氷のように熱情(カルフォルニア様連載if)








最近、もちこさんとアラド隊長がよく一緒に居るのを見かける。本人から仲良くなったと、嬉しそうに話してくれた事もある。

隊長は家族だと、妹のようだと言っていたのも聞いたことがある。

その時俺のことも家族のようなものだと言っていたのを覚えて居る。

今日もアラド隊長ともちこさんは仲良くお喋りのようだ。
なんとなく、ただ漠然と俺が1番近いと思っていた。1番では無くとも近しく親しいのは自分だと。少なくともここの男性職員よりは、と。そう思っていた。
クスクスと笑う声が刺々しく胸に突き刺さる。彼女の声でいつもは染み渡るように広がる幸福感も、、今はまるで毒のようにジクジクと頭痛をもたらす。
自分のためでない笑顔、自分のためでない笑い声。
それがいかに傲慢で、無遠慮な思考かなんてわかっている。

彼女の幸せを願うと誓ったのに。
家族でいいと、姉でいいと、そう、思っていたはずなのに。
彼女が隊長に話しかけるのが、笑いかけるのを見るのが辛い。
俺に話しかけていても、その口が隊長に何を話しているのか、その唇が、まさか隊長に触れてはいないか
そんな事ばかり頭を巡る

このどうしようもない、息苦しさはなんだろうか。息が、できない。

どうすれば。
どうすれば。

ギリっと握りしめた手のひらに爪が食い込む音が耳に響いた気がした。

聞きたくないのに聞きたい
彼女の話す声は吸い込まれるように実に自然に俺の耳に入ってくる。
じわじわと毒が身体を這い回るような感覚に眩暈を覚える。

早く、早くこの場から離れよう



「最近メッサーとはどうだ?仲良くやってるのか?」
よく俺のとこ来てるけどいいのか?

なんてアラドさんがほんの少し心配そうにしている。最近のメッサー君はちょっと怖い。それは私にも謎だ。
「なんだか話しかけにくい感じなんですよね。何故か。アラドさんと気兼ねなく喋れるようになって嬉しくなっちゃって、その話をメッサー君にしたんですけど。それからなんて言うかあんな感じで。何か気に触る事言っちゃったのかな。全然こっち見てくれないし・・だからなんだか声かけにくくて」

朝も声をかけたけど簡単な挨拶で終了。しかも目をそらされてちょっと悲しいよお姉さんは。夜ご飯も誘いたかったけどどうにも誘いにくいので、流れに身を任せてアラドさんと食べることになったわけだ。
ほんとはカナメさんも一緒の予定だったのだが、ワルキューレ親睦のために絶賛別枠女子会中である。
ちらりと視界の端に見えるメッサー君に意識を移す。めちゃくちゃ水を睨んでいる。こわい

「ふむ、なんだ。メッサーは子供だな・・・俺はもちこと話せて楽しいからまぁ、良いんだが。」
「やったーアラドさんすきー」
「おい棒読みじゃないか。もっと言って良いぞ」
「アラドお兄様大好きー」
「よし今日は俺の奢りだ」

お兄たんチョロいぞ。
気をつけないとここにはワルキューレしかり、強かな美人多いんだから。いい鴨にならないか心配になってきたよ・・・・

「いやーもちこが緊張しなくなってきて俺は嬉しいよ」
「うわーっ重いです重いですっ首締まります〜」
「はっはっはっはっ」

酔っ払いめ
ぐぬぬ重いしこんな至近距離で男の人に抱きつかれるのも初めてだし、は、恥ずかしいぞ・・・・
アラドさん天然タラシ説濃厚すぎる・・・!


ちらり、と抱きつくアラドさんを見ると、のび太くんもびっくりの寝落ちを披露していた。酔っ払いめ
はぁ、と思わずため息をついてしまう。
ちょっと暑くなった顔を冷ますように手元の水を一気に煽る。ちょっとはマシになったはずだ。

ううう・・・うっかり好きになったりしたら痛い目に合うなこれは・・・

様子を見にきたチャックさんと目が合うと、物凄い顔をしていた。どんな顔かと聞かれると物凄い顔なのである。それ以外言い表しようが無い。
どうやら私の頭の中の声がうっかり口から逃げ出していたようだ
失敬失敬。

「仕方ないな。アラド隊長は俺が部屋まで連れていくから、もちこちゃんはメッサーに部屋まで送ってもらいな」
「え?メッサーくん?」

チャックさんの目線を辿ると、すぐ後ろに怖い顔をしたメッサー君が立って居た。
こわい

「チャック少尉、隊長よろしくお願いします。行きましょうもちこさん・・・」

「う、う、うん。アラドさーん、ごちです・・・」

「貸し1だぜメッサー。感謝しろよな」

「・・・・・っ、すいません。いきましょうもちこさん」

「わっ、ちょっと、はや、」

メッサー君はいつもならこんな腕を引っ張って急かす様に早く歩くことなんて無かった
私が甘えすぎて、面倒になった・・とか

うわあ、自分で言ってちょっと泣きそう

必死でこぼれ落ちそうな涙を引っ込めているともう部屋の前に着いたのか、ピタリ、とメッサー君の足が止まる。
ガチャリ、と音を立てたのは私の隣の部屋のメッサー君の部屋の扉だった。
腕をひかれ、思わず中に入ってしまった。
中に入ると背後で扉が閉まったのがわかった。
「あ、れ。ここメッサー君の・・ごめ、中入っちゃって。ありがとう、送ってくれて。じゃあ・・私、部屋に戻・・」

ガンッ
背後のドアがミシリと音を立てて軋むのが部屋に響く。ほんの小さな音であったはずだけれど頬の隣に打ち付けられた腕のせいでうるさい心臓の音とギシギシと軋むそれがよく聞こえる。

「・・・っもちこさんは、アラド隊長の事・・・好き、なんですか」

・・・すき?
たしかに、そう聞かれるとちょっとわからない。触れられるとドキドキするし、近すぎると身体が熱くなってしまう。
でも、私の好きな人はアラドさんではない

「そんな、こと、」


ぐっ、と頬の横にある手が強く握られるのがチラリと見えた

視線をあげると、苦しそうに歪んだメッサー君の顔がすぐそばにあった
形のいい眉は下り、いつも以上に皺の寄った眉間、私を見つめる、熱のこもった瞳。

なんでそんな顔をするのだろう

どうして・・・
どうして?

「嫌です・・嫌だ。もちこさん」
「え?なっ・・・め、っさ」
彼が縋る様に壁に付けていた両手を私の頭に回し肩に顔を埋めるてくる
なぜだろう。
彼がする行為はきっと、仕事パートナーのスキンシップからはもうすでに外れてしまっているはずだ。なのに、私は全然嫌ではない。

「すいません・・でも、・・・俺では、駄目ですか?俺では、貴方には似合いませんか?俺はっ」

手は震え、体も少し震えているのがわかる。肩口に当たる肌が嫌に冷たい

「貴方が、他の男といるのが耐えられない。俺から離れていくのがとてもじゃない、苦痛なんです。どうか、どうか、もちこさん」


「好きです。好きなんです」

熱を含んだ声に身体がかあっと熱くなる。
そんな懇願される様に見つめられると、とろけてしまいそうなほどに身体が火照る。この熱はなんだろう。

私は、私は彼のことが

「どうか、・・貴方に触れたい」

消え入りそうな声が、ついには私の唇に当たって消えた

「嫌なら、噛み切って」
「ふ、」

唇が、頬を滑り、舌が私の熱を奪おうと動く。鼻から抜ける自分の声に恥ずかしくて涙が溢れる。

不意に唇が離れ、メッサー君の顔が急速に離れていく。

爆発してしまいそうなほど、心臓はうるさく叫んでいるのに、私の口と言ったら一向に何も言葉を吐き出してくれない。ああ、そんな悲しそうな顔をしないで。顔色なんて可哀想なくらい青ざめている。なんだかそんな顔をさせてしまったというのに、愛おしく感じてしまう。
愛おしく・・・?

「すいません・・・もう、2度と近づかないんで・・忘れて下さい」

「ちが、メッサーくん。違うの、びっくり、そう、びっくりしただけで」

メッサー君の目が、驚くように見開かれる。
青ざめていた顔に色が戻っていく様だ。

すんなり受け入れられた気がした
弟だなんて予防線を張って
最初に線を引いたのは私
怖がっていたのは私
誰よりもこの状況に混乱しているのも、喜んでいるのも、私なんだ

「すき・・・私、きっとメッサー君が好きなの」





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ありがとうございました。
いろんなパターンも有りかなと思いここで区切らせていただきます。
メッサーに熱烈に迫られたい人生でした。
ALICE+