雨の日は


「はい、出来た。」
「わあ〜…綺麗…可愛い…!」

指を真っ直ぐに伸ばし、彩られた爪を見つめ感激するプリンセス。そしてその装飾を施した加州は、どこか誇らしげである。

「見てみて!大和守!凄くない?」
「わあ、綺麗だね‥!」

机を挟んで斜めに座り、刀の手入れをしている大和守に見せるプリンセス。そんな嬉しそうなプリンセスに大和守はニコッと笑みを浮かべた。

「主に可愛がってもらうにはこうゆう努力も大事なの」

加州は、自分の朱色に装飾された爪を見つめながら涼しげに口にした。そんな加州をプリンセスと大和守はポカーンとした表情で見つめる。

「加州は主様に、犬や猫みたいにいい子いい子ってされたいの?」
「そうゆう事じゃなくて」

突拍子も無い事を口にするプリンセスに加州は面喰らった様子で口を尖らせた。

「ふーん…そっか…」

加州の言葉にどこか納得いっていない様で机に頬を預け加州を見つめるプリンセス。すると、プリンセスはハッと何か思いついた様子で顔を上げ立ち上がった。

「あれ、どこか行くの?」
「うん!長谷部に自慢しに行くんだあ」

大和守が問うと、どこか楽しそうにプリンセスは溢れるような笑みを浮かべ部屋から出て行った。


廊下に出ると、空は鉛色で、雨が降り続いており、冷たい風が微かにプリンセスの肌をかすめる。

「あれ…?山姥切なにしてるの?」

長谷部を捜しながら歩いていると、珍しく縁側で腰掛ける山姥切がプリンセスの足を止める。

「…プリンセスか」
「…何。その格好。」

名を呼ばれプリンセスの方に目を向けた山姥切だが、プリンセスはその山姥切の格好に眉を潜めた。何故なら、いつもの服装と異なり、黒スーツを着ていた為である。

「ああ…実は…」

そして、山姥切は語り出した。近頃、顕現された大倶利伽羅が周りの刀剣と接すること無く、それを昔馴染みである燭台切が気にして皆んなと仲良くして欲しいという願いからおもてなしをしようとしていると言う事を。

「なるほどね…確かに距離を置かれてる感じはするかも」

確かに大倶利伽羅が来てから一度も接したことが無い、むしろ今山姥切からその名が出てから脳内で直ぐに名と一致する容姿が思い浮かばなかったプリンセス。申し訳なさそうに眉を下げ笑む。

「それで、俺はどの様な事をしたら良いのか考えているが全く思いつかない。」

腕を組み眉を潜め、頭を悩ませている様子の山姥切。

「そうだね…おもてなし…おもてなしか…」

うーん、と唸る様に言葉を零しプリンセスも同じ様に腕を組み頭を悩ませるが中々思いつかない様子である。

「…ごめんね、山姥切。思いつかない…」

大きく息を吐き、身を縮め頭を下げるプリンセス。

「いや、大丈夫だ。…もう少し考えてみる。」
「…うん…じゃあ、私長谷部の所行くから」

山姥切りは、微かに口元に笑みを浮かべプリンセスを見た。その笑みは、まるで申し訳ない気持ちが滲んでいるプリンセスの顔を和ませる様な笑みだった。

そしてプリンセスは軽く手を振り、その場から去っていった。さて、肝心の長谷部は何処に居るのか。プリンセスは本丸内を探索し始めた。

ー ー ー ー
廊下を歩いていると、襖が大きく開かれ照明の光が漏れている部屋が目に入る。ちょこっと覗くと、堀川国広と和泉守兼定が何やら対談していた。

すると、プリンセスの存在に気づいた様で、堀川は目を向けニコッと笑む。つられる様にプリンセスも笑み返すと、和泉守がこちらに目を向けパッと顔を明るくした。

「プリンセス!ちょっと良いか!」

和泉守の響き渡る大きな声に呼ばれ部屋の中へとお邪魔するプリンセス。すると、ズズズと距離を詰める和泉守。その勢いに後ずさる。堀川は困った様に笑みさり気なく和泉守の腕を抑えている。

「俺は、女から見ても格好良いか!」
「え…」

突然の問いかけに思わず呆気ない声が溢れる。プリンセスの瞳に強い眼差しを向け答えを待つ和泉守に、急かされる様に言葉を探す。

「格好良いと思いますよ!」
「おお!よく分かってるじゃねェか!」

勢いで口にすると、和泉守は何処か満足げに白い歯を見せ笑みを浮かべプリンセスの肩を叩く。ご機嫌なら良かった、と安堵の表情を浮かべ一息つく。

「プリンセスさん、突然すみません。」

和泉守の代わりに、眉をハの字に寄せ申し訳なさそうな表情を浮かべる堀川に、逆にプリンセスが申し訳なく感じてしまい、いやいやという様に左右に手を振った。

「私、長谷部探してるから、行くね!」

無理やり締めくくる勢いでその場から去っていった。

そして、廊下に出たプリンセス。知らず内に、闇雲で覆われていた空はすっかり消えており、太陽が顔を見せていた。