ヤンデレッサー









「あ、あれ?」

ここどこ?

目が覚めて思わず口から出たのはそんな言葉だった。そりゃそうだろう。
大学の廊下を歩いていて、あと少しで目的地である教授の部屋。長ーい廊下をまっすぐ歩いて、角を曲がればすぐだ。
迷路のような校舎も3年も居れば慣れたものとはいえ、気を抜けば目的地は探さないと見つからない。苦労して覚えた道順は間違うはずはない。

角を曲がって、
そして

誰かにぶつかったような気がする

そして暗転

気がつけばベッドの上

おやおや?
友達が貧血でも起こして倒れた私を自分の家まで連れてきたとか?それだったら医務室で良いはずだし

起き上がり、肌にかかる布団を見ると、大学に置いてある簡易的なものではなく、さらりと肌触りのいいものだった。

人気のない部屋をぐるりと見回すと、マンションの一室とこだろう。広すぎない寝室に大きなベッドが一台
寝具のほかには特に何もなく、清潔さがうかがわれる。
しまった
人の部屋を分析するなんて不躾なことをしてしまった

いやはや
センスのいいお部屋であります


「ああ、起きていたんですね」
「!!・・・え!?」

え?
あれ?
うそ

ガチャリと音を立てて開かれたそこに居たのは、居るはずのない、見れるはずのない、スーツ姿のメッサー・イーレフェルト 、その人だった


「ふふ、信じられなさそうな顔ですね」

「あ、当たり前だよ・・・うそ、本当に?メッサー、くん?」

「はい。まさかもちこさんが俺より年下だったとは思いませんでしたよ。」

「えっ?」

上着を脱ぎ、首に巻かれたネクタイを緩める姿は確かに私の知るメッサーくんよりも歳をとっている気はする
なんというか、あの頃にはなかった色気のようなものが溢れている。そう、もうダダ漏れなほど。

ふとアラドさんが頭をよぎるが、彼は彼で確かに大人の色気はあるが、どうにも男臭さが勝ちまくっていたため比べようもない。

「もちこさん、倒れてしまうほどの貧血なら大学を休むべきだ」

「う、ぇ?ご、ごめん」

「友人か、そうでない誰か、かは知りませんが貴女を家まで運ぶと言って担いでいた男から貴女を譲り受けて家まで連れて来たわけですが・・・ちょっといただけませんね」

「ん?んん?そ、そうだったの?」

「・・・そうだったんです。貴女は、・・・・、いえ、なんでもないです。」

ぐ、と何か言葉を飲み込んで、はぁ、とため息をつく大人のメッサー君に、びくりと肩が震える

ちょっと叱られた気分だ。
呆れられてる?
そうだったらと思うと、ほんの少し怖い

何が、
呆れられるのが?
嫌われる、のが?
どういう感情かなんて、わからない


なんだか知らない人みたい
当たり前か

こんな奇跡的な出会いをしたというのに私といえば格好の悪いところを見られて、それどころじゃなく介抱してもらっているのだから

「・・・少しだけ、気を張ってください。やっと会えたっていうのに、穏やかな気持ちでいられない」

ゆっくり近くへ来たメッサー君は、私から目を離さない。

「いっそのこと、前みたいに一緒に住みましょうか・・・こんな出会い方をしてしまっては貴女を返せそうにない・・・・頷いてくれますか?」

白いシャツをまとった長い腕が私に伸びて、さらりと頬の隣の髪をすくい取る
サラサラと滑り落ちる髪が頬にリズムよく擦れて元の位置に収まっていく

切なそうに細められた瞳は私を捉えて離さない
ベッドの傍に腰を下ろして、その整った顔がさらに私に近づいてくる

「俺はずっともちこさんだけ探してた・・会えるはずはないと思っていても、いつも人混みの中を探してた。やっと・・・やっと・・見つけた。このまま帰したくない・・・夢じゃないなら、
幻覚じゃないなら、俺のもちこさんになって・・・」

切なげに閉じられた瞳が、睫毛が震えている
震える手が、私に伸びるけれど、触れるのが恐ろしいかのように触れないギリギリで止まってしまう



もしも、この人の事を拒否してしまったらどうなるのだろう


そっとメッサー君の手を取ると、彼の伏せられていた目が、驚いたように見開かれる





「・・・・私でいいの?」
"俺のもちこさん"
この言葉の意味くらいわかる

するりと出た言葉に自分でもびっくりしている。
準備していたかのように、その言葉を待っていたかのようにするりと出てきた本音が浅ましい。


じっと見つめてくる目に、深い深い色が潜んでいる

綺麗なだけじゃない何かが渦巻いてうごめいて、どれほどの時間待ったのか、探したのか

あんな最後を迎えてしまったのだ。
あんな世界で2人でずっと過ごして来たのだ

思いがぶわりと押し寄せてくる
思い出がぶわりと追いかけてくる

いつか彼との関係をストックホルム症候群と表現したことがあった気がする

それとも違うのかもしれない
ズルズルとこんな長い時間私に囚われた可哀想なメッサーくん

「貴女がいいんです・・・貴女でないなら・・死んでしまう」

掠れた声は、シーツに沈んで溶けていく

そっと閉じた彼の瞳からは何が写っているのかはわからない。

そっと私の手を握りしめたその手は燃えるように熱い

死んでしまうほどに、
私のための熱なら喜んでしまう心が怖い
自分の心が震えているのがわかる

彼の病的なまでの執着は恐ろしい
でもそれを喜んでいる私はきっともっとひどい病気を患っているのだろう


熱い体がするりと私の懐に忍び込んでくる
ぎゅっと抱きしめたその体は大きくて、懐かしい匂いのまま私を包み込む

このまま、いろんなものが詰まった愛に沈んでいくのもきっと悪くない

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や、ヤンデレ?
両ヤンデレ?
ソフトヤンデレ?

難しいです。
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