6









俺は薄情である
こればっかりは性格でもあるし、前の主の影響かもしれない。武将の懐に隠れ、その人の真の心の側に居たからかもしれない
まぁ、一生懸命探している兄弟や一兄には悪いが、俺は別に主を見つけなくてもいいと思っている。

もしかしたら他の兄弟の何人かもそう言った気持ちを心の内に隠しているかもしれないが素直に打ち明ける者はいないだろう。

さて、俺は今中学1年生。13歳。前の身体よりかはほんの少し手足が伸びたし世界が広がった。行動範囲も人脈も随分と広がった。

真実を話そう。実は1度主を見たことがある。
いや、嘘だ。
主によく似た女性を見た。これが正解だ。
正確には、あの本丸で命を燃やし尽きた時の歳の頃にとてもよく似た女性を。だ。

あの頃をよく思い出すお姿だったのは覚えている。俺には敵の一撃を退けられても病魔の一歩を踏みとどまらせることは叶わなかった。いくら医術が有ろうともやはり限界があるというものだ。
だがこの世界の医学はどうだ。
あの頃とは月とスッポン。天と地の差程あると言っても過言ではない。
俺が守らなくとも自殺さえ困難に作られている社会だ。なんぞも心配に及ぶ事はない。

彼女は笑っていた。
その姿を見て思ったのだ。

彼女はどうやらこの世界でとても楽しそうなのだと。
俺も、きっと兄弟も。自らの家族とも呼べる仲間と出会えて幸せでいる。その事実は主を見つけようと見つけまいと何も変わる事はないとそう信じている。

見つけた瞬間は心の臓がせわしなく動くくせに息も出来ないほどだったが、ほんの少し跡をつけて、記憶が無いということがわかった時、ああそうか。ならばそれはそれで。と思った。
ちょっぴり拾い物をさせてお礼を口実に連絡先を聞いたが、なに。抜け駆けでは無い。何故なら彼女が主だという証拠は何一つ無いのだから。

ああ、冒頭でも言ったが俺は薄情ものである。薄情者ゆえに、真の事は暴かず様子を見ることにしたという訳だ。
ほんの少しの出来心と好奇心だ。
俺の知らない主と俺を知らない主。なんとまぁ。それもまた一興と言ったところだ。


何やら声に聞き覚えがあるだとか、俺の小さい頃に会ったこと無かったかと聞かれたが今世ではこれが初なので否と答えた。ほんの一握りほどの記憶は存在しているのかもしれない。まぁこれも彼女が審神者だったという確たる証拠にはなり得ない。何せ顔を見てもわからないときてるのだ。問題無い。嬉しいようなぬか喜びのような複雑な心境だ。


なに、俺もやっと人の子になれたのだ。
兄弟には悪いが前世でなれなかった人間を楽しんでもいいだろう。

俺っちのなれなかった俺に俺はなって見たいと、そう思うのだ。








_______________________________________ _ _
実はこっそり会ってた薬研藤四郎。

これから粟田口が出て来るときは名前が読んでいて不自然になると思うので、ちょこちょこ改造していく予定です。田中さんとか中田さんとか適当につけちゃうかも


ALICE+