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「お前も、ついていくんだって?」

「・・そうみたいです。メッサー君の、再発しないようにって事らしいです」


メッサー君はやっぱりケイオスにとって最優良パイロットで間違いないようで、私はほかの星で指導官となるメッサー君の付き人として移動が決定したのである。
もちろん私に意見する権利はない。
まぁしかしアラドさんが知らされていないのは意外だったな。隊長なのに

部屋の壁に寄りかかるアラドさんは珍しくほんの少し不機嫌だ
いつも通り穏やかではあるもののムスッとした感じもあるように思える
ううーんイケメンはムスッとしてても絵になるってずるいな
無敵だ
何を考えてるか想像してみるも私の能天気な頭では思いつかない。


私の持っていたものなんてなんにも無くて、増やす気も無かったのに、いつのまにかこの2年で増えていた私物を次々と小さな箱に片付けていく。

ふと、頭上に影ができたと思ったら最後の荷物を入れる腕が大きな手に掴まれる

あたたくて大きな安心をくれる手

がっしりとした印象の健康的な手はイメージよりはるかに優しく、掴まれたというよりかは、添えられたと言った方が近い

「どうしました」

「悪いな・・・俺が帰れる場所を探してやるって言ったのに。家族になるって、約束したのに」

「結局帰してやれなかったな」なんて
そんな昔のことを覚えてくれただけでも十分

記憶喪失だとか、錯乱状態だとか
そうだったらどんなに楽か
そうだったらこんな思いもしないのにとか

そんな気持ちを全部すくい取って温めてくれたこの人は、宣言通りしっかり今まで1番の私の味方でいてくれた。家族のように気遣い、兄妹のように接して尽くしてくれていた筈だ。

これ以上を望むなんて贅沢すぎる

そっと頭を包み込むようにふわりと抱きしめられる。
スン、と息を吸い込むと不思議と落ち着くにおいが体を満たしてくれる
ここだけ言うとかなり変態じみているけれど、やっぱり安心をくれた人だからこそすごく安心してしまうんだろう

「行くな、とは言わん。メッサーと一緒なら大丈夫だ。辛くなったり、寂しくなったら連絡しろ。これは最後の隊長命令だ」
お前もワルキューレだろ。補欠殿
そうやってウインクしてくるアラドさんはいい意味でタラシだ。人タラシ

ほんの少し溢れ出た涙を見られる前に手でこすり「了解」と返事をしたが、どうにもバレていたようで、ふ、と笑われてしまった。
元々隠し事は下手くそだが、この人の前では余計に無理らしい。

「擦るな。泣け泣け。明日は絶対いい日になる。いい日をたくさん生きろよもちこ」

アラドさんにそう言われると弱い
ついさっき拭き取った涙はまた目からハラハラとこぼれ落ち、ついには拭き取っていた手はビショビショだ。

「ふ、ぅぅ、はぃ、はい・・・!」


豪快な笑い声と一緒に優しい手が頭に降ってくる
私はきっとこの暖かさを忘れない
忘れることなんて絶対できないのだ

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部屋の窓から外を見上げると、半透明でいて、美しく光輝くクラゲが空に向かって浮遊しているのが見えた

海に無数の星々が浮かんだかと思えばするりするりと宙へ、空へと舞い上がって行く

まるで輝く羽衣を手に入れたように天を目指すそれは天女さながらだ。

美しいこの光景を目に焼き付ける。
目を閉じると、鮮明にこの光景が思い出せるように。

1人窓に手を当てて。
ガラスギリギリまで顔を近づけて見つめる。

みんなと一緒に行かなくて良かった。こんな光景をみんなと見てしまったら
絶対に泣いてしまう。
私が泣いたらメッサー君を困らせてしまう。

いつもの能天気な、楽観的な自分はどこかへ旅に出てしまったようだ。

小さく見えるクラゲをみる人々

メッサー君はちゃんと伝えられたかな
思いが届けばいい
ちゃんと。
できればちゃんと通じてほしい
メッサー君は口下手だから
汲み取ってあげてほしい
彼の思いをすくい上げてほしい

ああ、でもどうして


胸が、痛い


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