もしもメッサーだけ生き残ったら
一瞬差し込む、太陽の光
過ぎ去る銃弾
風を切る音
響く銃声
荒む息
心臓の音
聞こえる歌声
何もかもがうまくいくなんて思っていない
薄らぐ意識の中で、なんとか保っていた理性はもう虫の息だ
グラグラと揺れる身体も、発熱し引きちぎれそうなほど痛い
ああ、まだ聞こえている
この声が、
この歌が聞こえている
もう少し
もう少しでいいから
頭が真っ白になる
体に力が入る
操縦はまだできる
視界は、急に真っ白になった
赤い、あつい、
もう何も聞こえない
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ぼんやりとした白い空間
身体は嫌に熱い
ほんの少ししか動かせない指先がもどかしい
目を開くと同時に飛び込んできたのは、真っ白な天井と機械の音
規則正しい音は鳴り止むことなく従順に役目を全うして居る。
いくつもの細い管が体に液体を運ぶ
俺は、どうして
何が・・・
ハッとして動かない体をなんとかして起こす
腹部に鋭い痛みが走るけれど、それどころではない
居ない
彼女がいない
最後に見た景色を思い出そうと目を閉じ懸命に探って見ても何も思い出せない
いや、正しくはこうなる前、操縦桿を握っていたあの時
自分が死んだとは思った
負けたのだと
なんとかして後ろに乗るもちこさんだけはと思ったけれど間に合ったのかどうかはわからない
俺は生きているのか?
でもこうして自分が生きていると言うことは、もちこさんはどうなっている?
彼女は別の部屋にいるのだろうか
嫌な予感だけが身体中を駆け巡っていく
「!メッサー・・・、良かった。目が、覚めたんだな」
「ア、ラド、隊長」
真っ白な部屋に入ってきたのは、少し疲れた顔をしたアラド隊長だった
やはり俺は生き残ったらしい
「隊、長、もちこさん、もちこさんは」
疲れていても柔らかな笑みを絶やさないその顔がピシリと固まるのがわかった
まっすぐこちらを見る目は何が写っているのかもわからない
何も写っていないのかもしれない
その行動が意味するものは
じくりと胸が痛む
思い出したかのように腹が疼き、血液が沸騰したように煮える
少ししか動かないはずの手は自分の意思とは関係なく指が手のひらに食い込み、ほんの少し皮膚を裂く
痛みはない
身体中を熱い何かが暴れまわり、悲鳴を上げている
「・・・お前が無事で良かったよ」
そっと励ますように肩に触れた手は隊長らしくないほど冷たかった
扉が閉まる音がやけに遠い
誰もいなくなった部屋には機械音しか聞こえない
気持ちが悪い
吐き気がする
頭はグラつき、目眩もひどい
「・・・・っクソっ、」
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「もちこが、貴方にって。」
コト、と小さな音を立てて目の前に置かれたのは以前もちこさんが腕につけていたブレスレット型のボイスレコーダー
日記をつけていると言っていたが、いつのまにかその行為もやめて腕にも姿を表すことがなかったものだ。
「・・・新しい勤務地に移動する前に、もちこに渡されたの。・・もしも、もしも自分が・・・居なくなった時渡してって」
それだけ言うとカナメさんはするりと部屋から出て言ってしまった
少しだけ涙が浮かんで居た気がする
呼び止めることもできずにただ見送ることしかできなかった。
ブレスレットに触ると、金属の独特な冷たさが指に伝わってくる。
起動させると、記録して居たはずの日記は残っておらず、いつも聞いていた穏やかな声が聞こえてきた
「あー、あー、これ撮れてるのかな。んんっ、えーっと、メッサーくん。これを聞いてると言うことは私ってもうメッサー君の近くには居ないのかな。」
なーんて、このセリフお決まりすぎた?
言っていることとはまるで真逆のふわふわしたような声が響く。やんわりとした、柔らかな、もちこさんの声
「えーと、もしかしたら私が自分の国に帰ってるのかもしれないし、・・・悲しいけど死んじゃったのかな。・・・悲しんでくれれば嬉しいけど、できれば悲しまないでください。
私は自分が死んじゃうこと、居なくなっちゃうこと知ってました。
マティルドって覚えてるかな?詳しくは言えないけど、そこで出会った人に予言されたの。
こうやってメッサー君にお別れの挨拶を残せたのはその予言のおかげだね。私は何も後悔してません。メッサー君も後悔しちゃダメだよ。お姉ちゃんが悲しんじゃうから。
メッサー君にお願いがあります
人が多いとこ苦手なメッサーくんだけど、できればいっぱいいろんな人といろんな話をしてたくさん思い出作って、それから、もし、もしまた会えたら、その時はそのお話してね。」
声の奥からコンコンと扉を叩く音と、アラド隊長のもちこさんを呼ぶ声が聞こえる
今いきまーすと能天気な返事が胸を握りしめてくる。
ジワリと目が熱くなって、頭が締め付けられているようだ。
ジン、と広がる喉や胸の苦しさは治るどころか広がるばかりだ。
「じゃあ、メッサーくん。メッサー君がおじいちゃんになった時にでも思い出して、私に話すことまとめておいてね。ばいばい」
プチン、無情にも切れたそれには、もう何も残って居ない。
録音された声が明るくいつも通りすぎて、今どうしてそばに彼女が居ないのかが理解できない
思考が追いつかない
苦しくて、
息ができない
腹部の痛みなんて感じないくらいに胸が痛い。
次会った時に教えてほしい?
そんなことできるわけないじゃないか
君は過去の人間で、違う星の人で、死んでしまったじゃないか
レコーダーはこれ以上うんともすんとも話してはくれない
簡易テーブルに置かれたそれは、持ち主を連れてきてはくれないのだ
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「メッサー・イーレフェルト 、只今より復帰します。」
「・・・もういいのか」
「問題ありません」
相変わらず疲れた顔をしたアラド隊長だったが、少なからず前回見た時よりは顔色は良かった。
ウィンダミアとの戦争は終戦はして居ないが、怪我で動けない間に随分と時間が過ぎ、今や休戦中である。
前線に出ない条件でデルタ小隊に戻してもらい、現在ここで働かせてもらえるようにしてもらった。
アラド隊長の計らいには頭が上がらない
あの日からずっと、思っていたことがある。
俺の操縦する機体からはもちこさんの死体はでなかった
様々な方法で捜索されたが遺体として出てくることもなければ、生存者として出てきてくれることもなかった。
ひとつだけ希望がある
もしも、そんな都合のいいことがあるならば
彼女がもし自分の国に帰れたのならば
もしも、もしもまた出会えることが叶うのならば。
その時のために、沢山の思い出を作ろう
長く生きて、彼女に見せることのできなかったいろんな星々の景色を覚えておこう
彼女が見届けられなかったフレイアの恋も
ハヤテの成長も
全て
記録しておこう。
いつか
いつか
いつか貴女に会えるその日まで
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