嘯く心(メティス様連載if)


ちょっぴり他の方のリクエスト内容と少々被っていたのでガラッと雰囲気を変えてみました。ちゃんと変わってたらいいんですが。。

本編と状況や心情が少し離れます。
ifです。








恋は落ちるものだって誰かが言っていた。
もしかしたらどこかの雑誌で読んだのかもしれない。その時は随分と安っぽいと思ったものだ。恋はしようと思って初めてするものだと思っていたし、突然やってくるものなんかではない。そう思っていた。

カードゲームのように選択肢の中から選び取って行く。そういう保守的で、逃げ道も用意されたレールを行くものなのだと、そう、思っていた

実際はもっと険しく、もっと純粋で、もっと愚かだ。

かく言う私も、気がつけばその荊の道へズブズブと踏み込んで行ってしまっていたわけだ。
恋とは。
荊の道を進むが如く一歩毎に肌に棘が食い込んで行くものなのだ。

さて。では私の話をしようと思う。
私には好きな人がいる。最近好きになり、自覚し、確認している最中なのだが、厄介なことにこの恋は最初から終わっていたのだ。

最初からクライマックス。

最初にしてエンドロール。

タイトルコールよりも早く出て来るエンドの字幕。

例えて言うならそんな感じ。

もともと私は彼が好きであろうと踏んでいるワルキューレのリーダーのカナメさんとの仲が深まるようにと陰ながら応援していた立場だ。だからなんだろうか。2人が一緒にいるのを見つけるのがとても上手くなったし、意識してようがしていまいが、勝手に目や耳に2人の情報が入って来るようになった。

ほらまた。
メッサー君はカナメさんと一緒。

時には朝早く。
時には夜遅く。

そんな2人を見るのが辛くて、応援しようと勝手に決めて、今度はくっついて欲しくなくて勝手に傷付いて。

ついうっかり、大きなため息がこぼれてしまう。彼はきっとカナメさんが好き。カナメさんもきっと彼が好き。
もしかしたら、公言していないだけで付き合っているのかも。

考えれば考えるだけ鬱になって来た。
もうやめよ・・・。早く部屋に入って寝よ


「あれ、もちこさん。どうしたんですか?こんな夜遅くに・・・」
「っあ、メッ・・サー、君」
「?気分が優れませんか?今の時間なら問題無いと思うので医務室へ行きましょうか」
「あ、えとだいじょうぶ。体調もぜんぜん。大丈夫。もう寝るだけだし、大丈夫、大丈夫・・・」

心配そうなメッサー君には、なんだか悪いが気にしてもらって嬉しい自分もいる。複雑な心境だ。つい視線が足元を彷徨う。

「・・・・・・また、眠れませんか?」
「え?」
「少し話しましょう。大丈夫そうには、見えません」

廊下ではなんですし、時間も遅いので俺の部屋で。
そう言われて、音を立ててメッサー君の部屋の扉が開く音がする。
目を合わせたら、もしも優しい表情をしていたら。そう思うとなかなか彼の顔が見れない。
目を見て話しなさいとはよく聞くが、彼よりも大人である自分ができていないとは情けない。しかしながら自分の心を守るための苦肉の策だ。

メッサー君が入った後、少し遅れて中に入る。
私の部屋とほとんど一緒の家具や寝具。違うのはシーツの色や、テーブルの上にあるものくらい。
窓から見える景色も隣なだけにほとんど変わらない。
大きな鍵穴のような形の窓から見える空は暗く、海も黒く波打っている。

「・・何かありましたか?」
「・・・・ううん。なんでも無い。少し疲れてたのかな?もう大丈夫だから」
「そうは、見えません」

彼の手が、私の腕を掴む。
ゴツゴツとした大きな手が囲い込むように捉えているというのに、ほんの少しも力を込められていない。
そっと、触れるように拘束する。
そういうところが良く無いのだ。
そういう事が、私を追い詰める。

「俺では頼りないですか・・・・?なんでも・・・何でも話してくれるんじゃなかったんですか?」

あなたの事で悩んでました
なんて言えるわけもない

何も言えないでいると、グッと眉間にシワを作った顔が近づいてくる。

「っ、どうして」
絞り出したような声に、心臓がギュッと絞られるような音がした。ぎりりと痛む。

「・・・わ、私、部屋に」
戻ろうかな

そう全て言い終わる前に、振り払おうとした手がギュッと握られる。
「・・・、なんだかよそよそしいですね」
「それは・・・」

キリキリと胸が痛む
言ってしまえば胸の内が知られてしまう
汚い気持ちが知られてしまうだろう

彼と目があって、余計に半開きの口は喉まで出て来た言葉を吐き出そうと、ワナワナ震える。そう簡単に投げ出しかけた言葉は引っ込んでくれないようだ

「か、カナメさんに勘違いされちゃうでしょ?いい感じ、なの、に私のせいでこじれさせたく無いなって・・・思って」

「え・・・?」
「だから部屋戻るね。じゃ、おやす、わっ」
「ちょっと待ってください」
「な、にメッサー君・・いたっい、離して」
「話を聞いてください」

掴まれていた手が急に引っ張られ、近くの壁に肩や頭がぶつかる。
その衝撃にびっくりして思わず閉じた目を開くと、思いの外近くにある彼の焦ったような顔。
メッサー君が何かを言いかけた時、ガチャン、とテーブルに置かれたはずのメッサー君のリングが音を立てて床に落ちた。

そこから流れるのは、

カナメさんの、曲

歌声は入っていなかったが、聞いた事ある。このメロディは彼女の曲だ


知ってた
知ってたけど。
彼が彼女を思っているなんて今更、
今更なのに

何度も何度も感じてきた鈍い痛みが、さらに鋭いナイフとなって胸にズブリと刺さるような、そんな息苦しさが襲う。

私の中で何かが、
どさりと地に落ちていく音がした

「ふふ、そうだよね。メッサー君はいつもいつもカナメさんばっかり」
「え、ちょ、もちこさ・・・」
「離して。もういいでしょ」
「な、・・・もちこさん、話を」
「ああ、それともなに。私をカナメさんの代わりにでもするの?手軽だし、簡単よね。いいよ。別に。身体だけでも。」

「っ、ふざけるな!」

思わずきゃ、と声が漏れた。
口が開いていたから舌を噛んでしまったかもしれない。
腕を思い切り引っ張られ、私の体は近くのベッドに叩きつけられたようだ。

目の前には、イラついたような、悲しいような、見たことのない顔をしたメッサーがいた

「な、なに・・・」

はぁ、と苦しげな声が首にかかる
それほど近くに私を覆うように彼がのしかかってくる
なんだ
やっぱりそうなんじゃないか。

急速に体温が下がっていくのを感じる
自分の頭にあったことが口から漏れ出しただけだと言うのに、後悔と自分と彼への失望でいっぱいだ。

「本気で、そんな事言ってるんですか?俺が、俺が・・・・・・!」
「きゃっ」
ドスっと私の顔の横に拳が落ちる
ひゅっと喉が鳴るのがわかった

そろり、と拳が落ちた腕からメッサー君の顔へと視線を移動すると、きゅうと細まった目がばちりと合わさった

「すいませ、っ・・・もちこさんは、好きでもない男と、こんな・・・、もちこさんは、いいんですか・・・?」

首筋に、顎、頬、そしてそっと取られた手の甲にキスを落とされる
いつもよりほんの少し乱れた彼の髪が頬や首に当たる
意外と柔らかな髪が肌に触れるたび現実に戻される

ああ、自分はこんなことして、そう後悔がどっと胸に押し寄せる。
それでもほんの少し幸せで、ほんの少しの優越感

泣くつもりなんてなかったのにはらはらと流れる涙を止める事が出来ない

私は、彼が好きなのだ
代わりでもいいくらいには。
一瞬でも、愛してもらえるなら良いと思ってしまっているのだ。

「すき、メッサー君が、好きなの」

「!」

急速に体が離れていくのがわかった
涙で濡れた視界の中でも大きく目を見開いて固まるメッサー君の姿が見えた

「それは、本当ですか・・・」

「・・・こんな時に嘘は言えないよ」

「な、わ、す、すいませ」

私の言葉でぐんぐんと真っ赤に染まっていくメッサー君は、大きな片腕で顔を隠したが、しまいには耳までも真っ赤になっていた。

ついポカンとしてしまう

「う、嬉しいです。俺も、その・・・貴方を慕っています」

「え!?うそ!?か、カナメさんの事が好きなんじゃ・・」

「?そんな事は無いですが・・上司として尊敬してますけど」

「だって、だって!ブレスレットに曲だって入って・・いつも一緒にいるし」

「ああ、音声は入ってなかったでしょう。あの曲、俺がヴァール化から救われた時の曲なんです。もちこさん、俺の後ろに乗るのが苦手なようですのでブレスレットに歌を入れて貰おうかとカナメさんに相談していたんです。その録音施設の使用許可を貰おうと掛け合っていたんです。」

「そ、っか・・私の勘違いだったの・・・」

「すいませんでした。勘違いからだったとは知らず手荒な事してしまいました。でももちこさんも悪い」

ギュッと手を握られ、腕の中へ引き寄せられる。幾分か顔の赤みが減ったとは言え、彼の体はほんのりと熱い。

「こうやって、迫れば体を許してしまうのかと、俺以外の誰かにも身体を差し出してしまうのかと焦りました」

もう、俺のものですね

そう言われてギュッと抱きしめられる
胸が嬉しさで跳ね上がってうまく返事ができそうに無い

こくこくと頷く私の顔もきっと真っ赤だ。


続きは、また今度

そう言われて私の顔がさらに赤くなるまで、あと数秒。
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