料理男士


「プリンセスは、包丁の使い方が上手だね。」

畑から取れた新鮮な野菜を切っていると、燭台切光忠がプリンセスの傍からその作業を覗く。

プリンセスがこの本丸に来て数日。だいぶここでの生活も慣れた頃、本日の内番で、炊事担当に燭台切とプリンセスが選ばれたのだ。

「そう?‥燭台切に言ってもらえると嬉しいな」

料理上手の燭台切、クールなルックスからは想像も出来ないほど優しい口調の彼。今まで関わって来た刀剣、長谷部や宗三、薬研とは違ったその雰囲気に少々心が落ち着かないプリンセス。そして今も、ニコニコと笑みを浮かべながら切ってる姿を見られるものだからプリンセスは緊張してしまい野菜を切る手が止まる。

「燭台切、そんなに見られると切りにくい‥」
「あー!ごめん、ごめんね、あまりにも美しい切り口だったからさ」

燭台切の口調はどこか楽しそうだった。やっと離れた燭台切、プリンセスは一息つき作業を再開する。

どちらも言葉を交わすことなく、淡々と準備をする2人。プリンセスは野菜を切り終え、それを水の沸かした鍋に入れる。味付けをすれば、温かい、良い香りのする味噌汁が出来上がった。

「うん‥出来た!」

初めての料理の割に、良い出来前に1人満足気に声を上げると燭台切がクスクスと笑う。
自分1人がこの空間にいる訳ではないことを思い出し恥ずかしくなり頬が熱くなるのを感じるプリンセス。

すると、燭台切は自分が作っていた何やら主食の品を一口サイズに箸で持ち、プリンセスの前にやって来た。

「はい、口開けて?」

目の前にやって来た燭台切の言葉に、頭の中でその言葉を理解するのに時間がかかり呆気にとられるが、言われるがままロボットのように忠実にプリンセスは口を開けるとそのまま口に、旨味が広がった。

美味い、美味いともぐもぐ口を動かしていると燭台切は笑みを浮かべる。

「まるで、小動物みたいだね」

燭台切の言葉の意味をどう捉えたら良いのか分からないまま、プリンセスは咀嚼を終えゴクンと流し込む。

「すごく、美味しい‥」
「良かった。プリンセスは美味しそうに僕の料理を食べてくれるね」

口元を押さえ、感激と共に目をキラキラ輝かせ率直な感想を言う。僕も嬉しいよ、と満面の笑みを浮かべる燭台切にプリンセスもつられて笑んだ。

しばらくして、燭台切は表情を整え、そのゴールドの瞳をプリンセスに向けた。その表情の変化に目を晒すことができない。

「今日は、長谷部くんの監視の目がないからね」
「え‥」

燭台切の言葉にプリンセスは何と言葉を返したら良いか分からず、自分よりも背の高い燭台切の目を見つめることしか出来なかった。なんでもないよ、と燭台切は笑みを浮かべ、食事の配膳に取り掛かる。