「はーい、ここが最後。稽古場ね」

露天風呂、畑、洗濯場、馬小屋と案内され最後に訪れたのが木刀が激しくぶつかり合う音が響く稽古場であった。

「今日の手合わせは、確か歌仙さんと「宗三‥」
「あー、なんだ知ってるの?」


加州は自分の言葉よりも早くに、もう1人の手合わせ中の宗三左文字の名を呼んだプリンセスに問うと、うん、と流すように返事をし、茫然と宗三を見つめるプリンセス。

稽古場に訪れた加州達に気づいたのか、歌仙と宗三は手合わせを中断させ其方に目を向ける。

「宗三!」

手合わせによって汗が滴りそれを拭く宗三は、久しく聞いた自身の名を呼ぶ声の方に目を向ける。

「プリンセス、やっと会えましたね。」
「‥うん‥そうだね‥相変わらず、元気そうで良かった。」

少しぎこちない空気の流れる二人の会話に大和守は何か言いたげな表情を浮かべ加州の耳に口を寄せる。

「ねえねえ、宗三さんとプリンセスさんってどういう関係なんだろう‥」
「‥‥さァね。気になるなら直接自分で聞いたら?」

えー、と加州に聞いてくれと頼むように言葉を零す大和守に加州はため息をついた。

「もしかして付き合ってたりして」
「ああ〜!あり得るかも!」
「馬鹿か、俺らは一昔前まで刀だったつーの」

そっか、と眉を下げ頭をかく大和守に加州は更に呆れたようにため息をつく。
そしてもう一度、プリンセスと宗三、2人の方に目を向けると何やら2人で話しているようだった。その会話の内容はわからないが、どこか2人が親密な仲であると言うことは伝わって来た。


そして本丸の案内が完了し、プリンセス達は昼食をとっていた。
大和守は、ふと、プリンセスに先ほど抱いていた疑問を投げかけるかどうか悩んでいた。

「あの!ところで、プリンセスさんは長谷部さんや宗三さんとどの様な関係柄なのでしょうか?」

食器の中の飯が空になり食事を終えた時、大和守が何気無く問いかけた。するとプリンセスは持っていた箸を置き口元を拭う。

その場にいた、鶴丸、陸奥守、燭台切達はプリンセスが言葉を出すのを黙って待つだけだった。

「私は、元々は織田信長様の刀だったの。」

その頃、この本丸の主が所在する上層部において長谷部が何やら密談していた。

「そうですか!‥プリンセスはそんな事を‥!‥やはり前の主の事が心に未だ残っているのか‥」

プリンセスに同情する気持ちもありながらも、少し冷ややかな表情を浮かべる長谷部に主は伝える。

「‥!‥わかりました。その様な先陣で‥主‥今回は手厳しいと思われます。」

長谷部は背中越しに主のいる襖の奥に向かい苦い言葉を呟いた。

「だから、お二人と仲が良いんですね」

納得したように大和守は言葉を零す。するとプリンセスはそれに頷く。

「しかし私が心に思う主は、お市様ただ一人‥」

プリンセスから出た「お市」という名にその場にいた者のほとんどが頭にハテナを浮かべる。

「織田信長の妹、お市。戦略結婚により浅井家、浅井長政に嫁いだと言われているよね?」

皆、燭台切の方へと目を向ける。プリンセスはその言葉に、コクリと頷いた。

「お市様が浅井家に嫁ぐ際に私は信長様からお市様へと託されたの。」

長い廊下を一定のリズムで歩く長谷部。すると途中、縁側において宗三と薬研が並ぶ様に腰掛けていた。

「やぁ、長谷部。」
「ふっ、なんだ?懐かしい組み合わせだな」

宗三が声をかけると長谷部は少し口元に笑みを浮かべ並ぶ様に縁側に腰掛けた。

「やっとプリンセスが来たな。」
「ああ、そうだな。」
「そうですね。」

薬研が口にすると長谷部と宗三はどこか遠くを見つめ言葉を返す。

「プリンセスは主にこう言ったそうだ。」

ー私は、一度もヒトを斬った事がありません。ずっと懐で守り刀として納められていただけの刀です。
しかしただ一度、お市様が、自害する際、私がその役目を果たしました。ー

「私は、お市様の為だけにある刀。あのお方以外、私は主など受け入れられない…」

少し伏せ目がちに呟くプリンセスにその場にいた皆がただ静かに見守るだけだった。すると静かな空気が流れる中に襖の開く音が響いた。皆そちらに目を向けると、そこには長谷部、その後ろに宗三と薬研がいた。

「出撃だ。場所は、静ヶ岳だ。」
「!‥それって‥」

長谷部の言葉にプリンセスは自身の耳を疑う様に立ち上がる。

「ああそうだ。静ヶ岳の戦い!」
「時間遡行軍は、どうやら柴田勝家をあの戦で勝たせるみたいだ。」

長谷部につづき予測を口にする薬研。プリンセスはその言葉に更に目を見開く。

「それって、北ノ圧城で柴田様とお市様が自害しないという歴史になるってことよね…?」

プリンセスの少し喜びの感じられる口調に宗三がハの字に眉を下げ口元に笑みを浮かべる。

「プリンセス、出陣まで少し時間があります…久々に話しませんか?」

宗三の言葉にプリンセスは長谷部、薬研を瞳に捉えてからコクりと頷いた。