吉原炎上編
パチパチパチパチ
不意に拍手が一つ鳴り響いた。
「よっ、お見事。実に鮮やかなお手前。」
神威は感心したように明るい声をあげた。
「神威っ!!!」
と睨みをプリンセスあてられ、こわいこわいと茶化したように言う神威。
「…とは言いがたいナリだが、いやはや恐れ入ったよ。」
「………。」
「小さき火が集いに集ってついぞ夜王の鎖を焼き切り、吉原を照らす太陽にまでなったか。まさか、本当にあの夜王を倒しちゃうなんて。遠くまで来た甲斐があったな。久しぶりに面白いものを見せてもらったよ。だけど、こんな事したって吉原は何も変わらないと思うよ。」
「………。」
「ここに降りかかる闇は夜王だけじゃない。俺達春雨に、幕府中央暗部。闇は限りなく濃い。また、第二第三の夜王がすぐに生まれることだろう。その闇を全て払えるとでも思っているのかい?本当にこの吉原を変えられると思っているのかい?」
「変わるさ。」
銀時が微笑しながら答える。
「人が変わりゃ、街も変わる。」
月詠と百華の女達の眼には一様に強い意志の光が宿っていた。
「これから、お天道さんも機嫌を損ねて雲からツラださなくなっちまう日もあるだろーが。こいつらの陽は、もう消えねーよ。」
「…フフ。そうかい。大した自信だね。」
傘の中からのぞく神威は、無邪気な笑顔のまま親指で自分を指す。
「じゃあさっそく、この第二の夜王と開戦といこうか。」
のんびりと言う神威を突然銃弾が襲った。
神威は軽々と身をかわして弾雨を避ける。
「神威ィィィィィィィ!!」
怒号と共に現れたのは、傘を構えた神楽だった。
「神楽!」
「お前の相手は私アルぅぅ!!」
憤怒の形相で睨みつける妹に神威はわずかに眼を丸くする。
「その捻じ曲がった根性私が叩き直してやるネ!!!」
「神楽ちゃんんん!!」
飛び出そうとする神楽を新八が慌てて羽交い絞めにした。
「ダメだって!その身体じゃムリだ!!」
「こいつは驚いた。まだ生きてたんだ。少しは丈夫になったらしいね。」
神威は楽しげに言うと、銀時に視線を戻した。
「出来の悪い妹だけど、よろしく頼むよ。せいぜい強くしてやってよ。」
そう言うなり踵を返す。
「オイッお前!!」
振り向いた神威は変わらず無邪気な笑顔のまま。
「好物のオカズはとっておいて最後に食べるタイプなんだ。つまり気に入ったんだよ、君が。」
「ちゃんとケガ治しておいてね。まァ色々あると思うけど、死んじゃダメだよ。」
笑顔に細められていた目がふと開き、まっすぐに銀時を見据える。
「俺に殺されるまで。」
そして神威はプリンセス目線をうつし、
「さぁ、帰ろうか」
と言い軽く手をあげながら屋根から飛び降りた。
「じゃあね」
「待て!!神威!!神威ィィィィィ!!」
神楽の制止の声も無視し、神威は姿を消した。
そして、プリンセスは無言のまま神威の後を追うように屋根から飛び降りようとした。
「プリンセス!!」
月詠の声に振り返ると、
昔月詠からもらったクナイが宙を舞い、プリンセスの元へ。
「プリンセス!!…いつでも、帰っておいで。」
と日輪の言葉にプリンセスは
「…うん…!」
満面の笑みで震えた声でそう日輪と月詠に聞こえるように呟き、屋根から飛び降りた。
……
プリンセスは涙を拭きながら路地裏で、神威を探した。…と、歩いていると、2つのシルエットを見つけ、それが、神威と死んだはずの阿伏兎だと気づき2人の元へ走った。
「阿伏兎!!!…生きてたのね…!…よかった…」
ホッとしたのか、 阿伏兎の横に崩れ落ちた。
「…あぁ…どうやらな。」
本当に良かった…良かったと呟き微笑むプリンセス。神威が、眼中にないようだ。
「…で、話をもどそうか。」
笑顔で言う神威だったが、放たれる気は冷ややかだった。
「お前は夜兎の血を愛でるあまり、最も血に恥ずべき行為を行ったんだ。言っただろう。弱い奴に用はないって。」
「……俺ァ加減なんてした覚えはないがね。だが、」
阿伏兎は苦笑しながら、脳裏に覚醒した神楽の姿を甦らせる。殺意と狂気に満ちたあの眼差しに射抜かれ、思わずゾクリとしたのを覚えている。
「あの逸材を、こんな所で消すのは勿体ないと思ったのも事実だよ。アンタと会った時と同じ感覚だった、団長。実に面白い兄妹だよ。」
神威は阿伏兎の傍らに立ち、笑顔のまま右手をあげる。阿伏兎は苦笑を滲ませたまま眼を伏せた。
「やめて神威!!!!今ここで阿伏兎を殺る必要なんてないじゃない!!」
声をあげたのはプリンセスだった。
阿伏兎をかばうように前に出てきたプリンセス。
「…邪魔だプリンセス。…今は邪魔をするな。」
と強く冷たく言う神威にプリンセスは負けじと睨み返した。
すると、プリンセスの後ろから
「プリンセス。」
そこをどけと優しい眼差しで訴える阿伏兎にプリンセスは、心配そうな顔をしながらもう一度神威を睨みつけその場から離れた。
そんなプリンセスに微笑を見せ阿伏兎は
「嬉しいねェ。有望な新人が続々と。俺達の未来は明るいぜ。これからは、お前達の時代だ。俺達古い夜兎(うさぎ)は夜王と共に月に還るとするか。」
プリンセスはその阿伏兎の覚悟を決めた言葉を聞き、目を閉ざした。
手刀を叩き込まれ首を落とされる。そう覚悟していた 阿伏兎。 しかし襲ってくるはずの衝撃はなかった。プリンセスは不思議に思い閉じていた瞼を開いた。すると、おもむろに身体を引き上げられ、神威の肩に腕を担がれる阿伏兎の姿があった。
「……ありゃ?どういう風の吹き回しだ。」
阿伏兎は怪訝な表情で神威の横顔を見る。
その光景を見てプリンセスは小さく微笑、神威とは逆の、 阿伏兎の失った腕の方へ行き阿伏兎の腰に手をおき支えた。
阿伏兎はチラッとプリンセスの方を見て目が合いプリンセスは微笑んだ。
「阿伏兎、俺もお前と同じだ。将来が気になって一人殺れなかった男がいる。」
神威は前を見据えたまま答える。
「あ?」
神威は銀時の戦いの光景を脳裏に甦らせていた。
「 真の強者とは、強き肉体と強き魂を兼ね備えた者。そんな者とは程遠いもろい肉体と、くだらないしがらみにとらわれている脆弱な精神を持つ男だ。だが、それでもあの男は夜王に勝った。何度潰されても立ち上がり、圧倒的実力差をくつがえし、最後に戦場に生き残った。」
「……。」
フッと笑った神威。
その笑顔は、とても無邪気だった。
「面白いだろう。やっぱり宇宙は広いね。夜兎(オレたち)が最強を称するのはまだまだ早かった。まだ宇宙にはいたんだよ。オレ達とは、全く別の形の強さを持った連中が。“侍”という、夜兎に匹敵する力を持つ修羅。」
「とにかく、次に会う時が楽しみだよ。もっと強くなってるかもしれないしね♪…あれは俺の獲物だよ。誰にも手出しはさせない。」
ふと神威の声から上機嫌な色が消えた。
「吉原の変を知れば、元老(うえ)は黙っちゃいない。そうなればあの連中もタダではすまないだろう。俺は世渡りが苦手なんだ。阿伏兎、お前にはまだ生きていてもらわないと困る。」
「つまり元老(うえ)を黙らせ、侍共を死なせぬ手を考えろと?オイオイ冗談よせよ。何で俺が同族でもない、こんな辺境の星の蛮族のためにそこまでしなきゃならねーんだ。」
「だって阿伏兎言ってただろ。宇宙の海賊王への道を切り拓いてくれるって。」
「それとこれとは別だろ!!オイ!聞いてんのかオイ!すっとこどっこい!」
2人のテンポの良い会話に笑うプリンセス。
笑い事じゃねぇと呆れたように言う阿伏兎。
笑い続けるプリンセス。そんな阿伏兎の文句もプリンセスの声も耳に届かず、神威はふと鳳仙の言葉を思い出した。
一神威。お前もいずれ知ろう。年老い、己が来た道を振り返った時。我等の道には、何もない。一
(…旦那。俺はそれで結構だ。振り返る事などない。)
神威は閉じた眼を開こうとしたが瞳のおくにプリンセスの姿が見えた。しかし、眼を開き前方を見据えた。
(前しか見えない。眼前に広がる新たな戦場。それこそが俺の求めしもの。)
先に待つ戦場を思いながら、神威は湧き上がる衝動を胸に歩き続ける。
一誰よりも強くなるため行く。何よりも強くなるため進む。たとえそこに、護るものなど何もなくとも。一
そして、3人の姿は闇に消えていった。
不意に拍手が一つ鳴り響いた。
「よっ、お見事。実に鮮やかなお手前。」
神威は感心したように明るい声をあげた。
「神威っ!!!」
と睨みをプリンセスあてられ、こわいこわいと茶化したように言う神威。
「…とは言いがたいナリだが、いやはや恐れ入ったよ。」
「………。」
「小さき火が集いに集ってついぞ夜王の鎖を焼き切り、吉原を照らす太陽にまでなったか。まさか、本当にあの夜王を倒しちゃうなんて。遠くまで来た甲斐があったな。久しぶりに面白いものを見せてもらったよ。だけど、こんな事したって吉原は何も変わらないと思うよ。」
「………。」
「ここに降りかかる闇は夜王だけじゃない。俺達春雨に、幕府中央暗部。闇は限りなく濃い。また、第二第三の夜王がすぐに生まれることだろう。その闇を全て払えるとでも思っているのかい?本当にこの吉原を変えられると思っているのかい?」
「変わるさ。」
銀時が微笑しながら答える。
「人が変わりゃ、街も変わる。」
月詠と百華の女達の眼には一様に強い意志の光が宿っていた。
「これから、お天道さんも機嫌を損ねて雲からツラださなくなっちまう日もあるだろーが。こいつらの陽は、もう消えねーよ。」
「…フフ。そうかい。大した自信だね。」
傘の中からのぞく神威は、無邪気な笑顔のまま親指で自分を指す。
「じゃあさっそく、この第二の夜王と開戦といこうか。」
のんびりと言う神威を突然銃弾が襲った。
神威は軽々と身をかわして弾雨を避ける。
「神威ィィィィィィィ!!」
怒号と共に現れたのは、傘を構えた神楽だった。
「神楽!」
「お前の相手は私アルぅぅ!!」
憤怒の形相で睨みつける妹に神威はわずかに眼を丸くする。
「その捻じ曲がった根性私が叩き直してやるネ!!!」
「神楽ちゃんんん!!」
飛び出そうとする神楽を新八が慌てて羽交い絞めにした。
「ダメだって!その身体じゃムリだ!!」
「こいつは驚いた。まだ生きてたんだ。少しは丈夫になったらしいね。」
神威は楽しげに言うと、銀時に視線を戻した。
「出来の悪い妹だけど、よろしく頼むよ。せいぜい強くしてやってよ。」
そう言うなり踵を返す。
「オイッお前!!」
振り向いた神威は変わらず無邪気な笑顔のまま。
「好物のオカズはとっておいて最後に食べるタイプなんだ。つまり気に入ったんだよ、君が。」
「ちゃんとケガ治しておいてね。まァ色々あると思うけど、死んじゃダメだよ。」
笑顔に細められていた目がふと開き、まっすぐに銀時を見据える。
「俺に殺されるまで。」
そして神威はプリンセス目線をうつし、
「さぁ、帰ろうか」
と言い軽く手をあげながら屋根から飛び降りた。
「じゃあね」
「待て!!神威!!神威ィィィィィ!!」
神楽の制止の声も無視し、神威は姿を消した。
そして、プリンセスは無言のまま神威の後を追うように屋根から飛び降りようとした。
「プリンセス!!」
月詠の声に振り返ると、
昔月詠からもらったクナイが宙を舞い、プリンセスの元へ。
「プリンセス!!…いつでも、帰っておいで。」
と日輪の言葉にプリンセスは
「…うん…!」
満面の笑みで震えた声でそう日輪と月詠に聞こえるように呟き、屋根から飛び降りた。
……
プリンセスは涙を拭きながら路地裏で、神威を探した。…と、歩いていると、2つのシルエットを見つけ、それが、神威と死んだはずの阿伏兎だと気づき2人の元へ走った。
「阿伏兎!!!…生きてたのね…!…よかった…」
ホッとしたのか、 阿伏兎の横に崩れ落ちた。
「…あぁ…どうやらな。」
本当に良かった…良かったと呟き微笑むプリンセス。神威が、眼中にないようだ。
「…で、話をもどそうか。」
笑顔で言う神威だったが、放たれる気は冷ややかだった。
「お前は夜兎の血を愛でるあまり、最も血に恥ずべき行為を行ったんだ。言っただろう。弱い奴に用はないって。」
「……俺ァ加減なんてした覚えはないがね。だが、」
阿伏兎は苦笑しながら、脳裏に覚醒した神楽の姿を甦らせる。殺意と狂気に満ちたあの眼差しに射抜かれ、思わずゾクリとしたのを覚えている。
「あの逸材を、こんな所で消すのは勿体ないと思ったのも事実だよ。アンタと会った時と同じ感覚だった、団長。実に面白い兄妹だよ。」
神威は阿伏兎の傍らに立ち、笑顔のまま右手をあげる。阿伏兎は苦笑を滲ませたまま眼を伏せた。
「やめて神威!!!!今ここで阿伏兎を殺る必要なんてないじゃない!!」
声をあげたのはプリンセスだった。
阿伏兎をかばうように前に出てきたプリンセス。
「…邪魔だプリンセス。…今は邪魔をするな。」
と強く冷たく言う神威にプリンセスは負けじと睨み返した。
すると、プリンセスの後ろから
「プリンセス。」
そこをどけと優しい眼差しで訴える阿伏兎にプリンセスは、心配そうな顔をしながらもう一度神威を睨みつけその場から離れた。
そんなプリンセスに微笑を見せ阿伏兎は
「嬉しいねェ。有望な新人が続々と。俺達の未来は明るいぜ。これからは、お前達の時代だ。俺達古い夜兎(うさぎ)は夜王と共に月に還るとするか。」
プリンセスはその阿伏兎の覚悟を決めた言葉を聞き、目を閉ざした。
手刀を叩き込まれ首を落とされる。そう覚悟していた 阿伏兎。 しかし襲ってくるはずの衝撃はなかった。プリンセスは不思議に思い閉じていた瞼を開いた。すると、おもむろに身体を引き上げられ、神威の肩に腕を担がれる阿伏兎の姿があった。
「……ありゃ?どういう風の吹き回しだ。」
阿伏兎は怪訝な表情で神威の横顔を見る。
その光景を見てプリンセスは小さく微笑、神威とは逆の、 阿伏兎の失った腕の方へ行き阿伏兎の腰に手をおき支えた。
阿伏兎はチラッとプリンセスの方を見て目が合いプリンセスは微笑んだ。
「阿伏兎、俺もお前と同じだ。将来が気になって一人殺れなかった男がいる。」
神威は前を見据えたまま答える。
「あ?」
神威は銀時の戦いの光景を脳裏に甦らせていた。
「 真の強者とは、強き肉体と強き魂を兼ね備えた者。そんな者とは程遠いもろい肉体と、くだらないしがらみにとらわれている脆弱な精神を持つ男だ。だが、それでもあの男は夜王に勝った。何度潰されても立ち上がり、圧倒的実力差をくつがえし、最後に戦場に生き残った。」
「……。」
フッと笑った神威。
その笑顔は、とても無邪気だった。
「面白いだろう。やっぱり宇宙は広いね。夜兎(オレたち)が最強を称するのはまだまだ早かった。まだ宇宙にはいたんだよ。オレ達とは、全く別の形の強さを持った連中が。“侍”という、夜兎に匹敵する力を持つ修羅。」
「とにかく、次に会う時が楽しみだよ。もっと強くなってるかもしれないしね♪…あれは俺の獲物だよ。誰にも手出しはさせない。」
ふと神威の声から上機嫌な色が消えた。
「吉原の変を知れば、元老(うえ)は黙っちゃいない。そうなればあの連中もタダではすまないだろう。俺は世渡りが苦手なんだ。阿伏兎、お前にはまだ生きていてもらわないと困る。」
「つまり元老(うえ)を黙らせ、侍共を死なせぬ手を考えろと?オイオイ冗談よせよ。何で俺が同族でもない、こんな辺境の星の蛮族のためにそこまでしなきゃならねーんだ。」
「だって阿伏兎言ってただろ。宇宙の海賊王への道を切り拓いてくれるって。」
「それとこれとは別だろ!!オイ!聞いてんのかオイ!すっとこどっこい!」
2人のテンポの良い会話に笑うプリンセス。
笑い事じゃねぇと呆れたように言う阿伏兎。
笑い続けるプリンセス。そんな阿伏兎の文句もプリンセスの声も耳に届かず、神威はふと鳳仙の言葉を思い出した。
一神威。お前もいずれ知ろう。年老い、己が来た道を振り返った時。我等の道には、何もない。一
(…旦那。俺はそれで結構だ。振り返る事などない。)
神威は閉じた眼を開こうとしたが瞳のおくにプリンセスの姿が見えた。しかし、眼を開き前方を見据えた。
(前しか見えない。眼前に広がる新たな戦場。それこそが俺の求めしもの。)
先に待つ戦場を思いながら、神威は湧き上がる衝動を胸に歩き続ける。
一誰よりも強くなるため行く。何よりも強くなるため進む。たとえそこに、護るものなど何もなくとも。一
そして、3人の姿は闇に消えていった。