ハヤテ






あいつはそういう奴だった
近づいたと思ったら、手が届くと思ったら、風のようにすり抜ける

人間が風をつかむことができないように、あいつもスルスルと握りしめた手のひらから消えてしまう


目を閉じると、初めて会った時の事を鮮明に思い出せる。
ケイオスという組織の中で、ワルキューレでもない、デルタ小隊でもない。ラグナ星の人間でもない、いたって普通の人間で逆に目立つような、それくらい普通で平凡な人間だった。

気がつくと目で追っていた気がする。

すれ違うと、声をかけようか迷ってしまうくらいには気にかけていた。

すれ違う時声をかけられると、ふわりとした気分が頬を包み込むようだった

俺はもちこの事が好きだったのだと思う

それが友人に対してなのか、姉のように感じていたのか、異性として好きだったのかは今となってはわからない。

わかりたくないのが、本当のところかもしれない。

はっきりさせるのが常な俺には珍しく、ほんの少し怖い。はっきりさせた先にあるのはどちらにせよ地獄だからだ。

明るく優しく気さくな女だったと思う

頑張り屋で何も知らなくて、意外と意地悪で、秘密が多い。

何故か時折孤独と悲しみを何重にも羽織っているような時もあった

彼女にもたれかかる、不安や恐怖を俺がこの手で払いのけてやる事が出来るのなら、彼女がそう望むのなら

一言、

言ってくれたなら。


きっと何もかも捨てて連れ出していたに違いない。それほどには心酔していたかもしれない


ラグナの、遠くで揺れる波を見つめると、キラキラと散らばる光が目にしみる。

思わず目を細めてしまうけれど、ずっと眺めていたくなるほど美しい。


結局、この海の向こうよりもずっと遠い場所へ行ってしまった。俺じゃなく、メッサーに連れられて


自分の腕に光るブレスレットをそっと触れる。
カナメさんに譲ってもらったメッサーの携帯音楽端末。表面は汚れと傷でザラザラしてしまっている

起動させて、いつか聞いたもちこの声が入った音源に耳をすませると、これもデータが少し壊れてしまって所々ノイズが走っている

どんなに追いかけても、どんなに寄り添ってみても、彼女の何も知ることも見つけることもできなかった

追いかけて追いかけて、手を伸ばして、抱きしめても
追いつけない

途切れ途切れの歌が俺を包んで、巻き込んで、離れない
離してやるもんか。

グッと苦しく暖かい何かが喉からせり上がってくる。目の周りがカッと熱を帯びて、視界がぼんやりとしてくる。

泣いてなんか、やるもんか

困った顔をさせてしまう

彼女の困惑した顔が浮かんでさらに涙は目に溜まるばかりだ

戦争なんて嫌いだ

戦いなんて大嫌いだ

あいつも、いつだったかそう言っていた筈だ。

早く、早くこの戦争を終わらせよう



全てが終わったら、

彼女の笑顔が一番に思い出せる筈だ。

その笑顔を見るために、はやく。






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ハヤテ最終回後1人語りでした。

諦めたいけど諦められない気持ちと葛藤して矛盾する事にも苦しみながら受け入れて行ってくれたらいいなって願望です

公式の彼はバサっと切り替えが早そうな気もしますね!
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