主の命


 堀川と陸奥守が浪士たちの動きを追う一方、和泉守、薬研、蜻蛉切、プリンセスも、もう一方の襲撃の段取りを行う巣窟を注意深く視察していた。
 そして、こんのすけの浪士たちが動き出したという情報を聞き届け、遡行軍討伐を旨に刀を握った。

 霧がかった夜闇の中、プリンセス達は奴らが現れるのを待った。プリンセスは静まり返った空に浮かぶ月を見上げ、瞳を閉ざし、空気を大きく吸い込んだ。そして、僅かに風向きが変わった時――

「来た――。」

 閉ざしていた瞳を開け、奴らを目に捉えた。奴らの断末魔が唸りを上げた瞬間、プリンセス達は刀を抜き、遡行軍に斬りかかった。

 そして、捕り方たちが滞りなく動ける段階まで時間遡行軍を斬り倒した頃、堀川と陸奥守も合流し、第二部隊総員で力を駆使た。

 夜明け頃、最後の一体を惜しみなく和泉守と陸奥守が共に斬り裂いた。プリンセスは、それを横目に見つめ、思わず口元を緩めた。そして静かに刀を腰差しに仕舞った。
 その間に繰り広げられる和泉守と陸奥守の言い争いを、薬研、蜻蛉切はジッと見据えていた。そして堀川は二人のやり取りに思わず笑みを浮かべた。

「やっぱり二人は似た者同士だね」
「「はぁ!?」」

 和泉守と陸奥守の息ぴったりのお互い否定するかのように上げられた声に、プリンセスは思わず顔を綻ばせた。

「賑やかな部隊になりそうだ」
「フッ。上等だ」

 そして蜻蛉切と薬研も第二部隊としての前向きな発意を口ずさんだ。プリンセスは、いつの間にか出来上がった彼らの輪に心なしか少し寂しさを感じた。
 すると薬研がそれに気づいた様子でプリンセスに目配せた。

「姉御…あんたも今は、第二部隊の一員だろ」

 薬研は僅かに口元を緩めいった。プリンセスは彼の言葉に思わず泣きそうになってしまい、誤魔化す様に瞳を細め、そうね、と口ずさんだ。

 そして、賑やかな輪の中に「みなさーん」
ふわりとした声でこんのすけが跳ねる様に駆けてきた。こんのすけは心底穏やかな表情を浮かべている。

「浪士達は全員捕り方に捕まりました。歴史の改変はありません…それと審神者様から連絡がありました。新たな指令です」

 こんのすけの報告に、前半は皆、安堵した様子で息をついたが、後半の主からの新たな指令には、皆、驚愕の声を上げた。そんな主の鬼畜さを知っているプリンセスは、相変わらずだなと苦笑した。

「人使いが荒いがやないかやあ!?」
「ぼ、僕に言われても…」
「そうよ…主様は大層、この部隊を気に入ったってこと…喜ばしいんじゃない?」

 非難を浴び、困った様に肩を竦めるこんのすけをプリンセスは抱きかかえ、第二部隊一同を見渡した。そんな彼女の助け舟に救われたこんのすけは更につづけた。

「ですが次の時間跳躍は3日後に行います。それまで各自ゆっくり休息を取れと――。」

 こんのすけの言葉に皆は思い思いに願望を零した。プリンセスは今までに感じた事のない――任務完了後の和やかな空気に自然と顔を綻ばせていた。そして、単独任務も良いが、部隊で動くのも良いかもしれない、とひそかに思った。