同居人の男士


夜の静けさが深まる中、プリンセスは入浴も終えて、太陽の香りがふわりと体を包み込む布団に入り枕元に肘を立て顎を預け就寝前のひと時を過ごしていた。

一つ大きなあくびをしたのと同時に襖が開かれた。プリンセスは襖の方に目を向け、ようやく戻ってきた同居人にやんわりと笑みを浮かべる。

「主お世話係さん、遅くまでご苦労様」

少々疲労を思わせる顔つきで、参ったと言う様な表情でプリンセスに笑みを返し、一つ溜息を零す長谷部。

「ありがとう。…しかし、今日も主はこの長谷部が注意喚起したにも関わらず…」

昨日も一昨日もか、いや、プリンセスがこの本丸に顕現されてから毎晩の様に長谷部の主ぼやきを聞かされているプリンセス。苦笑いを浮かべながらも、所々相槌を打ったりと関心を持って聞いていた。

「私、長谷部から聞く主様のお話し好きだよ。…何だか嬉しそうだし。」

「いや!俺は嬉しいというか…いやしかし!この長谷部に厚い信頼を寄せているからこそ…」

プリンセスの隣に並べられた布団に入りながらも続く長谷部の主ぼやき。次第にプリンセスの瞳が伏し目がちに遠くを見始めた。

「主お世話係は、この長谷部にしか成すことが出来ない!」

「…でもね!」

熱意の籠った口調で言葉を発する長谷部にプリンセスは声を上げた。その声色は少々知から強く、憤りを感じられ、長谷部は、しまった、という様に体を起こしプリンセスに目を向ける。プリンセスは、枕元に腕を伸ばし、そこに頭を預け上目に長谷部を捉えた。そしてようやく自分の事を見てくれた、と少し悲し気に口角を上げた。

「そんなに主様のお話しばかりされちゃうと、嫉妬するよ?」
「!プリンセス!」
「…なんちゃって」

プリンセスの言葉にじわじわと長谷部の頬が赤く染まってゆく。それを見てプリンセスは吹き出すように笑った。そんなプリンセスとは対照的に、思わず取り乱してしまった事に冷静を取り戻す為、コホン、と息を整えるが微かに口元が緩んでいる。

笑い疲れた様に、ふう、と一息つきプリンセスは、もう一度長谷部を真っ直ぐに見つめる。

「…この部屋も随分と寂しくなっちゃったね。」
「…そうだな。」
「以前までは薬研も宗三も、皆でここで過ごしてたのに…ね。」

どこか懐かしむ様に口を歪め瞳を閉じるプリンセス。プリンセスが顕現してから随分と月日が流れた。この本丸で過ごす刀も日に日に増えていき、その中で薬研、宗三の兄弟達も顕現されたのだ。

「…長谷部は、」

プリンセスの瞳は力なく長谷部を見つめる。

「長谷部はいなくならない…でね…」

そう告げるとプリンセスの瞳がゆっくりと閉ざされた。長谷部は、僅かに乱れたプリンセスの毛布を整え、髪を撫でる。プリンセスを見つめる長谷部の瞳は、プリンセスを慈しむ様に悠然としていた。

「…ああ、当たり前だ…」

自分の言葉が、こうして幸せそうに眠るプリンセスの耳には届いていないだろうと小さく苦笑する長谷部だった。