お花見


「じゃんじゃん酒持ってこ〜い!」

御猪口を片手に陽気に声を上げるのは、かなり酔いの回っている次郎太刀であった。結局、花見は開催され満開の桜の木の下で酒を嗜み、静かに楽しむ者もいれば賑やかに楽しむ者もいた。

「三日連続だけど、飽きないものだね」

片手に御猪口を持ち静かに花見をするプリンセス。その周りには、燭台切や太郎太刀といった落ち着いて静かに酒を嗜む者が囲っていた。

「そうだね、」

燭台切がプリンセスの言葉に共感し、お互いの視線が混じり合いどちらともなく笑みを浮かべる。ふと燭台切の後ろにいる次郎太刀が陸奥守や鶴丸に絡んでいるのが視界に入り、苦笑いを浮かべる。

「次郎太刀も楽しそうで」
「ははは、三日連続も酒には飽きないのかな」

プリンセスの視線の先である次郎太刀に振り向き、困った様に笑みを浮かべる燭台切だった。するとその視線に気づいたように次郎太刀がプリンセスの元へおぼつか無い足取りで近づき、プリンセスの肩に腕を回す。

「な〜に〜?プリンセスちゃん、全然呑んでないじゃないの」

ぷんぷんと次郎太刀から漂う酒の匂いに酔いそうになる。助けを求める様に燭台切や陸奥守、鶴丸を見つめるも、どうにも出来ない、と苦笑いを浮かべる一同。

「の、呑んでるよ!」

ほらね、と慌てたように手に持つ御猪口を見せると次郎太刀は何か考える様にとろんとした瞳で御猪口を見つめる。しばらくして瞳をプリンセスに向ける次郎太刀。その目は、何か思いついた様に揺らいでいた。

「あたしが呑ませてあ・げ・る」

最後にウインクを付け加えて、次郎太刀は酒瓶を唇につけそのまま酒を流し込み、一瞬もしない内にプリンセスの唇に自身の唇を重ねた。突然の事に目を見開き次郎太刀の胸を押すがビクともしない。どんどん口移しに流れて行く酒。喉に酒の味がじわじわと伝わる。

そんな二人の姿に周りにいる皆は唖然とするばかり。騒いでいた藤四郎兄弟達でさえその光景に頬を染め呆然と見つめる。特に長谷部は他とは比べモノにならないほど、あんぐりと口を開け石像の様に固まった。

しばらくして触れる唇が離された。げほげほと咽るプリンセスと、陽気に笑む次郎太刀。

「プリンセス大丈夫かい!?」

片方の手を地につけて咳をするプリンセスに駆け寄り、背をさする燭台切。他の皆も駆け寄る。するとプリンセスは、ゆっくりと顔を上げた。その表情に皆、ハッとする。頬は赤くほんのりと染まり、瞳はひどく水量を増し潤んでいて、なによりも口の端から滴る酒が、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。そしてプリンセスは目を細め、ふんわりと笑む。

「調度良いくらいかな」

少々呂律の回っていない口調に皆、やってしまった、と惜しそうに顔を歪ませる。すると長谷部が勢いよく皆を掻き分けてプリンセスの前にやってきた。

「おお、長谷部か…」

焦点が合わないせいか曖昧に長谷部の瞳を捉えるプリンセス。不安げに見つめる長谷部にプリンセスは満面の笑みを浮かべ、両腕を大きく開いた。

「おいで?」

プリンセスの言葉にポカーンと石化する長谷部。プリンセスはその姿にクスクスと笑う。

「なんちゃって」

そして立ち上がりフラフラとおぼつか無い足取りで、陸奥守と鶴丸に注意を受ける次郎太刀の元へ寄る。

「次郎ちゃん、どんどん呑むよ〜!」

確実に酔いの回っているプリンセスは、声を上げた。その声に次郎太刀は笑みを浮かべ、二人は浴びる様に酒を呑みはじめた。そんな二人の姿、皆は呆れたような表情を浮かべるも、つられるように笑った。