夜桜


気付いたらそこは見慣れた天井だった。空気は静かに流れており月が夜を照らす時間であった。プリンセスは重い体を起こし頭に手を添える。

「ん〜、曖昧に覚えてるなあ」

昼間の記憶が蘇り、後悔するように顔を険しくさせるプリンセス。眠気は冷めてしまい、布団から身を出し、行先は決まっているようでそこに向かう為廊下を歩きはじめた。


「一人、夜桜か」

昼間とは違って、どこか儚い、月夜に照らされる桜を見上げるプリンセスに落ち着いた口調で声をかけたのは長谷部だった。突っ伏すプリンセスの隣に同じように並ぶ長谷部。

「昼間は、随分と迷惑をかけてしまったみたいね。」

次郎太刀に無理やりに呑まされ、気分が良くなってしまい自ら次々と浴びる様に呑んでしまった昼間の事が曖昧ではあるが記憶にあり申し訳なさそうに長谷部に目を向ける。すると長谷部は桜を見上げたまま、呆れたように口元に笑みを浮かべた。

「ああ、そうだな。大そう賑やかだったな。」
「あ…ごめんないさい…」

嫌み気に言う長谷部だが、確かに自分は周りの事を考えずに楽しんでしまった、と長谷部の口調は妥当だと思い反省の言葉を述べ俯く。

「だが、プリンセス。」

まっすぐに心に浸透する長谷部の名を呼ぶ声に顔を上げると、いつの間にかプリンセスの方に身体を向けていた長谷部。その顔は、真剣な顔つきで、しかしどこか不安気だった。同じように長谷部に向き合うプリンセス。

「お前は、刀剣の中で唯一の女だ…」

余りにも緊張感のある口調で言う長谷部。

「なーに言ってるの長谷部、そんなの分かってるよ?」

茶化す様に笑みを浮かべ、プリンセスは長谷部を見つめる。すると長谷部の手がプリンセスの頬を包む様に触れる。突然の事に、昼間の次郎太刀との事もあり肩が微かにビクつき瞳孔の揺れる瞳で長谷部を捉える。

「男は、理性に欠けている。」

言葉をどう解釈したらよいのか分からず疑問の表情を浮かべるプリンセスに長谷部は、口元に力無い笑みを浮かべた。その表情から、なんとなくその言葉の意味を捉える事が出来た気がした。すると、プリンセスの頬を軽く抓るそえられた手。

「あまり乱れた行動を取るな。」

プリンセスは、ただ黙って長谷部を見つめる事しか出来なかった。そして素直にコクりと頷く。瞳はまだ長谷部を捉えている。自分の事をジッと見つめるプリンセスに長谷部は気恥しくなり顔を背け、同時にプリンセスの頬を抓る手を離し、夜風になびく桜の木に目を向けた。
そしてプリンセスも桜に目を向け、二人、夜桜を眺めるのだった。