私と貴方のパラディソス(ありくい様:キース続き)







私が知っている彼の情報といえば、背の高いイケメン。マント。金髪。青い瞳。白騎士。戦闘機の操縦ができる。
私をさらった人。地球人が嫌い。

そして、攻撃してくる敵。

そのくらいだ。
もう一つ言うなら名前も知らない。

自己紹介もできないまま、あの男の人は部屋を出て行ってしまったのだから。

する事なんてここに連れてこられて数分で無くなった。
キングサイズの天蓋付きベッド、小さなテーブルと椅子が二脚
隅に置かれたクローゼット
大きな窓に囲まれた光のたくさん入る部屋。
大きな窓の前に置かれた上品なソファ。
どれも綺麗な装飾がされ、量産品では無いのが見て取れる。


捕虜や人質としてはやけに手厚い部屋だ。
そこまで考えて見たが、私はそう言えば人質としては大した価値は無いはずだ。
急に消えたわけだし、もしかしたら元の場所に帰ったと思われるのが自然だろう。

あーあ、
何にもできないうちにはなれちゃったな
メッサー君は心配してるかな
帰れることを望んでくれていたから存外安心しているのかも
・・・残念に思ってくれているだろうか

こうやって離れてみると意外にも私は彼の事を思っていたのかもしれない。メッサー君に会えないと思うと思いの外胸にくるものがある。


ウィンダミアの白騎士
ワルキューレのワクチンライブ中に攻撃して来た人達


あの青い瞳を思い出す。
あんなに必死に懇願していたと言うのに誰かに呼ばれてすぐに出て行ってしまった。
まだ頭が混乱していてさっぱり状況がわからない。今が何時であれから何時間経過しているのか・・・


窓辺のソファに腰掛けると、外がよく見えた。この景色は一瞬ではあるが2度見たことがある。
金髪の男の子
青い瞳の青年


ガチャガチャと、やや乱暴に背後で扉が開く音が聞こえる

これは逃げれるかも
そう思い立ち上がり、ほんの少し深呼吸をする。さあ走って逃げよう、そう思い振り向く。

しかし振り向く間も無くバタバタと走って部屋に入って来た大きなものにギュッと抱きしめられる

「お前が、また消えてしまうかと・・・っ」
「へ・・・?ま、また?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる腕がぴしりと固まり、ゆるゆると解かれる

「過去に2回、お前は俺の前に現れては姿を消したではないか。1度目は目を奪われ、2度目は心を奪われ、3度目はこの手に抱いたというのにまた消えられたらこの心臓は破かれてしまうだろう。良かった・・・まだこの腕の中に居る・・・」

首筋に顔を埋められ、思わず「ふわっ」と変な声が出てしまった。
それを楽しんでいるのかグリグリと額を押し当ててくるので、思わず笑ってしまった。
よくみるとほんの少し心臓の音は早いのか身体は上下に動いている
息も少し切れていたような気がする。

「そうやって、抵抗されないだけでこの心は満たされる。空を飛び、敵を打ち、風を読んだ時と同じほどに。」

あまりにも純粋なほどにきらめく2つの青い瞳が揺らめき私を正面から捕らえる

「もう直ぐまた、王の命により一刻も早くこの戦争を終わらすため飛び立つ・・・この部屋で待っていてくれるだけでいい。俺を拒否しないだけでいい・・・側にいてくれないか」

「・・・私は人質じゃないの・・・?」

ほんの少し苦しげに彼の瞳が揺れる

「・・・・そう、思うなら、それでも構わない」
「また、メッサー君と、デルタ小隊と戦うの?」
「奴らが新統合軍に手を貸し続けるなら」


力が抜けてストンとベンチに座り込む。
そうか。それが本当だというなら、殺されてない方が不自然なくらいだなと思う

何を考えるべきなのかすら思いつかない。

ソファに座り込む私の隣に、同じように肩を並べた美しい彼は、初めに会った時よりも、落ち着きを取り戻したのか、荒々しさは消え去っている。
口調も眼差しも幾分も優しげだ。

そういえば、初めて見た時の姿は少年で、もっとイキイキとして、怖いものなんてないようなそんな風だった

2回目の彼は、青年だった聡明そうな、少しだけ寂しさを孕んだ目をしていた気がする

そっと私の体にもたれかかるこの男は何者のだろうか。
この部屋で初めて見た時の轟々と音をたてそうなほど燃え盛る飢えを抱えたあの瞳はもう消え去り、仄かな悲しみが揺らめいているばかりだ。



フレイアちゃんが言っていた事を思い出す。
ウィンダミア人は寿命が短いと。
どれほど短命だと言うのだろうか。
彼はいくつなんだろうか
名前も知らない人
名前も知らない綺麗な男性
瞳の中に孤独を飼う可哀想な人


「・・・時間だ。俺を待つと誓ってくれ」
1人には広く、2人では少し手狭なソファを離れ、私の前に立ち、跪いた

その大きな手で優しく持ち上げられた手のひらは、そのまま彼の唇へと押し当てられた

どこぞの王子様のような仕草に、かぁ、と顔に熱が高まる

「すぐに戻る。ここで、無事を祈ってくれるか?」
「・・・待ってる。だから帰って来たら、あなたの名前を教えてね。好きなものも、嫌いなものも。私の質問に答えてね」

「もちろんだ。・・・お前の名も知りたい」

にこり、と言うよりはニヤリと笑う彼は、軽やかに部屋を出て行ってしまった。





戦争に命を燃やすというのなら、戦争なんて行かなければいい。
私に一緒にいて欲しいと言うのなら、目先の幸せに囚われてくれればいい。

あなたが老いで死ぬときは私がそばで背中を撫でるのに。

私が死ぬときは隣でそっと涙してほしい。

そんな、そんな理想の世界は、普通の幸せは無いのだろうか。好いた女を閉じ込めなければいけない恋愛ってなんなんだろう。
そうしなくてはいけない原因はやはり戦争なのだろうか。

理想を叶えることはとんでもなく難しい事なのだろうか?


彼が帰って来たら、きっと、きっとその答えを貰おう。




※綺麗に完結できませんでしたすいません。ちょっと弱いキースを目指しました。ヒロインはどんどんこのキースにハマります。もうこの本文の中盤ではもうたぶん好きです。
リクエストありがとうございました。
ALICE+