※お司書の前職小話
※鈍感系主人公とツンギレヒロインみたいな…



「好きな女のタイプ?」

海図と睨めっこし続けても堂々巡りで良い案など全く浮かばない。
それならば気晴らしに甘いものでも食べに行くかと本日の秘書艦である瑞鶴を誘ってみようと考えつつ、背もたれに体を預けて伸びをしていたところ、そう質問された。
気晴らしのどうでも良い会話が如何にも女の子らしいものだ。恋愛関連の話題を振られるとは思わなかったが、聞かれたからには答えるのが礼儀だろうと男は口を開く。

「そうだな、あえて言うなら文学少女」

タイプであれば、出来れば趣味が合う方がいい。
趣味があまりにも違いすぎると価値観も大きく違うから、いざお付き合いに発展した時に価値観の相違で精神を磨耗させてしまう可能性がある。だから趣味の合う方が好ましいと、そう男は考えていた。

「本を読むのは良いことだ、特に小説は良い。なにせ面白い。でもって、何処もかしこもやっばいクソみたいな現実を本読んでる間だけは忘れられる。現実逃避最高。色々推しはいるんだけど、俺は梶井って作者の本は読みやすくて特に好きだし人に勧めてる」
「ふ、ふーん。本ね、ふーん?因みに提督、その、えっと梶井って人の本って持ってるの?」
「なんだ瑞鶴、もしかして小説に興味が出たか?現実つらい?有給消化する?」
「アンタが持ってる本を私に貸す流れでしょうが!今の流れは!ほんっとにダメ提督!爆撃されたいの!?」

顔を真っ赤にしながら男の鳩尾へと思いきり拳を叩き込む瑞鶴に、ただの人間である青年は苦悶の表情で声をあげた。

「っいっでえ…!あっ…駄目だわこれ折れたわ…折れるやつだわ…いやまだギリ折れてない……っあのなぁ!俺じゃなきゃ死んでるからな?!ほんと忘れがちだと思うから言うけど提督だって人間ですからね?!一般人より耐久値は高いけどそれでもそう何度も気軽にパンチされると物理ダメージ蓄積で死にます!つか昼食のラーメン色んなところから出たらどうすんの!折角鳳翔さんに頼んで作ってもらった豚骨ラーメンなんだからちゃんと栄養として体に行き渡らせてやりたいんだから腹部にパンチは止めなさいよもー!」
「私に頼めば油ギトギト豚骨ラーメンでもなんでも作ってあげるけど!」
「いや油ギトギトだと胃が死んでしまいます」
「真顔で拒否しないでよ!」

先程までの漂っていた部屋の重い空気はいつの間にか賑やかで明るいものへと変わっていた。なるほどこんな話題の会話だけで良い気晴らしになるもんだな、と提督と呼ばれた青年はうんうんと頷いて感心する。話だけで気晴らしになるなら外へ行って糖分を摂取するよりも簡単だ。

「瑞鶴」
「な、何よ、提督さん。そんな真剣な顔して」
「でもやっぱり甘い物食べたいし一緒に甘味処行かない?奢っちゃる」
「何がでもやっぱりなの?!会話の中に甘い物の話題なかったわよね?!」

ガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、財布を片手に部屋の出入り口である扉へと向かっていく。瑞鶴は、さっさと歩きだしていく男に向かって「もう!」と声を投げつけながら、その背中を追いかけた。

■了■

ただ幸せだった記憶。

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