吉原炎上編


「日輪様、もうしばしの辛抱です!お気をしっかり!」

その後ろから二人の百華に担がれた日輪もついていく。

「いたぞォ!!反逆者共だ!!」

目の前に別の百華が立ちはだかった。

「チッ!ここにも…!!」

と、日輪達に襲いかかろうとした百華達がドサッと倒れその後ろには

「プリンセス!!!」

日輪の声に

「日輪…!…大丈夫、殺してはないから…」

と、久しぶりの再開に感動する暇もなく、廊下の隅に日輪を運び、日輪は苦笑いをし、

「……こりゃ、逃げ切れるもんじゃないね。晴太…アンタだけでも行っとくれ。」

「母ちゃん!!」

日輪は微笑してすぐ答える。

「安心しな。お前だけ逃げろなんてもう言わない。戦おう、一緒に。仲間(みんな)と。…それにプリンセスがいる。…久しぶりの再開だ。少し話したい。」

といい日輪は晴太に微笑んでからプリンセスを見た。

「晴太。大丈夫。日輪はあたしが守るから…!」

それを聞き、日輪は晴太とプリンセス自分の近くに寄せ。

「いいかい晴太、私がここにいれば敵を引きつけられる。お前はその間に、管制室へ急ぐんだ。」

「管制室?」

日輪は強く頷く。

「恐らく何人束になろうと、あの鳳仙を倒すことは難しい。でも、決して歯がたたないわけじゃない。夜王が何故、この地下深くに吉原を築いたかわかるかい。そう、誰のための桃源郷でもない。あの鳳仙(おとこ)が陽の光から逃げるために作った、あの男のためだけの桃源郷なんだ。」

「……。」

「あたし達夜兎は光に弱いから。」

「そうゆうことさ。鳳仙は太陽を何よりも憎み、恐れている。ただでさえ陽を嫌う夜兎…それも何年も陽を浴びていない夜兎が、太陽の下に晒されればどうなるか…。この地下は、もとは幕府の艦船を製造していた造船所だったんだ。今は見えないが、船を出し入れするハッチが天井に存在する。だから管制室へ行くんだ。そこへ行けば、この鉛色の空をこじ開けられる。」

「そのために、母ちゃんを囮にしろってのか。そんなの…」

「逃げた先に、自由なんてありゃしない。」

「!」

「…戦わなきゃ。檻ん中で戦わなきゃ。檻を蹴破らなきゃ。本当の自由なんて手に入りゃしない。」

日輪は強い眼差しで微笑する。

「最後まで戦わせとくれ。晴太。」

「……。」

晴太は拳を硬く握り締め、やがて踵を返した。

「母ちゃん…今度会う時は、鉄格子なんてないんだから。」

俯いたままぶっきらぼうに言う。

「だから、思いきり甘えさせてくれよな。」

「晴太…。」

日輪の温かい眼差しを背に感じ、晴太は目的地へと歩き出した。

「…大きくなったね。…たった一年会ってなかっただけなのに…大人になった。」

懐かしい記憶を思い返すように優しく呟いた。

「…やっと、会いに来れた…。こんなカタチだけど。」

苦笑いをしながら、遠慮がちに言うプリンセス。

「…プリンセス、あんたは、行かなくていいのかい??」

「え…??」

「自分の父親が死ぬかもしれないんだ。おそらく鳳仙は死ぬよ。」

強く、しかしその中にはどこか切なそうな目で訴える日輪に、

「…ごめん。日輪。…守るって言ったのに…」

いくら、嫌いな人でもやっぱり父親、と言う血のつながった関係の人の死は見届けたい。

「いってきな。」

日輪はプリンセスを引き寄せ、優しく抱きしめた。