空彩色


 僕は時々、変な事を考えるらしい。友達から良くそう言われる。
 僕としてはその考えている事は普通の事だと思うのだけれど、他人からは変だと思われるらしい。
もっとも、僕もそういわれる物事を常に考えている訳では無いので、「変人」と言われるまでに至ってはいなかった。
春休み、僕は学校の屋上の床に寝ころがっていた。僕以外には誰も居ない。
屋上はいたって普通で、周りには落下防止の柵が建てられ、床は青色のペンキが所々剥げて灰色の地肌が見え、あちこちにヒビが入っていた。
その丁度真ん中に、僕は腕を枕にして仰向けに寝転び、空を見上げていた。
しばらく何も考えていなかったが、ふとある事を思いつく。
空になってみたい。そう思った。理由は無かった。
僕は良く理由を考えずに何かになりたいと思う事があった。
普通の人はこれをしたいから、これになりたい。そう思うだろう。でも僕には何故かこれをしたい、と言う部分を飛ばしてこれになりたいと思うのだ。それが皆から変だといわれる事柄なのだけれど。
今回もただ、空になりたい、とただそれのみを考えていた。
僕がそんな事を考えていると、屋上のドアが開き、誰かが入ってきた。
そろそろ一時を過ぎる頃だ。大方部活の人が昼飯を食べに来たのだろうと思って、放っておいた。
足跡は僕の方へまっすぐ近づいてくる。どうやら僕の予想は外れた様だ。
だけど面倒くさいのでわざわざそちらを向く事はしなかった。
「ここに居たんだ」探しちゃったよ、と彼女は言った。
彼女は僕の前で立ち止まる。僕の頭の部分にだけ影が出来る。
スカートの中が見えている。けれど言わないでおく。
そんな事を言って、彼女が怒ったりすると面倒だからだ。
まあそれで僕の事を嫌ってくれるのなら、むしろ好都合だったけれど。
「何か用?」と僕はそっけなく答える。
「探しに来てあげたのに、それは無いでしょ」彼女は少しむっとした声で言い、続ける。「何で部活サボったの、って聞いても大した答えは返ってこないよね」
彼女の言う通り、確かに僕は部活を休んでいた。ちなみに僕は水泳部で、彼女はそのマネージャーだった。
「学校に来ているんだからさ、練習しなくとしても顔出しなよ。まあ今日はあと少しで終わっちゃうから良いけど」
彼女は僕の隣に座る。
影が消え、柔らかい太陽の光が僕を再び照らし始める。
「それで今日は何を考えていたの?」
「空になりたい」
「また突飛な事を」と彼女は苦笑する。「今回も理由は無いんでしょ?」
「うん」
「空ねえ……」と彼女も空を見上げる。
彼女が喋らなくなると、屋上には少しの静寂がおとずれる。
首をほんの少し動かして、彼女をちらと見やる。
僕の視線には気付かないようだ。いや、そう見えただけで彼女は気付いていたのかもしれない。
彼女は擦れ違った男が全員振り向く、なんてことは無いけれども、電車の中で前を歩かれたら、つい目で追ってしまう様な美人ではあった。
「空って不思議だよね」と彼女がポツリと呟く。
「どこらへんが」と僕は彼女の言葉に余り興味を示さない振りをして、尋ねてみる。
「こんなにハッキリ色を持っているのに触れないなんてさ」
「そういわれるとそうだね」
「でも、色を持っているのには理由があるのかもね」
「例えばどんな?」
「他の物を彩らせるためなのかも。ほら、空が青いからこそ、雲はより白く見えて、太陽もより赤、いや黄色なのかな、ともかく強調されて見えるでしょ」
「ふむ。なるほどね」
「でも、太陽を彩らせていると、他の星が見えなくなる。だから夜は空は黒くなって太陽を隠して、月とか、北極星とかを彩らせてあげるんだと思う」
「月は太陽の光で光っているから、太陽を隠すと見えなくなるんじゃないか」
「もう、そういう現実的なことを言う」と彼女は頬を膨らませる。「でもそれは隠された太陽が光っても仕方ないから、自ら光る事が出来ない月にほんの少し、夜の間だけ光を分けてあげるんだよ」ともはやその事が事実であるかのように彼女は語った。
いい話だなと思った。彼女は僕の考えを変だとは言うけれど、それを否定したりせずに真面目に考えてくれるのだ。その点に関しては彼女が好きだった。
僕は立ち上がり、階下への階段がある扉へ向かう。
「帰るの?」と彼女もついてくる。
「うん。もう部活も終わって、皆帰っただろうし」
「今日もお昼ごはん、何処かで食べるの?」
「多分」
じゃあ奢ってくれる?、と彼女は僕の腕を抱くようにした。
まあいいけど、と僕は言いながら、心の中で溜息をつく。
彼女のそういう媚びた所が、少し嫌いだった。

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