の世界に帰らないと・・・そうじゃないとダメなんです、っ、そうじゃないと・・・」

頬を覆っていた掌が下げられると同時に腰に回された手が弱い力でグッと、ベッドに引き寄せられる。おでこ同士がぶつかり、すぐ近くにメッサー君の黒い瞳と視線がぶつかる。

「だいじょうぶ。大丈夫だよ。実験はうまくいってる。カナメさんにもアラドさんにも確認したでしょ?私が一緒にいて、歌を歌って、そしたら、いつも通り」

きっと怖い夢も見ないよ


そう、嫌な言い方にならないように。
私なりに考えた答えを、そっと、なるべく優しく聞こえるように言うと、見開かれていた目が、ぎゅっと閉じた。
流れるように、メッサー君の頭が肩にすべり落ちる。



泣き出してしまうのではないかと思うほどの弱い声が近くで聞こえてくる。
言葉にはなっていない。いくつも選ぶような迷うような、そんな声が静かな部屋にポツポツ滑り落ちている。


そっと、腕の怪我を刺激しないように背に手を回し、撫でると、シャツに滲んだ汗がジワリと手を湿気らせる。思ったよりも随分と冷たかった。



ジワリと肩に暖かい何かが染み込んだ気がした。




大丈夫。
怖くなんてない

またメッサー君の後ろに乗って。

大丈夫。何も怖くない。
私はきっと大丈夫。


そっと顔を上げると、窓の外には美しい海と、美しい光が踊っていた。





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