肌寒い部活終わりの話
「寒いなー」
「風冷たすぎる…さむ…」

いつものように午後の部活を終えた風龍せいと楽間龍は学校を出て帰路についていた。
二人の通っている帝国学園のサッカー部は、フットボールフロンティア40年間無敗を誇っており負けることが許されていない。そのため部員は毎日とてもハードな練習を行っている。

日が暮れるのも早く、朝も夕方も冷え込む時期となり、部活帰りの二人はマフラーに顎をうずめながら手を摩っていた。
部活でかいた汗を拭いても、冷たい風によりさらけ出した肌は冷えていく。
厳しい練習の直後だということもあり、足は疲れてなかなか動かない。家までが果てしなく遠い道に感じていた。

「あ」

もともと肉が付きづらく薄っぺらいと理解しているため、どうすれば肌の露出面積を減らせるかと考えていたせいの横で龍が声を上げた。
せいが龍を見るとある一方を指さしていた。指の先を追うと目の前には24時間明るいお店が。

「おー、コンビニ…」
「なんかあったかいもの買おう。風よけにもなるし店内も温かいと思う」

声を発する度に白い雲がふわっと広がる。
吹き抜けた風に身を縮込ませるせいは、スタスタとコンビニへと足を進める龍を見て一つため息を吐いてから龍を見る。

「お前さー、今日もう金ないんじゃねーの」

お昼の購買でほとんど使ってしまった財布の中身を思い出し、あ、と間抜けな声を出した龍の脇腹を肘で突いてから、せいは道路を横断した。





「うわぁーあったけえ…」
「さすが庶民の味方のコンビニだな」

店内に入った瞬間ふわっと体全体を包み込む暖かい空気に二人は顔を綻ばせた。
龍はまっすぐ飲料水コーナーへ、せいはレジへと進んだ。

飲料水コーナーで小さなココアの値段と自分の財布の中身を比べる龍に、すでに会計を済ませたせいが声をかけた。
「金足りそう?」
「小さいのなら大丈夫。買ってくる」



龍も会計を済ませ、二人は再び冷たい世界へと足を進めた。
もう少し店内に居たいのは山々だったが、これ以上店内にいると美味しそうな匂いにおなかが盛大な音を立てそうだったため、要件を手早く済ませて店を出たのだ。

「せいは何買った?」

自分より先に買うものを決めてさっさと会計を済ませていたせいに、龍はココアのふたを開けながら問いかけた。
せいはそれを聞いてビニール袋からガサゴソと買ったものを取り出して龍に見せた。

「じゃーん」
「うっわずるい」

せいの手にしていたものは肉まんだった。できたてなのかとても美味しそうな匂いを漂わせている。
肉まんを見つめていると龍のおなかが小さく鳴った。せいはそれに小さく笑みを浮かべると肉まんを少しちぎって龍へ渡す。
さんきゅ、と小さくつぶやいた龍は、ゆっくりと暖かくなっていく手に目を細めた。

「やっぱ冬はこれだろ…」
「うめー」

二人して歩きながら目を細めて肉まんを頬張る。暖かくて美味しい。中の肉は少し熱くて舌が火傷しそうだ。
さっきよりも大分温まった体で家に帰ろうと二人は再び帰路に着いた。そのとき。

「あー!!」
「りゅーちゃんとせーちゃんずるーいっ!!」

聞きなれた女子独特の高い声が聞こえてきて後ろを向くと、電柱の陰から桃色が二つ覗いていた。
一人はせいの彼女の君空天音、もう一人は龍が密かに思いを寄せている滝織ちえりだった。
4人は同じ部活で、よく一緒に遊んだり昼食を一緒に食べたりするほど仲が良かった。

「なにやってんだよお前ら…」

大きな声を出してこちらへと人差し指を向けてプルプルしている二人をせいが呼び寄せると、走ってこちらへとやってきた。
天音は真っ先にせいの前へとやってくると大声で叫んだ。

「二人とも肉まん食べてる!ずるい!」
「ええ…天音さん食べますか…」
「食べる食べるー」

せいが持っている肉まんを天音に差し出すと、ぱくりとそのまま食らいついた。
肉が熱くてはふはふとしている天音の首にせいが自身の巻いていたマフラーを巻く。
食べた肉まんを飲み込んだ天音は次々にぱくりぱくりと食べていくので、せいはまたな俺の肉まん…と一口しか食べていない肉まんに心の中で別れを告げた。

「あっりゅーちゃんココア持ってる!」
「飲む?」

ちえりはちえりで、龍からココアをもらって飲み始めた。龍は幸せそうなちえりの顔を見て口元が緩んだ。
それから、ちえりの頬が空気の冷たさで赤くなっているのを見て思わず頬に手を伸ばすと、少しの間肉まんとココアを持っていたからか温まった手にちえりは目を細めた。

そんな中肉まんを食べて幸せな気分になっている天音がふと空を見るといつもより暗くなっていた。
目の前の道路も薄暗く、前が見づらくなっている。

「もう冬だねー。暗くなってきた…」
「そろそろ帰るか…」

そう言ってすぐ、せいは天音の手を握った。女子が体冷やしちゃ駄目だろ、と小さくつぶやきながらぎゅっと握る。
ぽかんとしばらくせいを見つめた天音は、すぐに傍に居たちえりの手を握ってあったかいね、とほほ笑んだ。
ちえりも嬉しくてさらに隣にいた龍の手を握る。りゅーちゃんの手つめたい!と言ってぎゅーっと力を入れた。
急に握られた手をじっと見た龍は照れたからかまっすぐ前を向いた。あったかい、とぽつりと言った。

その日、薄暗い道路を歩く仲のいい4人の姿が目撃されたらしい。


***
2012.10.8

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