しゅご男主-可愛いものが好き
春の日差しは暖かくて段々と瞼が落ちそうになる。瞼が落ちそうなのは春の日差しだけが理由じゃないのだけど。
はああたたかい…幸せだ…

「ぬくい…」
「ちょっとなまえー!ややだっこしたまんま寝ないでー!」


腕の中でじたばたともがきだすややちゃんをみて思わず微笑んでしまった。力を緩めるとすぐに離れてしまう。

「あああ…ぬくもりが…」

僕の腕から脱出したややちゃんは僕の座る椅子の向かい側に座った。

「みょうじくんもほどほどにね」
「う…ごめん…」

ずっと横から僕とややちゃんのやりとりを見ていた唯世からついに注意を受けてしまい少し反省した。ほんの少しだけ。
なくなってしまった温もりを求めて腕が右往左往する。気がついたら唯世の頭を撫でてしまっているほどに。

「みょうじくん…」
「いや、なんか、無意識に…」

唯世もそれほど嫌な顔はしていないのでそのまま撫で続ける。
唯世の髪は太陽の光に照らされるとキラキラしてとても綺麗だ。そしてサラサラである。

ロイヤルガーデンはガーディアン専用の居場所である。放課後には紅茶を飲みながらなでしこの作ったお菓子を食べたり寛いだり仕事をしたり…とてもこの時間が幸せだ。

今日は空海となでしこが所用で来るのが遅れるらしいので、少しの間僕が唯世とややちゃんを一人占めできるのだ。
それなのにややちゃんは無言で机の上に乗るクッキー(僕の手作り)を食べているし、撫でられることに慣れ始めた唯世は静かに紅茶を飲み始めた。もっと、こう、反応がほしかった…。

唯世の頭を撫でつつ向かい側のややちゃんを見ていると目が合った。

「なまえってさあ…」

ふと口を開いたややちゃんにどうしたの?と聞くとやっぱり!と叫んだ。こらこら人を指でさすのはやめなさい。

「下級生にデレデレしすぎ!」
「…そんなに?」
「そんなに!こないだなまえが一年生を抱えて歩いてた時あったじゃん?」

ややちゃんはつい先日の出来事を話し出した。
入学して間もない一年生が何故か六年生の教室前をウロウロしていたので声をかけたら泣き出してしまった。落ち着かせようと頭を撫でた後ゆっくり話を聞くと迷子だと言うのでそのまま抱っこして一年生の教室へ向かったのだ。

「あの時廊下歩くなまえを見つけたから気になってそのままついてったの」
「ああ、だからか…。一年生の教室の前なのにややちゃんがいるのおかしいと思ったんだ」

そのまま僕を尾行したややちゃんは最後まで僕と一年生のやりとりを見ていたらしい。

「そのあとはどうなったの?」
「聞いてよ唯世!教室までついたらその迷子の一年生の前でしゃがんでなまえなんて言ったと思う!?」

ややちゃんがぐびっと紅茶を飲み干した。

「困ったことがあったら先輩や先生に言うんだよ。みんな優しいから絶対君を助けてくれる。もちろん僕もね。って!でも心の中では?」
「迷子の子が可愛くてまた声かけてくれたらいいなって思ってました」
「だろうと思ったー!」

すごくかっこよかったのに本心はこれだよー!!と叫び出すややちゃんを見ながら唯世の苦笑いを視界の端に捉えた。

「そーやって下級生たぶらかして!」

上級生の前ではいつも笑顔なんて見せないじゃん!と言いながらややちゃんはボリボリとクッキーをすごい勢いで食べ始めた。空海となでしこの分もちゃんと残しておいてあげて…。

「唯世は天然王子だけどなまえは確信犯でやだー!」
「ちょちょちょややちゃんそれNGワードだから!」
王子というワードをきいて思わず右手の下にある唯世の顔覗き込んだ。かわいく首を傾げられた。危なかったすごく危なかった!キセキ達散歩に行かせててよかった…!

でもそうだよね、と唯世が呟いて僕を見上げた。頭に乗せていた手を降ろす。

「いつも総会や校内で見るみょうじくんはキリッとしててすごくかっこいいんだ。でもここでゆっくりしている時のみょうじくんは大分雰囲気が違うから」

僕達といる時だけ素が出ているのなら、それはそれで嬉しいことかも。

そう言って僕を見て微笑んだ唯世がかっこよよすぎた。勢いのあまり後ろから唯世に抱きついてしまった。図星すぎて恥ずかしい。

「唯世かっこよすぎ…惨敗です…」

絶対今僕の顔真っ赤だよやだこの天然タラシ王子…と内心思っていると頭を撫でられた。撫でるのには慣れてるけど撫でられるのには慣れてないから余計恥ずかしくなる。

可愛いものが好きだ。家事が好きで趣味はお菓子作り。たまにぬいぐるみを作ってしまうし、花屋があれば入ってしまう。

小学生の男がこんなに女の子みたいな趣味を持っているのはあまりばれたくないことだった。学校ではクラスメイトや先生の前で真面目でかっこいい、を貫いているし気が抜けない毎日だった。

そんな中でしゅごキャラが生まれてガーディアンという新しい居場所ができて素の僕を曝け出しても受け入れてくれて。本当に幸せだ。

「なまえ照れてる?」
「ねえややちゃんほっぺつつくのやめて…唯世もごめん、ありがとう」

唯世から離れて天井を見上げた。日差しがあたたかい。

「この間のあの子…日奈森さんだっけ。結局どうするの?」
「明日の総会で正式にガーディアンとして迎え入れるつもりだよ」
「わあ唯世実力行使…」

素直になれない可愛いあの子にとってもここが素敵な場所になればいいと、自分がその場所を生む手伝いができたらいいと、そう思った。

椅子に座ってクッキーに手を出そうとしたけどもう残りが少なかったので冷めてしまった紅茶口をつけてややちゃんを呼ぶ。

「ややちゃんおいで!」
「抱っこしたまんま寝ないでよねー」
「大丈夫。そろそろ空海もなでしこも来る頃だろうしそれまで!ね?」


その後やってきた空海となでしこ、散歩から帰ってきたしゅごキャラ達の頭を無言で撫でたら、なにかあったのかと全員に心配された。いつものことじゃないか。


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