海月の下で(紅羽様:連載if)







「私と、クラゲ祭りに一緒に行って下さい!!!」

人気のない浜辺に女性の声が響く
背の高い男性と俯く女性の姿が夕日に照らされて影が伸びる

目を凝らしてよくよく見ると、あれはケイオスの社員の制服を着た女性と、仕事終わりなのかタンクトップにジーンズというラフな格好のメッサー君だった

こ、これはあんまり見たらいかんやつやないか・・・
なんだクラゲ祭り・・
某番組でやってたみたいな?お祭り男的な・・?
誰かに聞いてみよ。


という事で急いで仕事に戻ろう。
今手に持っているシーツを各部屋に持って行ってベットメイキングを済ましたら本日のお仕事は終了だ。
今日はチャックさんに仕込みのお手伝いも頼まれていないし、ゆっくりできそうだ。


「あ、もちもちもちもちだ〜!お疲れ様〜」
「シーツ・・・手伝う?」
「マキナさん!レイナさん!良いところにー!」
「そんなに。シーツを渡して」
「ああ、違います違います。あとベッドにセットするだけなんで大丈夫です。そうじゃなくて、クラゲ祭りってなんのお祭りなんですか?」

2人はクラゲ祭りと聞いた瞬間にキョトンとして目を合わせた。
そのあとすぐにニヤニヤしはじめた
な、なんだ・・
やっぱり大食い大会なのか

「はっはーん。さてはメサメサに誘われたなぁ〜」
「ふっふっふ。ついにもちこにオススメの下着屋を教える時がきたな・・・」

下着屋・・?
やっぱり大食いなのか
そんな緩めのパンツが必要なほど、だと?
ん?でも何故メッサー君?

「ああ、いや、違うんです。さっきメッサー君が誰かに誘われてるのちらっと見ちゃって。クラゲ祭りって初めて聞いたんでどんなお祭りなのかなぁって」

「なんと!うーん・・・あ!クラゲ祭りの日にメサメサに誘われたらその時メサメサに聞きなよ!メサメサ全然そういうの来たがらないみたいだから、もし誘われなかったら私達と一緒に行こ!でもちょこーっと営業あるから手伝ってね」
「ふっふっふたのしみ・・・」

「わ、わかりました。私も一緒に行けるの楽しみにしてますね!どんなお祭りか楽しみだなぁ」

じゃーねーっと元気よく去って行く2人を見送って、自分の作業を終わらすべく、寮の各部屋へと足を急かす。

_____________________________



今日はクラゲ祭りという祭り事に誘って来る人が多いな、と思いながら、ちょうど数秒前に誘って来た女性を思い出す。
会ったことがあっただろうか。
仕事があるという理由で断ったが、そのクラゲ祭りとはいったい何だ

そう思って女性が走って行った方を見ると、チラリと建物の影からアラド隊長が見えた

「え」
「え?」

アラド隊長は大袈裟というほどに目を見開いて両手を顔の高さまで上げて降参のポーズを取っている。

「悪い。たまたま通りかかったんだ」
「いえ。構いませんが」

2人で裸喰娘娘へ向かう途中、アラド隊長が、ふ、と笑うのが聞こえた
「メッサーもたまにはああいうのに行ってみたらどうだ?ほら、さっきのクラゲ祭り」
「・・・いえ、俺は別に。」
「そんなこと言わずに行ってみろよ。食い物はうまいし結構綺麗だぞ。ほら、あいつ誘ってやれよ。」
「あいつ・・・?」
にししと笑いならが背中をバシバシ叩いて来る隊長の手を払いのけ、ちょうど裸喰娘娘に着いたので扉に手をかける。
中からは楽しそうな子供達と、もちこさんの声

「もちこだよ。あいつもクラゲ祭りははじめてなんだ。初めて同士一緒に行ったらどうだ?ラグナ星についても理解が深まる。それもまた良い仕事には欠かせない要素だぞ」

「・・・わかりました。誘ってみます」

「それがいい。うまい酒もあるだろうし、祭りで会ったら一緒に一杯やろう」

「・・・俺は結構です」

この人はすぐに俺の年齢を忘れる人だな。

_____________________________


「もちこさん。クラゲ祭りって誰かと行く予定ありますか?」


シーツを各部屋に敷き直し、ピーンとシワを伸ばして気持ちよく仕事を終えた私が通ります。
裸喰娘娘のバーカウンターで用意をしているチャックさんに声をかけると、小さな男の子が2人飛び出して来た。その後ろでそっとのぞいて来る小さな女の子もいる。ハック君とザック君とエリザベスちゃんというらしい。
非常に可愛い。
年齢は私より下でも物理的に大きい人が多いのでなお可愛いです。

チャックさんには4人の兄妹が居て、このちびっ子3人とマリアンヌさんというグラマラスデンジャーボディの美女もいる
私は知っているのだ。彼女がかなりモテモテだと言うことを。
いつも忙しそうでなかなか話せないんだよなぁ。ケイオスの社員の男性は彼女とお喋りを楽しみにここへ通っていることは言わずもがな。引く手数多で羨ましいかぎりだ。

そんな事を思っていると、ガチャリと扉が開き、メッサー君とアラドさんが入って来た。

そしてかけられた声があれだ。
またもやクラゲ祭り。

ここまでプッシュされると宗教の勧誘的なあれかと疑ってしまうのだが。何これ生贄にでもされるかな?

ついメッサー君相手にも思わずひそひそ声で問いかけてしまうと言うものだ。
「今日いろんなとこで聞くんだけど、クラゲ祭りってそんなに重要なお祭りなの?」
「いや、俺も今日初めて聞いて・・・」

ノリに乗ってくれたメッサー君も私に合わせてかがんでくれて居たが、咳払いをするとす、っといつもの良い姿勢に戻った。

「あの、誰かと行く約束がありますか?」
「あー、いやぁ誰にも誘われなかったらマキナさんたちと行こうかなーって思ってるけど」
「じゃあ、俺と行きませんか」
「よーし!お姉さんと行きましょう」
「俺は祭り事には出た事ないので引率お願いしますよ、もちこ姉さん」

ふ、と笑うメッサー君に少しどきりとする。
何気なくする会話が楽しくて心地いい。
そう思うのは、やはり彼がとても気がきくと言う事とイコールなのだと思う。
いやほんとできる男だよメッサー・イーレフェルト

あれ。メッサー君は誰かに誘われてたと思うが私を誘うと言うことは断ったのだろうか?・・・・それともまさかの3人?
まぁ、いいか。なるようになるなる。


当日、レイナさんに言われた下着の意味が数秒でわかった。
暗闇の中、露店がいくつも立ち並び飲食店も数多く並んでいる。何を食べてみようかなーなんて考えてキョロキョロしていたら、居るわ居るわラブパッションがはじけまくってる人達が。
いや、お祭りというものはいつの世も恋人たちがこぞって集まってくるのはわかるよ。
数組は見るだろなーって思ってたよ。
ところがどっこい
ほとんどカップルだらけじゃないか
みんなキスしすぎじゃね?露骨じゃね?イチャイチャしすぎじゃね?

メッサー君もほら。
さすがに。さすがに目が死んでる。
どこを見て居るのかわからないくらい遠くを見て居るよ!!!

「メメメメッサー君。あっち!あっち行こう。人があんまり居ないしここよりはマシなハズ・・・!」
メッサー君はハッとしたように我に帰り、コクっとものすごくはっきり頷いてくれた。
まぁ、辛いよねこれ。

人もあまり居ない、普段漁などをする船が寄せられるような海へ続く橋を進むと、行き止まりへと到着する。

ほんの少し離れたところには明かりや人々の声で賑わって居るのが聞こえてくる。

「はぁぁぁ・・・すごかったね。大丈夫メッサー君?私は大丈夫じゃない。胸焼けしてしまう・・・」
「はぁ。あまり、慣れるものではないですね・・・ほんの少し疲れました」
「へぇ」
「嘘です。だいぶ疲れました」
「ははっ同じく。せっかくここまで来たしもう少し涼んだら帰ろう」
「はい。・・あっ」
「ん?わっ」

メッサー君につられて海へ視線を移すと、ホワホワと目の前に広がる広い海が光って居る。
海の中から雪が降って来たように海の底からだんだんと海面へ降り注いで居るようだ。

「・・クラゲ・・・」

ぴちょん、と静かに滴を弾き空へと浮き上がって来たのは、なんとクラゲの群れだった

普段ならなんでクラゲがって笑ってしまうような光景だけれど、なんとも言えない美しさに目を、口までも奪われてしまったようだ。
息を呑むほど美しいとは、まさに、正しくこのことなんだろうと思う。

不意に隣のメッサー君を見上げると、彼の姿は暗闇にまぎれ、表情まではみえない。
暗闇の中ふわふわと浮くクラゲが横切り、時々彼の顔が光に灯される。
「メッサーくん・・・」
「はい」

呼ぶと、すぐにこちらを向いて優しく微笑んでくれる。彼のこの細やかな優しさがこの光ととても似合って居て、誰よりも、さっき見た恋人たちよりも似合って居るのではないかと思ってしまう。ほんの少し、いやかなりうっとりと眺めてしまう。

「また・・・来年も見たいですね。」
「うん。見たいな」
「また、一緒に。2人で見たいです」
「ふふ、もちろん」
「誰に誘われても断ってくださいね」
「いいよ〜お姉さんのこと好きすぎか」
「もちろん。好きですよ」
「ありがと」
「・・・・愛しています」
「・・・え」
「どうか俺だけと来てください。この先ずっと。」
かぁぁと顔が熱を放つのがわかる
暗闇でよかったなんて、とっさに思ったけれど、こんなに近くに居るのではきっとクラゲの光でバレて居るだろう。


答えは決まって居る

もちろん

「・・・喜んで」

結局、私がとんでもなく真っ赤になって居るということはこの後抱きしめられたことによってすぐバレてしまったし、レイナさんとマキナさんがニヤニヤしてのぞいて居るのも見つけてしまって、さらにゆでダコ状態になってしまったことなんて言うまでもない。
ALICE+