鷹揚な男士
「すっかり晴れちゃったなあ」
白い雲と青が広がる空を見上げて、本丸の廊下を歩くプリンセス。先ほどから探している肝心の長谷部には未だに出会えないでいた。普段だったら、一日の間で必ずと言って良いほどプリンセスの前に現れるのだが、今日は珍しく一度も目にしていないのだ。
「あれ?顕現部屋の戸が開かれてる…」
廊下突き当たりを抜けたところでプリンセスの目に入ったのは、普通だったらあるはずの襖が破損され丸出しの部屋。プリンセスは誰か顕現されたのか、と興味本位で部屋を覗いた。
覗いた先には、深い蒼を基調とした今までに見たことがない程に貫禄溢れる衣装を身に着けた男がプリンセスに背を向けて突っ伏していた。
プリンセスは、直ぐにこの男がつい先ほど顕現されたのだという事に気づき、まるで綱で引かれる様に部屋の中へと入ってゆく。
すると、そんなプリンセスの存在に気づいたのか、その男はゆっくりとプリンセスの方に顔を向けた。その男と目が交わった瞬間にプリンセスは、ハッと瞳を大きく見開いた。
「あ、貴方は」
隙のない佇まいの目の前の男に圧迫されている様で上手く言葉が出ないプリンセス。すると男は、力なく開かれた目を一度見開いてから、やんわりと笑みを浮かべた。
「俺の名は三日月宗近…はっはっはっ、そんな怯えた様な表情をしなくてよいぞ、なんせじじぃだからな」
冗談交じりに気高く笑う三日月だが、プリンセスはそんな呑気に笑うことが出来ず、三日月宗近、その名を聞いた瞬間にハッともう一度瞳を大きく見開き驚愕。なぜなら、主がずっと求めていた刀だと知っていたからだ。
思わず凝視してしまうプリンセスに、よろしく頼む、と軽く頭を下げる三日月宗近。恐れ多いとプリンセスも頭を下げる。
「私は、プリンセス…です。」
「そうか、良い名だ…大層、雅に刀を振るうのだろう、」
いやいや、全然と顔を苦め否定するプリンセスだが、どこか嬉しそうな表情が零れていた。お世辞だとしても、不思議と三日月に言われると気乗りしてしまうのかもしれない。
「しかし、長谷部にここで待っていろと言われたのだが、退屈だな。」
少し眉を顰め、顎に手を添えてから、何か思いついたかのようにプリンセスの横を通り過ぎ部屋から出ていく三日月。プリンセスは慌ててその後を追う。
「あっ、待って下さい!三日月様!…徘徊しないで下さーい!」
三日月の前に先回りし立ちはだかるプリンセスに、三日月は少々いじけた素振りで頬を膨らませた。ちょっと可愛らしいと気が緩みそうになるも、首を振り気を引き締める。
「じじぃには散歩の様な軽い運動が大切かと、はっはっはっ」
またしても冗談交じりに気高く笑う三日月。プリンセスは、三日月の余裕綽々とした少々抜け目のあるペースに飲み込まれる寸前だった。しかし、このマイペースさがとある人物と重なり、声を上げた。
「そうだ!三日月様に紹介したい方がいます!…きっと気が合いますよ〜!」
その人物の所に行けば徘徊することなく、長谷部をそこに連れて行けばよいと名案したプリンセス。三日月もその人物とやらに関心を持ったらしくプリンセスの後を大人しく着いていった。
△▽△
しばらく、長谷部にばったり出会えないかなと思いながら本丸の廊下を歩いていたがそれも叶わず、目的の場所へと到着したプリンセスと三日月。その目的の場所とは、本丸内において桜の木がよく見渡せる縁側だった。
「鶯丸〜!」
「…ああ、プリンセスか…茶でも飲みに来たのか。」
静かにゆったりとプリンセスの方へと顔を向ける鶯丸に、やはり三日月とペースが似ていると確信を得るプリンセス。
「いやあ、私じゃなくて…こちらの先程顕現されました、三日月宗近様です。」
プリンセスの数歩後ろで和やかな表情を浮かべる三日月に鶯丸も同じような表情を浮かべている。プリンセスが紹介を終えるなり、よろしく頼む、と一言添え鶯丸の隣に腰を下ろす三日月。鶯丸も易々と受け入れた様で急須で茶飲みに茶を注ぎ入れていた。
「じゃあ、私は長谷部を捜しに行くから…ごゆっくりね。」
まるで老後を朗らかに過ごすおじいちゃんだ、と思わず表情を緩めるプリンセス。そしてプリンセスは、鶯丸に三日月を託し、その場から立ち去った。
「プリンセスは、じじぃに優しいな。」
鶯丸から手渡された茶飲みを見つめ呟く三日月。鶯丸は一度瞳を閉じ、微かに口元を緩めた。
「ああ、俺もいつも、プリンセスには世話になっている…な。」
少し間が空いたところで返答する鶯丸。三日月は何を思っているのか、瞳の奥の三日月が微かに揺れた。そして何方も言葉を交わすことなく、時の流れに身を任せて茶を啜り、今日もこの本丸は和やかだ。
白い雲と青が広がる空を見上げて、本丸の廊下を歩くプリンセス。先ほどから探している肝心の長谷部には未だに出会えないでいた。普段だったら、一日の間で必ずと言って良いほどプリンセスの前に現れるのだが、今日は珍しく一度も目にしていないのだ。
「あれ?顕現部屋の戸が開かれてる…」
廊下突き当たりを抜けたところでプリンセスの目に入ったのは、普通だったらあるはずの襖が破損され丸出しの部屋。プリンセスは誰か顕現されたのか、と興味本位で部屋を覗いた。
覗いた先には、深い蒼を基調とした今までに見たことがない程に貫禄溢れる衣装を身に着けた男がプリンセスに背を向けて突っ伏していた。
プリンセスは、直ぐにこの男がつい先ほど顕現されたのだという事に気づき、まるで綱で引かれる様に部屋の中へと入ってゆく。
すると、そんなプリンセスの存在に気づいたのか、その男はゆっくりとプリンセスの方に顔を向けた。その男と目が交わった瞬間にプリンセスは、ハッと瞳を大きく見開いた。
「あ、貴方は」
隙のない佇まいの目の前の男に圧迫されている様で上手く言葉が出ないプリンセス。すると男は、力なく開かれた目を一度見開いてから、やんわりと笑みを浮かべた。
「俺の名は三日月宗近…はっはっはっ、そんな怯えた様な表情をしなくてよいぞ、なんせじじぃだからな」
冗談交じりに気高く笑う三日月だが、プリンセスはそんな呑気に笑うことが出来ず、三日月宗近、その名を聞いた瞬間にハッともう一度瞳を大きく見開き驚愕。なぜなら、主がずっと求めていた刀だと知っていたからだ。
思わず凝視してしまうプリンセスに、よろしく頼む、と軽く頭を下げる三日月宗近。恐れ多いとプリンセスも頭を下げる。
「私は、プリンセス…です。」
「そうか、良い名だ…大層、雅に刀を振るうのだろう、」
いやいや、全然と顔を苦め否定するプリンセスだが、どこか嬉しそうな表情が零れていた。お世辞だとしても、不思議と三日月に言われると気乗りしてしまうのかもしれない。
「しかし、長谷部にここで待っていろと言われたのだが、退屈だな。」
少し眉を顰め、顎に手を添えてから、何か思いついたかのようにプリンセスの横を通り過ぎ部屋から出ていく三日月。プリンセスは慌ててその後を追う。
「あっ、待って下さい!三日月様!…徘徊しないで下さーい!」
三日月の前に先回りし立ちはだかるプリンセスに、三日月は少々いじけた素振りで頬を膨らませた。ちょっと可愛らしいと気が緩みそうになるも、首を振り気を引き締める。
「じじぃには散歩の様な軽い運動が大切かと、はっはっはっ」
またしても冗談交じりに気高く笑う三日月。プリンセスは、三日月の余裕綽々とした少々抜け目のあるペースに飲み込まれる寸前だった。しかし、このマイペースさがとある人物と重なり、声を上げた。
「そうだ!三日月様に紹介したい方がいます!…きっと気が合いますよ〜!」
その人物の所に行けば徘徊することなく、長谷部をそこに連れて行けばよいと名案したプリンセス。三日月もその人物とやらに関心を持ったらしくプリンセスの後を大人しく着いていった。
しばらく、長谷部にばったり出会えないかなと思いながら本丸の廊下を歩いていたがそれも叶わず、目的の場所へと到着したプリンセスと三日月。その目的の場所とは、本丸内において桜の木がよく見渡せる縁側だった。
「鶯丸〜!」
「…ああ、プリンセスか…茶でも飲みに来たのか。」
静かにゆったりとプリンセスの方へと顔を向ける鶯丸に、やはり三日月とペースが似ていると確信を得るプリンセス。
「いやあ、私じゃなくて…こちらの先程顕現されました、三日月宗近様です。」
プリンセスの数歩後ろで和やかな表情を浮かべる三日月に鶯丸も同じような表情を浮かべている。プリンセスが紹介を終えるなり、よろしく頼む、と一言添え鶯丸の隣に腰を下ろす三日月。鶯丸も易々と受け入れた様で急須で茶飲みに茶を注ぎ入れていた。
「じゃあ、私は長谷部を捜しに行くから…ごゆっくりね。」
まるで老後を朗らかに過ごすおじいちゃんだ、と思わず表情を緩めるプリンセス。そしてプリンセスは、鶯丸に三日月を託し、その場から立ち去った。
「プリンセスは、じじぃに優しいな。」
鶯丸から手渡された茶飲みを見つめ呟く三日月。鶯丸は一度瞳を閉じ、微かに口元を緩めた。
「ああ、俺もいつも、プリンセスには世話になっている…な。」
少し間が空いたところで返答する鶯丸。三日月は何を思っているのか、瞳の奥の三日月が微かに揺れた。そして何方も言葉を交わすことなく、時の流れに身を任せて茶を啜り、今日もこの本丸は和やかだ。