帰還


「プリンセス、ご苦労様です」

本丸の中庭がよく見える鮮やかな赤い柱が支える解放された空間のとある対屋にて、プリンセスが見分を受けていると本丸の主、審神者がやって来た。表情は安堵を意味するように穏やかであった。

「主様!」

眠た気だった表情をパッと輝かせ主に目を向けるプリンセス。プリンセスが今世において、最も信頼している存在。そして審神者もプリンセスを最も自分の近侍として信頼していた。

「任務は成功です。無事に帰還、安心しています。相変わらず仕事が早いですね。」

主の言葉にプリンセスは喜びが溢れるぐらいに目を見開き誇らしげな表情を浮かべる。

「主様!そこで提案なのですが!長期にわたる複数の任務。2日間のお暇だけでは休まりません。」

プリンセスを囲う青い分析線が消え、こんのすけが検分が終わりました、と口にするのと同時に主に駆け寄り、ねだる子供の様な甘えた表情を浮かべるプリンセス。

「出来れば、3日‥いや、1週間程のお暇を頂きたいなあって」
「プリンセス。」

懇願するように手を合わせ、首を傾げるのと共にその手も同じ様に傾げ、上目遣いに視線を送るプリンセスに、主が名を呼ぶ。

「2日で、お願いしますね」

ぶれることのない口調、そして笑みを浮かべる主、その笑みの裏にはプリンセスに対しての厚い信頼の気持ちも含まれているが、鬼の様な部分も含まれているようだった。

「‥は、はい‥」

プリンセスの少々納得できない様な弱々しい返事を聞いてから主はその場を去っていった。

「今回も、上手く丸め込まれましたね」
「うう、こんのすけぇ」

唇を噛み締めて眉を下げ目を潤ませるプリンセスの肩に飛び乗りこんのすけが平然と口にする。

「主様は、鬼畜だあ‥」
「審神者様はプリンセス様の事をよく分かっておりますなあ、しかし審神者様が厚く信頼を寄せている証拠でございますぞ。」

腑に落ちない様子で嘆くプリンセスの心に寄り添うようにこんのすけが口にするとプリンセスは肩に乗るこんのすけを胸に抱える。

「うう、こんのすけにも上手く丸め込まれてる気がするけど!ありがとう‥」
「審神者様のお言葉を断れないプリンセス様も、こうやって抱擁して下さるプリンセス様も好きでございますぞ。」

プリンセスと、こんのすけは平穏な掛け合いを繰り広げながら、休息の為プリンセスの自室へと向かった。



「最近、妙に時間遡行軍の兵が強さを増したと思いませんか、こんのすけ」

様々な書物が壁棚に並び、陽の光がガラス窓から差し込む洋風な装飾を施された主部屋にて審神者は書斎机に両肘をつき両手の指を組み合わせて、その上に顎を乗せ、何やらデータ分析を行うこんのすけに問う。

「審神者様もお気づきになられましたか、今回のプリンセス様が遂行された任務においても、未確認のモノが数体現れました」

こんのすけの鈴に搭載されたプロジェクターで、いくつかの画像が表示される。そこに映る物体に審神者は一瞬瞳孔を開くも、すぐに摯実な表情を浮かべる。

「無傷のまま帰還されましたが、中々苦戦した場面もあったそうで。」

こんのすけの言葉に審神者は一度瞼を閉じ、何か考え込む。通常、任務には部隊を作って過去に送るのだが、プリンセスだけは単独で送ることが大半であった。それはプリンセスの強さがあるから出来ることである。しかしそんなプリンセスが今回の任務で苦戦したとなれば。閉じた瞼を上げる審神者。

「プリンセスを部隊に入れましょう。」

審神者の言葉に、こんのすけは同意を示すように深く頷いた。