恋が苦しいものだと知ってしまった。
想いが実れば、苦しみからは解放されるだろう。けれどこの恋は実らないから苦しさばかりが募っていく。
だって、きっと彼は自分のことなんてちっとも好きじゃないし、好かれてると知ったら思いきり顔を顰めるだろう。けれど優しい彼はそれ以上は嫌悪を見せてこないだろうと、何となく想像はついた。本当に優しい刀なのだ。惨酷なくらい、優しい男なのだ。
今までと変わらぬ距離で、変わらぬ態度で接すれば、苦しさは今まで通りだ。今まで通り、何も変わらない。だけどそれじゃ俺が辛いばかりだ。苦しいばかりだ。
「主。俺を、この本丸から除名してほしい」
叶わぬ恋なら殺してしまおう。俺が好きなのはこの本丸の南泉なのだから、彼がいない政府に戻ってしまえばあとは時間が解決してくれる。
俺がいなくなっても、この本丸は何も変わらない。偽物くんは布を取り払って素顔を晒すまでに強くなったし、刀剣だって大勢いて、俺一振りがいなくなっても支障はない。戦績だって俺が優を出すくらいには優秀なのだから、何も問題ない。
だから主に提案した。この恋心を終わらせる為に、この恋心を殺す為に、純朴で心優しい審神者に心情を晒して同情を誘った。かつて彼女も恋に破れた身だと聞く。だからこの苦しいばかりで救いのない恋を哀れんで、頷いてくれるだろうと確信して打ち明けた。
優しい心根の彼女は、悲しい表情を浮かべながら頷いた。貴方がそう望むなら、と溢れんばかりの同情心を乗せて承諾してくれた。大丈夫、俺が抜けたところでこの本丸は何も変わらない。だから安心して、俺はここから去れるのだ。
「政府には今晩連絡を入れる。早ければ明日、ここを去るよ」
この本丸には刀剣が大勢いる。だから、俺一振りがある日突然いなくなっても、彼は気付かないだろう。部屋の荷物は最低限、いつだってここから去れるように物は随分前に処分してあるからこの身一つで出て行ける。
「君が主で良かったよ」
短い間だったけれど、素敵な本丸暮らしが出来たよ、ありがとう。
そう告げてみれば、今はまだ俺の主である彼女は、くしゃりと不器用に笑いながら「こちらこそありがとう」と返してくれた。
恋を知った刀が、恋を終わらせる為に本丸を去った話。