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正しき勇者達


 せっかく六人が揃ったというのに感動の再会、とはならないのがわたし達らしい。怒り爆発のローザが喚く様子を皆で眺める。
「全部この女のせいよ!」
 ローザはそう言って、びしりとイルヴァを指差した。
「『いかにも落し穴です』って言ってるような切れ目の見える床で、いかにも〜な宝箱なんてあっても触らないでしょフツーは!」
 この台詞で大体の状況が読めたわたしは溜息をつく。怒りで顔が真っ赤になっているローザとは対照的に、イルヴァは人形のような顔のままだ。それが逆に火を注いでいるらしい。
「その前から最悪だったのよ!でかい岩に追い掛けられるわ、火の矢が降ってくるわ、変なスライムは浴びるわ……!リジアたちとはぐれてから散々だったのよ?もうイヤ!絶対イヤ!この女と一緒にいるのは耐えられない!」
 よく見ると、二人とも頭に不気味な半透明の物体がまだらに乗っていたりする。うわぁ、気持ち悪いだろうな……。ローザが怒りで震える為にスライムもぷるぷると揺れる。それを見て少し笑いそうになってしまった。
 しかしわたしとヘクターも未だ半乾きのままである。気持ち悪いったらない。
「まあ、はぐれたこと自体がイルヴァのせいだしね。こっちも散々だったわよ。ずぶ濡れにはなるし」
 わたしもそう言って問題のイルヴァを横目で見るが、本人はしれっとしたままである。
「楽しんでいただけました?」
『やかましいっ!』
 わたしとローザの声が重なった。ローザがさらに続ける。
「大体おかしいのよ、ここ。さっきバジリスクタイプのモンスターに会ったんだけど、イルヴァがあほみたいにバカーンと倒してみたら……そいつら、中身が何だったと思う?」
「作り物だったんだろ?」
 アルフレートの言葉にローザは片眉をぐっと上げた。
「知ってたの?早く言いなさいよ」
「わたし達もさっき、その話をしてたのよ」
 わたしが言うと、ヘクターとフロロが頷いた。暫しの沈黙ののち、アルフレートが口を開く。
「年寄りの酔狂に付き合わされたわけだ」
 ローザが目を白黒させる。再び顔が真っ赤になってくるが、すぐに放心したようになってしまった。
 カラクリ仕立てのモンスターがうろついているだけなら護衛とも考えられたが、馬鹿馬鹿しい罠に本気度ゼロの落とし穴。そもそもわたし達が帰ってくるタイミングでの屋敷の変貌。答えは一つしかない。バレットさんが遊んでいるのだ。
「……嫌なことだけど、依頼自体も怪しいわね。わたし達みたいなのを呼び寄せる口実だけなのかも」
「依頼まででっち上げだったら許さないわよ!いらないって言っても口に詰め込んでやる」
 ローザが肩を震わせる横で、イルヴァが手を挙げる。
「村の人が消えちゃったって話しは?ここに入り込んで罠にかかって、とかだったら危ないじゃないですかあ」
 イルヴァの言葉に他のメンバーは顔を見合わせた。
「……たまにまともなことを言うのが気に食わないわね」
「あ、リジアったら嫉妬しちゃって」
 そう言いながら頬を突いてくるイルヴァの指にイラッとするが、これは受け流すことにする。
「確かに住民が失踪してる話は片付いてないわね」
 ローザが呟いた。それに、
「噂レベルの話、だがな」
とアルフレート。
「どっちにしろ、よ。こうなったら最後まで付き合っちゃおうと思うのよ」
 わたしの言葉に皆がこちらを見る。何を言っているのか、という様子を見てわたしは言葉を続けた。
「悪の親玉を、正しき冒険者が倒してハッピーエンドを迎えるのよ」


「そこまでよ!」
 掛け声と共に扉を勢いよく開けるわたし達。屋敷の最深部と思われる大部屋を見つけたのは、先程の話し合いからすぐの事だった。広く何も無いホールのような造りはわたしの声をよく反響させる。
 部屋の中にはバレットさんと猫達が勢揃いしている。部屋の奥、中央に仁王立ちするバレットさんは目だけを覆う妙な仮面、猫たちはドクロのプリントがしてある黒の全身タイツ姿。悪の演出、ということだろうか。
 ちなみに此処に来るまで、何回もこの台詞と共に誰もいない部屋を開け続けていたりする。未だバレットさんの企みなど分からないままだが、とにかくノリで押し切ることに決めた。
「あなたの企みはお見通しよ!」
 善神の信者であるローザも張り切って叫ぶ。彼女も好きな展開ではある。一瞬、バレットさんは面食らった顔になる。
「あなたが捕らえている村人も返してもらうわよ!」
 ローザがきりりと決めると、バレットさんは「はて?」と呟く。本気で「何の話しでしょう?」という顔だ。
「と、とぼけないでよ!」
「ちょっと待って、ローザちゃん」
 わたしはローザを手で制した。
「あなたがこの村の行方不明事件に関わっているっていう噂があるのよ。あなたの家に入っていく姿が最後、その後の行方が分からない人がいるって」
 暫く頭に「?」を浮かべた様子のバレットさん。次の瞬間、ぽん、と手を叩くと、
「ああ〜、そういうや駆け落ちのカップルやら夜逃げ家族やら逃がしてやったことがあったなあ。村人と深い関わりが無くて小金がありそうなわしに相談してくる『訳あり』な人も多くてのー」
 ぽりぽり、と頭を掻く。わたしは皆の顔を見回した。
「家具が揃って無くなってたのも夜逃げ、って考えるとスムーズではあるな」
 アルフレートがぼやきつつ頬を撫でる。
「……嘘をついてるようには見えないけど、どうする?」
 わたしがローザを始め周りに尋ねると、「なら別に戦う理由無くない?」とローザ。「あーあ、盛り下がっちゃった」と溜息ついたのはフロロ。
「……だよね。バレットさん、これ、頼まれてたポゼウ……」
 わたしがそこまで言いかけた時だった。
「そ、それは困るぞ!わしは遊びたいんじゃ!」
 慌てたのはバレットさん。……この人、大したシナリオ考えずに見切り発車だったんだな?
「『遊びたい』ってはっきり言われちゃうとな」
 ソードを仕舞うかどうか迷う素振りでヘクターが呟く。わたしは深呼吸すると、手をあげ叫んだ。
「仕切り直しよ!」


「あなたの企みは全てお見通しよ!」
 数分前の出来事など無かったかのように見事な演技で、ローザがびしりとバレットさんを指差す。
「ふ……ふはは、ふはははははは!それなら話しは早い……。ショータイムといこうか!」
 仕切り直しの間でキャラ作りの終ったらしいバレットさんは、ざっ!と右手を高らかに上げた。
「我が力、見せてやる!いでよ、ガーシュライザー!!」
 どん!という全身が揺れる振動と視界を遮る埃。大層な名前と共に天井より何かが舞い降りる。現れたそれは踏ん張った足を緩やかに直立の体勢に戻すと、わたし達の方へと頭を上げる。全身金属片をまとったその姿は一昔前の甲冑の鎧のようにも見える。ただ、とにかくでかい。本の世界でしか見た事はない巨人族ぐらいあるんじゃないか。優に二階建ての民家程はある。青い体に赤い頭部、銀の手足ととにかく派手だ。
「な、何よこれ……」
 わたしは思わず乾いた声を出してしまった。バレットさんが巨人の後ろから嬉しそうな声を上げる。
「驚いたかね!?私の研究の結晶、ロボットマシーン『ガーシュライザー』だよ!」
 はっはっは!と悪そうな高笑いが響く。その彼が両手で抱えているのはロボットマシーンとやらを操縦する端末なのだろうか。レバーのようなものが二つ付いたへんちくりんな箱を動かす度、ロボットはぎちぎちと奇妙な音を立て始める。それを聞いてわたしははっと顔を上げる。
「これの音だわ……!」
 耳障りな金属音と獣の唸りに似た響き。全てこのロボットから発せられる音だったのだ。
「こいつの特徴はパワーならトロル並み、しかしながら脚部の安定性によりスピードも……」
 うだうだとしゃべるバレットさんを総シカトしたイルヴァ、ヘクターの二人が巨人に向かって駆け出した。
「ふっ!」
 気合い一線、イルヴァがロボットの脛の辺りにウォーハンマーを叩き付ける。轟音が部屋に響き渡った。フロロが「わー!」と耳を塞ぐ。
「話しを聞けー!私の素晴らしい発明品じゃぞー!!」
 バレットさんがわーわーと騒ぐがおかまい無しに、イルヴァは攻撃の手を休めない。多分バーサーカー娘にとっては「わーい、何かボコり甲斐のある奴が出てきたぞー」ぐらいにしか思ってない。現に生き生きとウォーハンマーを振り回し続けている。
 ヘクターもロボットの足、関節に当たる部分に切り掛かりながら様子を伺っている。が、イルヴァのウォーハンマーを避ける為にあまり近寄れないようだ。
 ロボットの方と言えば二人の攻撃が致命傷にはならないものの、明らかにオタオタした様子だ。必死にパンチやらを繰り出しているが、軽々と避けられている。性能は良くとも操縦が追いついていないらしい。バレットさんは必死な顔でレバーをがっちゃがちゃ言わせ、その周りではタンタ達が飛び跳ねて応援をしていた。
「……どうする?このまま見てる?」
 ローザがこっそりわたしに耳打ちしてくる。
「うーん、まあでもそれも盛り下がるわよね。下の方だと二人に当たっちゃうかもしれないから、頭の方狙って何か撃ってみようか」
 わたしが答えるとローザが露骨に顔を歪める。
「あんたが?……まあいいけど。絶対大丈夫!って自信のある魔法限定ね」
 しつこく念を押される。この信用ゼロな感は少し親友としては酷いのではないか。色々言いたいが、わたしはとりあえず『自信のある魔法』を唱え始めた。
「エネルギーボルト!」
 わたしの指先から光球が放たれる。自信のある魔法といえばこれしか思いつかない。圧縮されたエネルギー弾はまたしても重そうに漂い、ロボット目指して飛んでいく。
「頑張れ!行け!お前なら出来る!」
 わたしの必死な応援を受けてエネルギー弾はふわり、天井の方向へ浮き上がった。
 イルヴァの方へキックをしようとしたロボットが丁度上体を持ち上げ、そこにわたしのエネルギーボルトがぼうん!と炸裂する。
「あ、当たった!当たった!」
 情けないが予想外の展開にわたしは飛び跳ねる。ロボットの方もくらくらするのか頭を振っている。人間が頭をぶつけた時に見せる仕草のようだ。
 その衝撃でなのか、頭の天辺についていた三角の飾りがぽろりと取れた。そのままバレットさん達の方へ落ちていく。
「わわわ!」
「にゃー!」
 バレットさん達は悲鳴を上げながら避ける。ロボットの頭に付いていた時は小さく見えたが、落下した際の衝撃も大きさもかなりのものだ。
「気をつけなさい!危ないじゃないか!」
「あはは、ごめんなさーい!」
 バレットさんの注意にわたしは思わず謝る。バレットさんはそのまま避ける時に落としたレバー付きの箱を拾い上げた。そしてはっとした顔でロボットを見上げる。
「や、やばい、逃げろ!」
 そう悲鳴を上げると猫達の腕を掴み、奥にある小さな扉に駆け込む。主の消えた室内、わたし達は呆気に取られてしまっていた。
「……何か様子が変じゃない?」
 ローザに言われてわたしはロボットを見上げる。耳に当たる部分からぷしゅーぷしゅーと煙を出し続けているロボットは『カッ』と目を見開いた。ランプのように瞬く瞳は赤、青、黄色と色を変え、全身は細かく振動している。
「パワー蓄えてる最中みたいに見えるな」
フロロの呟きにわたしは嫌な予感がしてしまった。

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