効果覿面


「燭台切!どうしたら良いかな!?」

朝の炊事場で、私は項垂れる様に声を上げた。そして燭台切は朝食を作っている最中で味噌汁の味を確かめながら私の声に耳を傾け苦笑いを浮かべている。笑い事じゃないのだ。

「真剣なんだよ!」
「分かってるよ」

頬を膨らませ、いじけた様な目を向ければ困った様に笑みを浮かべる燭台切。どうやら朝食は全て出来上がった様でエプロンを外し、私の隣に腰掛けた。

「どうしたら、大倶利伽羅が他の刀剣達と仲良く出来るか…かなり大きな問題なんだよ…」

そう私がなぜ燭台切に必死に相談しているのかというと頭を悩ませている原因が、近頃顕現した大倶利伽羅だからだ。どちらも昔、伊達政宗の刀だった事から昔馴染みならば解決策を編み出してくれるだろうと思ったのだ。

「う〜ん、そうだね…確かに伽羅ちゃんはあまり周りの子と親しくなりたい感じではないよね」

その言葉に更に私はどうしようもない気がして大きな溜息をつく。顎に手を添え考える様な仕草をする燭台切 。そして、その隣で腕を組み顔を渋める。

しばらくどちらも言葉を発する事なく静かな空気だけが流れていた。

「…あ!」
「な、なに!?」

突然何か思いついた様に声を上げる燭台切にビクッと肩を跳ねさせ、隣に座る燭台切を見つめる。すると燭台切はニコッと笑みを浮かべ手をおいでおいでとする様に小さく降る。恐る恐る耳を寄せると誰にも聞こえない様な声で耳打ちされた。

「ほ、本当にそれだけで良いの…?」
「うん!効果覿面だと、僕は思うよ」

伝えられた内容に、半信半疑な表情を浮かべれば自信ありげな言葉と共に親指を立てる燭台切。

「まあ…昔馴染みだし…一番よく、大倶利伽羅の事を分かってる燭台切の案…やってみましょう…」

期待を胸に抱く様に強い眼差しを燭台切に向ければ、ずっとニコニコしているだけだ。なんだか、少し不審である。

「じゃあちょっと大倶利伽羅の部屋に行ってくるね!」
「うん!いってらっしゃい」

軽く手を振る燭台切に背を向け私は炊事場から出て本丸の長い廊下を歩く。大倶利伽羅の部屋に向かう間も燭台切の案に本当に大丈夫なのか、と少し不安な気持ちが芽生えてきた。そしてまた1つ大きな溜息をついた時、丁度曲がり角でそのままボンッと誰かに当たりその衝撃で体がよろけた。倒れる、そう思ったのだが背に衝撃を受ける事は無かった。

「あ、ありがとう…」
「…俺こそ、気づかなくてすまない…」

私の腕を取り体を支えてくれたのは、大倶利伽羅だった。何て絶好のタイミングなんだ、と一人胸が騒ぐのだが冷静にと心の中で言い聞かせる。

まだ掴まれたままの腕を見つめる。そして大きく息を吸った。

「ねえ、大倶利伽羅。」

燭台切に言われた通りにやろうと、意識し過ぎて喉に言葉が詰まってしまうのではないかと思ったが意外にもよく通る声が出た。大倶利伽羅が名を呼ばれ微かにハッとした様な仕草をした気がした。

「私からのお願いなんだけど…」

丁寧にゆっくりと一言一言口にする。そして一度瞳を閉じ、深呼吸をして瞳を開いた。そしてなるべく燭台切に言われた事を意識して、いや、身長差があり過ぎて意識しなくても上目遣いになると思いながら大倶利伽羅の瞳を見つめた。

「なるべく、周りの皆んなと交流をとろう…ね…?」

言葉を発した後、大倶利伽羅はハッと目を一度見開き、私の腕を掴む手を離し口元を隠しそっぽに顔を向けた。微かに頬が赤く染まっている気がする。

あれ。これで良いのか。しっかりと燭台切に言われた通り、上目遣いに瞳を見つめたのだが、何も発してくれないぞ。

「…燭台切は、何処にいる」
「あ…炊事場…です…」

未だ頬を微かに赤く染めて控えめに私を見る大倶利伽羅に返答すると、颯爽と恐らく、炊事場に行ってしまった。

「…本当にこれで大丈夫だったの…」

そして一人廊下に取り残された私はポツリと言葉を零し、大きく溜息をついた。


ー ー ー ー

「おい!燭台切!」

頬は赤く染まり、羞恥のこもった表情で燭台切に迫る大倶利伽羅。燭台切は爽やかな笑みを浮かべていた。

「どうだった?」
「どうだったではない!…あんな事一生させるなよ…」

顔をそっぽに向ける大倶利伽羅に燭台切は何処か満足げにニコッと笑みを浮かべた。

そして他の刀剣達が目覚め、次々と食事場の席に着く中、大倶利伽羅もやって来た。チラッと大倶利伽羅を見れば一度此方に目を向けたが直ぐに視線を晒されてしまった。しかし、ゴホンっと息を整え皆に目を向ける大倶利伽羅。

「…おはよう」

大倶利伽羅が発した一言に皆、唖然としたのだった。私も目を見開き燭台切に目を向ければニコッと笑みを浮かべていた。

どうやら、燭台切の言った通り、プリンセスが大倶利伽羅にした行動は効果覿面だったらしい。