茶男士と畑仕事


今日も長閑な雰囲気が流れる本丸。プリンセスは、眩しい陽の光を避けるためタオルを目元ギリギリまで巻き付け畑作業に勤しんでいた。

「畑仕事‥1番やりたくなかったのに‥」

嫌味を吐きながらも、長谷部の言葉に従い、何かと真面目にプリンセスは熟した野菜の背丈に合わせ収穫してゆく。
ふう、と一息つきプリンセスは曲げた腰を伸ばし、ある場所に目を向けた。

「鶯丸さん!!!お茶飲んでないで一緒にやってください!!!」

呆れた様な表情と共に少々強めに声を上げるプリンセス。本日の畑当番は、プリンセスと昨夜この本丸にやってきた鶯丸であった。
しかし、その鶯丸というと畑の傍で1人茶を飲みプリンセスの姿を眺めているだけだった。

「‥プリンセス、良い働き振りだ。大変勤しんだ後の茶は美味いぞ」
「上手く丸め込まないで下さい!それを楽しみにやってますけど!手伝って!」

鶯丸の言葉にプリンセスは更に辛辣な口調で声を上げるも、まるで聞こえていないかの様に鶯丸は静かに茶を飲み続けるだけだった。

「もう‥昨夜来たから仕方ない‥仕方ない‥」

プリンセスは込み上がる怒気を抑制する為に自分に言い聞かせる様に言葉を吐きながら収穫を続ける。

プリンセスの作業風景を茶と共に眺めている鶯丸だったが、ただ眺めているだけでは無かった。

「刀剣女士か‥。」

この本丸の刀剣達との顔向けの際、プリンセスを目にした時、鶯丸はプリンセスを中性的な男、更に刀剣だとは思っていなかった。しかし刀剣だと知らされた際には、普段からあまり動じることのない鶯丸でさえ驚きを隠せなかった。

「むさ苦しい男しかいないこの本丸において、プリンセスは皆の癒しか‥」

瞼を閉じ、口元に微かな笑みを浮かべ
茶を一口啜り鶯丸は、独りでに呟く。

「鶯丸!、交代です‥」

少々不貞腐れた様な口調と直球に自身の名前を呼ばれ、視界を閉ざしてる分、耳によく伝わって来た鶯丸はゆっくりと目を開ける。

鶯丸の目に映ったプリンセスは、目元ぎりぎりまで覆っていた布を下ろし、その頬は赤く染まっており、まるで怒気が頬に溜まっているかの様に膨らんでいた。そんなプリンセスに、ふと鶯丸は、はっ、と何か思いついた様な表情を浮かべた。

「ふっ、良い顔だ」
「なんでふか、うぐいふまるさん」

鶯丸は、静かに茶の入った急須を置き、突然プリンセスは両頬を摘まれたのだ。

しばらくしてプリンセスの頬から手を離し、鶯丸は満足げに笑みを浮かべ立ち上がる。立ち上がるとやはりプリンセスよりも遥かに背丈が伸びる鶯丸。
プリンセスは、ようやく解放された頬を撫で、何かを訴える様に自身より背の高い鶯丸を上目に見上げる。

「プリンセス、君は俺にとっての癒しになりそうだ。」

鶯丸は、しれっと爽やかな笑みと共にプリンセスの手から網かごを取り、まだ収穫の終えていない畑の方へと向かっていった。