※帝國図書館の山姥切くんと南泉くんがコソコソお話してるだけ
「猫殺しくん、あのね」
声を殺しながら密やかに、美しいその刀は声を出す。目を細め、笑みを浮かべながら囁くその言葉に、南泉一文字はただ黙って耳を傾けた。
嗚呼、今この部屋には二振りだけしかいないのに。
こんな風に声を潜めて話す内容が、ただただ穏やかなものであればよかったのに。そんなささやかな願いも虚しく、紡がれる言葉達は次々と南泉を鬱屈とした気分にさせていく。しかし表情には一切出さず、吐き出したい気持ちを腹に押し込めて、山姥切長義の声だけに集中した。
「へえ。政府刀でも支給してもらえるんだにゃあ」
「当たり前だ。まあ、状況と配属場所次第だけどね。うちも本来は後回しされるんだけど俺と司書くんのちょっとしたツ・テ・を使って上と直接話したら許可が下りたんだ。ふふ、特例だって。すごいだろう?」
「確かに図書館で雑務やってるような刀にはあんま必要ないからな。……いや、待て。特例って、どんな話をしたら後回しを回避させられるんだ……?」
「それはまあ、色々と。とにかく、うちの重要性と昨今の情勢を鑑みれば俺と司書くんの言い分は正しいってみんな納得してくれたから良いじゃないか」
でもプレゼンは頑張ったんだよ、と胸を張りながら楽しげに話す山姥切に対し、鬱屈さなんて微塵も感じさせない声の軽さで南泉は「あー、そりゃ、ご苦労さん?」と適当に言葉を返しておく。
「そんな訳で、近い内に荷物が届くことになってるから届き次第部屋に置いておく。本丸で流れ自体は見てるだろうからわかるだろう? 司書くんはともかく、館長には流れを軽く説明しておいてくれ」
「館長ぉ?」
「彼がここでの上司だから、一応ではあるが当刀とうにんからの説明は必要なんだ」
この図書館にいる政府の関係者は刀剣男士の存在自体は知っているが、知識自体は随分と浅い。
本来は関わるような部署でもなく、二振りがこの図書館にいることこそが今や特例のようなものだ。
「……しっかし、ふぅん。修・行・、とはにゃァ……?」
歴史修正主義者と直接戦うような部署ではない図書館配属の刀に、修行。
後回しになる筈だったのに山姥切と審神者が捥ぎ取った支給品。南泉は元々本丸所属の刀剣で、審神者は元々はそれなりに優秀だった。結末こそ何もかもが散り散りの肉片になった娘ではあったが、山姥切以外の男士の練度はみな上限に達していた。勿論南泉も、練度は上限に達し、修行へ出る為の条件は満たしていた。
この図書館も何かと物騒になってるからね。こちらは国内だけの問題でもなくなりつつあるから、事が起きた時に動けるものはやはり必要だ。そう山姥切は至極真っ当な言葉を述べている。
「まあ、そりゃあそうだろうけど……」
「このことは内緒だよ。他の部署の子達に万が一にでも聞かれたら、面倒だからね」
人差し指を唇に当てて、内緒と笑う彼はどこまでも美しい。刀身だって美しかったが、人型までも美しい。
だから秘めるような内容でもない話で声を潜めていたのか、と南泉は納得した。そして美しい笑みを浮かべ続ける古馴染のこの刀の計らいについては、正直なところ余計なお世話だと思った。
だって南泉は、修行なんかに行きたいとは思っていない。
ここは本丸ではない。仕える主はいない。己を見つめ直そうとも思わない。己を見つめ直すなんて、そんなことは山姥切と再会してから経験した地獄の日々でとっくにし終わっていた。猫の呪いについてであれば、それは確かに修行でどうにか折り合いを付けるしかないのだろうが、こ・こ・に・居・る・南泉にとっては正直なところどうでも良かった。
けれど。
「さて。この俺がわざわざ手を回した意味くらい分かるだろう、猫殺しくん? 可愛い文豪たちの為に速やかに修行を済ませ、そして俺の負担を減らしてくれ」
――嗚呼、そうやって。そうやって生意気なことを言うくせに、美しく笑うもんだから。
行きたくないとは言えず、南泉は「ん」と短く相槌を打った。
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南泉は山姥切と居られるって理由だけで政府刀として図書館務めしてるから長期離れることになる修行に意味を見出せない。こいつオレに修行に行けなんてひどいこと言ってくる…離れるの寂しい…悲しい…
山姥切は南泉の修行が政府によって解禁された時からうちの猫殺しくんも極になれるヤッター!!てわくわくしてたんだけど中々政府が修行道具支給してくれないからプレゼン資料作って司書の首根っこ掴んでカチコミに行って勝利した。