オブシディアンを指でなぞって3・5
「うげ、おーれーパァース」
毎回顔を合わすたびに、嫌そうな顔と声で全力で気怠げに拒否すると言う芸当をしていた男、ザップ・レンフロは今や彼女、魔女こともちこ・御手洗のファンである。
なぜそんな事になったかと言うと、彼女の持ち出してくる奇天烈なお菓子やオモチャに魅了された、としか言いようがない。
この阿呆はきっと悪い事にしか使っていないだろうという予想は簡単だが、現行犯でない限り口を出すのは如何なものか、と言うところだ。
レオナルドあたりもきっとザップが彼女の持つ菓子類を何に使っているのか見当がついているのだろう。
いや、もしかしたら使っているところを見たのかもしれない。ザップがミスもちこにあれが欲しい、これが欲しい、と言いよる度に必死で阻止しているのだから。
私生活まで監視なんぞしてられない。特にこの男の私生活なんて知りたくもない
「うおぉ、なんっじゃこりゃぁぁ」
またもや部屋にレオナルドの歓喜と驚きと小指の先程の軽蔑を込めた悲鳴が響く。
同時にザップの褒め称える声も聞こえるのだから気分も悪い。
「スンバラシイ!さっすが姐さんっす!このザップめにその飴玉いただけやせんかねぇ」
「いいけど・・・フィフィ・フィズビーだけね。すっぱいぺろぺろ酸飴はちょっと危険かなぁ。知り合いは舌に穴が開いたって言ってたから、マグルには危ないと思うの」
は?穴だと・・・!?
特になんでもないように、ごく一般的とでも言うように注意する彼女をうっかり凝視してしまう
僕としたことが。
手に持っていた資料がはらりと足元に落ちた気がするが、言ってられない。
そしてその資料がごく自然に手元に戻って来たこともあまり指摘したくない。
ありがとうミスもちこ
ティーンの頃イギリスで受けたという教育とジャパニーズの細やかな気配りがかけ合わさった気遣いにさすがと言わざるを得ない。
ただ常識はおかしいが、それは俺達にも言える事なので黙秘しよう。
「すまない」と感謝を述べると「いいえ」とにっこりされる。
さて、状況を説明しようと思う。
数週間前からチームメイトとなったもちこ・御手洗は逃げた数名の魔法使いを捕獲するためこのライブラにいる。
なぜライブラに居るかというと、このヘルサレムズ・ロッドにおいてもその魔法使いを放置するわけにはいかない敵だからである。
すなわち世界の敵である。
牙狩りとして関係はなくとも世界に危機をもたらすと考えて相当する危険分子だ。
手を組み、捕縛、または排除するに値する案件なのである。
前回の断固捕縛から排除も加わったかというと、大きな組織ではなく、数名のみの犯罪であることがわかったからだ。
それは先日1人捕まえることに成功し、得た情報である。
やり方は言いたくもない。
そして信じたくもない。
実に魔法とは不可解で、そして非常識な物であると痛感したからだ。
誰が先の戦闘で、いつどうやって敵の毛髪や爪のかけらを獲得し、どうやって完璧な変装をしたかなんて考えても答えなんて出ないからだ
怖い。
この全く害のなさそうな幼げで儚げな少女がえげつない作戦を立てて敵を捕まえたなんて考えたくない。
ポリジュース薬と言っていたが調べても1ミリも情報のないものを持ち出されてまったく肝が冷えた。
結論としてはこの生き物は同じ人間だと思ってはいけない。
「真実薬を飲ませれば一発です!レジリメンス、開心の呪文使ってもいいんですけどね。たまに閉心術の達人が居てらっしゃるので。こればっかりは薬に頼りませんと。」
そう言って笑う彼女はとんでもないことにを口にしているというのを全く自覚していない。
なんだそれは。新しいドラッグか
「こえぇ・・・」
「まったくだ。ミス・もちこは全くもって恐ろしい」
深くうなづいてレオナルドに同意した。
「ちょ、もう!魔法界では割とポピュラーです!馬鹿にできませんよ!もともと生まれついて心を読む人も居るんで、皆さん閉心術は心得ていた方がいいですよ!」
私も心得があります!
えっへんと胸をはるが、正直に言おう。引いた。
「なんか恐ろしいところですね・・魔法界・・・行ってみたいなぁなんて少しでも思ってた俺が馬鹿でした・・」
「んな、そんなことありません!この件が片付いたらダイアゴン横丁へ招待しますよ!あそこはマグルも出入りしていますし、きっと許可はおりるはずです!」
「え!まじか!その飴玉が売ってる店あるのか?!」
「もちろんです!私の先輩が経営しているお店がオススメですが、マグルが使うと大変なことになるものもあるんで、注意が必要です」
この言葉にザップは喜び、レオナルドは絶句し、チェインはいつのまにか窓に足をかけ、部屋に入ろうとしていたが、すぅ、と音もなく姿を消した。遠くでパソコンの影からキラキラと目を輝かせている我らがリーダー・クラウスもまた、心躍らせているのが見て取れる。
この一見無害そうな平凡で可憐な少女は、いい意味でも悪い意味でも人を魅了する。
もちこ・御手洗
彼女はまさしく正しく魔女だった。
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